私が東京都23区内に生息するタヌキに興味があることは以前にも書きましたが、この冬、タヌキが移動したと推測されるルートを実際に歩いてみました。今回はその報告です。
なお、今回はタヌキそのものの発見ではなく、移動ルートの検証が目的ですので、タヌキそのものは探索しませんでしたし、実際に目撃することもありませんでした。また、生息可能かどうかを詳細に調べたわけではありませんので、報告の内容は厳密性に欠けます。今回の報告では具体的な地名を意図的に隠していますが、これはタヌキを見せ物にしたくないための配慮です。
以上の点をご了承ください。
以前私がタヌキ・ファミリーを目撃したのは東京都世田谷区の環7(環状7号線)に近いところでした。彼らは昔からそこに住んでいたのではなく、郊外からここまで移動してきたと推測されました。では、一体どうやってここまで来たのでしょう。東京都23区やその周辺は自然も少なく、交通量も多いため、安全にここまで来るのはかなり難しいはずです。しかし、現にこうして存在するからにはかなり安全確実な移動ルートが存在すると思われます。
まずはそのルートの推定をしてみました。推定の道具として道路地図をじっくり眺めてみました(最近の道路地図はカラー印刷で細かい目標物も掲載されているので、国土地理院の25000分の1地図よりも使いやすい)。
私が注目したのは、郊外からタヌキ目撃地点に来るまでの最大の難所「環8(環状8号線)」でした。環8は昼も夜も交通量が多く、ここを突破するのはかなり難しいと推測されます。そこで環8を安全に突破するルートはあるのか? ということにしぼって地図を再検討してみました。そして、かなり安全なルートが2つあることを発見しました。
ひとつは「鉄道の線路」です。環8には踏切がなく、鉄道線路とは立体交差しています。これなら交通量とは関係なく楽々突破できます。
もうひとつは「川」です。川は橋の下を流れますから、これも安全に道路を越えることができるのです。実際のタヌキ目撃地点に近い鉄道と川として、今回候補に挙がったのが「京王井の頭線」と「神田川」です。そこで今回、両経路を実際に踏破してみることにしました。
これらの経路の起点はいずれも井の頭公園(東京都武蔵野市/三鷹市)です。井の頭公園に実際にタヌキがいるかどうかはわかりませんが、郊外から来たタヌキの中継点になっている可能性は高いと推測できます。京王井の頭線
井の頭線は吉祥寺〜明大前〜渋谷を結ぶ路線です。井の頭線はほとんど高架になっていないため、線路への出入りは非常に容易です。起点である井の頭公園からも簡単に線路に入ることができます。路線の途中にあるちょっとした雑木林や車両基地はタヌキの寝ぐらには都合が良さそうです。また、駅周辺には商店街も多いため、残飯にありつくことも難しくないでしょう。
道路との交差は、環8では高架で、環7では道路の下をくぐる形で交差しているので、タヌキでも問題なく移動できます。
今回の踏破では実際には渋谷までは行きませんでしたが、タヌキの移動経路としては非常に有望に見えました。神田川
神田川は源流の井の頭公園を出発し、都心部をかなり複雑に曲がりくねりながら隅田川に注ぐ川です。今回は井の頭公園から明大前付近までを歩きました。
神田川の場合は起点から問題がありました。というのも、神田川はほぼ全流域で両岸がコンクリートで固められているのです。岸は垂直で、鉄はしごでしか降りることができません。つまり、タヌキは神田川には降りることも登ることも不可能なのです。また、水位が高い所もあって、タヌキが歩いて移動できるような場所ではありませんでした。
私の結論は、「神田川ルートでの移動は不可能」ということでした。以上で当初の予定は踏破したのですが、地図を見てもうひとつ気になったルートがありました。それは玉川上水です。追加としてここも踏破してみました。
玉川上水は、江戸時代に上水道として建設された水路で、東京都羽村市の多摩川から導水をしています。
今回はその玉川上水の井の頭公園〜富士見ヶ丘までを歩きました。このあたりの玉川上水は流れが狭いのですが、両岸は自然のままの状態が残っていて、カワセミ、コゲラ、ゴイサギなどが生息しているほど環境がいい場所です。タヌキが生活するには厳しいかもしれませんが、植物が生い茂っている様子はタヌキ好みの環境と思われました。
ただし、玉川上水は富士見ヶ丘で中央自動車道の下に潜るので、その先には進めなくなってしまいます。ひょっとしたら、玉川上水近辺の緑地にタヌキが潜んでいるかもしれないとも感じました。今回の探査では鉄道の線路がタヌキの移動経路として有望であるということを確認できました。今回は井の頭公園をタヌキの中継点と仮定しましたが、「鉄道線路」説が有望となると、もうひとつの移動ルートが浮かび上がります。それは「京王線」です。京王線は新宿〜調布〜八王子/多摩に伸びる路線で、明大前駅で京王井の頭線と交差します。こちらの京王線もあまり高架化が進んでおらず、タヌキの移動ルートとしては悪くなさそうです。そして、もうひとつ重要なのが、京王線は多摩川と交差しているということです。多摩川にはおそらくタヌキが生息していると思われ、そこから京王線の線路づたいに都心に移動してきた可能性が考えられるのです。次回のタヌキ移動ルートの探査ではこの京王線を調べてみたいと考えています。
(ただし、それがいつになるかはわかりませんが…。)
もし本を作るとかきちんとした目的があれば、聞き込みや取材なども行って丹念に調査をしたいところなのですが、失業者の身分ではそれもできません。それでも「都会のタヌキ」というのはなかなか興味深いテーマです。今後も少しずつ少しずつ掘り下げていくつもりです。