Vol. 25(1999/11/14)

[OPINION]出版から見る生物

今回はVol.20の続きです。

さて、前回は日本人は動物が好きが多い、ということを書きましたが、今回は出版という立場から日本人と動物のかかわりを見てみます。
はっきり言いますと、動物関係の本はあまり売れません。ベストセラーのリストを見ても、文芸・文学書(フィクション一般も含む。文学が落ち目だなんてことはありません!)、ビジネス書といった本ばかりで、自然科学関連、中でも動物・植物ものが顔を見せることはまずありません。実際、大きな書店に行っても生物分野の棚面積は広いとは言えません。また、並べられている本を見ても、ジャンルがばらばらで、特に飛び抜けた話題が無いのも特徴です。ジャンルがばらばらなのは、動植物のバリエーションが非常に多いためと、マクロ(生態学・行動学など)からミクロ(遺伝子)まで視点が幅広いためでもあります。時には、ちょっとしたブームが起こることもありますが、人それぞれに興味を持つジャンルが異なるので(生物全般に興味を持つ人は少ない)、大ブームまでに発展することはありません。

そんな中でも「定番」といえるようなジャンルがあります。
図鑑。生物本の基本中の基本、定番中の定番です。図鑑類はいろいろな種類が出ていますが、中にはかなり古いものをそのまま出し続けているものも多いので、注意が必要です。「古くても問題ないでしょ?」というのは間違いで、生物学の世界でも日々新しい発見があり、かつての常識がひっくり返されることもあります。また、古い図鑑だと写真やイラストの質が現在よりも劣ります。ただ、最近は図鑑類の出版は減っています。制作に時間もお金もかかることがその第一の理由です。また、最近は図鑑を買う人も減っています。30年ぐらい前なら、一種の「教養」として家庭に図鑑・事典を一揃えすることも多かったようですが、今ではそのようなこともなくなりました。
 図鑑のバリエーションとして児童書、つまり子供向け図鑑というものあります。教育的にはやはり動植物は欠かせないようで、それなりの需要もあります(その分、競争も激しい)。
写真集。動物写真はジャンルとして確立していますし、優れた写真家も多くいます。ビジュアルとしても動植物は非常に面白い素材です。ただし当然のことながら、タレント・アイドル写真集あるいはヌード写真集にはまったく勝てません。
ペット。これもまた意外と多い。普通の人が動物と接する最も切実な場合がペットの問題なのでしょう。逆に興味のない人には全く関心を持たれない種類の本でもあります。漫画飼育日記的なものが最近増えてきました。

このように出版から見てみると、積極的に動物とかかわろうという人はかなり少ないのではないか、と言えるでしょう。Vol.20では「日本人は動物好きだ」と書きましたが、この現状を見る限り、日本人の「動物好き」は表面的なものかもしれないと思えるのです。私には、日本人は自然保護・環境問題に対しての関心が低いように見えるのですが、これは動物(あるいは生物一般)への関心の低さと相関しているのではないかと思うのです。


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