Vol. 3(1999/4/25)

[今日の本]生かして防ぐクマの害

[DATA]著:米田一彦(まいた・かずひこ)/発行:農村漁村文化協会(農文協)/価格:2200円/ISBN4-540-98021-1/初版発行日:1998年6月10日

[SUMMARY]ツキノワグマと平和に暮らすために

日本に生息するクマ(ヒグマとツキノワグマ)は山林の縮小や人間の活動範囲の拡大で人間との接触機会が増え、人身被害もでたりしているが、有害だからといって捕殺すると一気に絶滅してしまうおそれのある地域個体群もあり、事態は単純ではない。本書では、特にツキノワグマをとりあげ、その生態と被害例、被害対策を詳細に解説している。

[COMMENT]感動的ツキノワグマ実用書

同書は日本のツキノワグマについて最もよくまとまった「実用書」であることは間違いありません。ツキノワグマの現状について、多くの事例を基に詳しく書かれています。
この本、実用書ではあるのですが、なぜか妙に感動的なのです。それは著者の主張が同書のあちこちで現われてるためなのです。そして、その主張は
「クマは公有財産である→無用な捕殺はすべきでない」
「クマとの共存が必要」
「現実的に発生する被害を防ぐために組織的な取り組み(行政・立法も含む)が必要」
と常に一貫しており、豊富な事例とあわせて非常に説得力あるものとなっています。このような内容ですので「要するに環境保護の話ね」と思われるかもしれませんが、被害者側の視点についても言及されており、かなり公平かつ現実的な内容になっています。「すべてのクマを絶対殺すべからず」ではなく「人畜有害個体は捕殺もやむなし」という考え方にそれが反映されています(人里におりてくるクマはそれが常習化し、繰り返し被害を与えるので殺すしか方法がない場合がある)。
同書でもうひとつ感動したのは、クマの被害対策と防除法にかなりのページを割いていることです。調査方法から始まって、役に立つあるいは立たない防除法まで、実際に試した事例を多数紹介しています。現場を知る人だからこそ書ける貴重な資料と言えるでしょう。


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