Vol. 12(1999/7/25)

[今日の本]ネズミに襲われる都市

ネズミに襲われる都市/都会に居座る田舎のネズミ
[DATA]著:矢部辰男/発行:中央公論社(中公新書1423)/価格:680円/ISBN4-12-101423-5/初版発行日:1998年6月15日

[SUMMARY]都市に巣食うネズミの歴史と駆除

日本の大都市はクマネズミに占拠されている。ネズミ駆除の歴史やネズミ駆除の現状を報告。また、各国のネズミを調査した話からネズミの習性にもせまる。そして、札幌でクマネズミが減少している理由を検証し、ネズミ駆除の改善方法を提案している。

[COMMENT]あなたの隣にそれは居る

1年以上前に発行された本ですが、いつか紹介しようと思っていました。前回のタイワンリスの記事を読んでいて、思い出したのがこの本なのでした。タイワンリスの記事では、タイワンリスが電線を伝って移動する話が紹介されています。この本ではクマネズミが電線を伝ってビルからビルへと移動しているらしいという話が載っています。残念ながら、著者自身は目撃していないのですが、目撃例、あるいは外国の街並みからの類推で電線移動を確信しています。その検証実験をやろうとしたのですが、まだ結果は出ていないようです。それにしても、リスもネズミも齧歯目。電線を伝うくらいは簡単なことのようです。リスとネズミの生態は似ているところも多いのかもしれないなと思ったのでした。
さて、この本の面白さは、ネズミ駆除の現場を紹介するくだりです。ネズミ被害の調査、罠などの捕獲装置、ネズミバスターズ(ネズミ駆除業者)の歴史と活躍(と問題点)、などなど。詳しくはこの本を読んでいただきましょう。私たちの生活のすぐ近くで、ネズミと格闘する人たちがいるとは知りませんでした。それもそのはずで、ネズミ駆除の作業は、閉店後開店前の夜間に行われる作業ですし、ネズミがいることが知られると評判が落ちるのは目に見えてますので発注側も公にはしたがりません。あのビルにもこのビルにもネズミがいるのかもしれない…そうなんです、いつも私がいう事なんですが、やっぱり「自然(野生動物)はそこにある(いる)」のです。
この本にはネズミウォッチングの方法も紹介されています。ネズミそのものだけでなく、その痕跡、例えば巣、糞尿、足跡、かじり跡などの見つけ方も書かれていて非常に実用的と言えるでしょう。私も機会があればネズミ駆除の現場を見てみたいものです。
この本の著者は神奈川県衛生研究所に勤務しており、ネズミの学問的研究とネズミ駆除の研究を行っており、その現実的な視点がこの本の執筆にも活きています。


[いきもの通信 HOME]