Vol. 47(2000/5/28)

[今日の本]世界哺乳類和名辞典

世界哺乳類和名辞典
[DATA]
監修:今泉 吉典(いまいずみ・よしのり)
発行:平凡社
価格:22000円
初版発行日:1988年8月20日
ISBN4-582-10711-7

[SUMMARY]20目、132科、1058属、4282種を網羅

全哺乳類種の分類、学名、和名、英名、ドイツ語名、フランス語名、簡単な解説を収録した辞典。分類はC.B.Corbet, J.E.Hillによる「A World List of Mammalian Species」(第2版、1986)に基づき、監修者が一部修正している。

[COMMENT]基礎データが入手できないという現状

先日ある調べものをしていて(最近調べものばかりなのですが)、どうしてもある哺乳類の学名の確認をしなければ、という事態になってしまいました。その時思い出したのが、この「世界哺乳類和名辞典」でした。この本は以前、哺乳類関係の出版物を担当した時に非常に役に立った便利な本だったからです。しかし、当時その本は会社の備品、今回はまずこの本を自分で探さなければなりません。しかし、この本は本屋にはまず置いてない希少本なのです。なにしろ出版されたのは10年以上前、しかもその後再発行はしていないようで、今では入手が非常に困難な本になってしまっているのです。こういう時は古本屋しかない……もちろん、古本屋といっても普通の古本屋ではだめです。私が期待したのは東京の古書店街、神保町の某理系専門古本屋。ここに行けばあるかも…と少しの希望を持ちながら行ってみました。そして…ありました、ありました! やった〜! あのあこがれの本が入手できるなんて、本当にうれしいことでした。しかも古本屋だから、定価よりも安く買えました。

こうして、久しぶりにこの本を眺めたりしているところなのですが、うんうん、本当にいい本ですよね。これさえあれば哺乳類の基本的なデータがすべてわかります。学名、和名がほぼ完全に記載されています。収録数は20目、132科、1058属、4282種。発行当時の資料としてはほぼ完璧でしょう。その後、新種が発見されたり、分類学上の論争が続いていることを差し引いても、現在でも十分に通用する資料です。亜種についてもちゃんと書かれています(ただし、シマウマ3種については亜種の記述が無いのが不思議)。
この本で調べれば、ゴールデンハムスターの学名が「Mesocrietus auratus」ということがわかりますし、ドワーフハムスターの仲間はゴールデンハムスターとは異なる属「Phodopus(ヒメキヌゲネズミ属)」であることもわかります(そんな知識が何かの役に立つわけではありませんが…)。

こんなにいい本なのに、再版も改訂も無く放っておかれているというのは非常にもったいないと思います。この世の中、何でもモノや情報はそろっているように見えますが、実際は哺乳類の分類やデータをきちんとまとめた一般向けの日本語の情報源はこの本ぐらいしかないのが現状なのです。哺乳類はまだいい方で、爬虫類や鳥類でも同様のものが欲しいのですが、これが無いんですよねえ。動物関連の情報収集というのは意外と大変なんです。
現在の最新情報に基づく最新版の発行を希望したいのですが、この出版不況ではそれもかなわぬ夢なのでしょうか。出版社は売れる本さえ作っていればそれでいいんでしょうか? この本は需要がありますので、少々高くても売れると思いますよ。改訂版が難しいのなら、初版のままででも再発行してほしいものです。

私にとってはこの本は大切な宝物のひとつです。私同様にこの本を貴重に思う学術研究者はとても多いと思います。でも今はその製作作業をやりとげる人材もお金も日本には無いのでしょうか。日本という国は金持ちのように見えて、実は底が浅いんじゃないのかと思わざるをえません。


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