Vol. 57(2000/8/20)

[今日の観察]ウとカツオドリとグンカンドリとペリカン

ある暑い日、私は例によって動物写真を撮るために東京都内某公園へ行きました。そこにはカワウが2羽、つがいかもしれませんが、住みついています。そのカワウが水から上がっていたのですが、いつもと違う様子に気がつきました。口を開け、のどの皮膚を伸ばして、その皮膚をぷるぷると振動させているのです[写真A]。私はすぐに、体温を放散させているんだなと気がつきました。のどの皮膚は他の箇所よりも薄めで、この部分を細かく振動させて空気に触れさせて血流を冷やしているのです。なぜそんなことを知っているのかな、と自分自身が思ってしまったのですが、よく考えると、この光景は以前にも見たことがあったから覚えていたのです。

それは数年前のこと。当時、「ガラパゴス」についてのCD-ROM書籍の編集を担当していた時のことです。CD-ROMに収録するために見ていた未編集のビデオの中で、これと同じ光景があったのです。ただし、その鳥はウではなくアオツラカツオドリ(マスクカツオドリ)[図C]でした。このカツオドリも赤道直下の島にある巣で同じようにのどの皮膚を伸ばして振動させていたのでした。
このような行動はどの鳥でも行うものではありません。のどの皮膚が伸びるという同じ身体的特徴がなければ不可能なのです。そして、このことは普通、これらが近い種類であることを示しているのです。

ここでもうひとつ思い出したことがありました——そういえば、カツオドリはグンカンドリ[図D]と同じ仲間だったな…。グンカンドリのオスはのどを大きくふくらませることで知られています。これもウやカツオドリがのどの皮膚を伸ばすのと似たようなことです。ただし、グンカンドリがのどをふくらませるのは、メスに対して自分をアピールするためです。
一方、ウとグンカンドリにも共通点があります。1つは外見的なことです。両者の頭部を比べてみてください。くちばしの形がそっくりです。まっすぐに伸びていて、先端で鋭く下に曲がっています。目のまわりに縁取りがあるのも共通しています。グンカンドリよりもウの方が縁取りが目立つのですが、両者とも肉がついているような感じになっています。グンカンドリのオスは周りの羽毛と同じ黒色なのであまり目立ちません。
もうひとつの共通点は、水をはじくための油が無いということです。例えばウとカモが泳ぐ姿を比べてみると、ウの方が体が水中に沈んでいるのがわかります。これはウの方が重いからではなく、水をはじく油を持たないからです。カモ類など水鳥は一般に体に油を出す仕組みがあり、その油のおかげで体の大部分が水面上に出るのです。ウの場合はこの油が無いために沈んでしまうのですが、水中を泳ぎ回って魚などの動物を食べるウにとっては、油による浮力はかえって邪魔なのです。ただし、その代わりに水から上がった時には、羽を乾かすという作業が必要になります。油が出ないのはグンカンドリも同じです。普通、動物食の水鳥は水中に潜ってエサを捕獲するのですが、グンカンドリは着水するとおぼれると言われており、水に潜るどころか、水面を泳ぐことすらありません。では、どうやってエサを捕るのかというと、他の鳥が捕った獲物を横取りするのです。グンカンドリは体も大きく、飛行能力も非常に優れているので、他の鳥と空中戦になれば圧倒的に強いのです。グンカンドリはウと顔も似ていますし、油が無いという点でも同じなのですが、その食生活はまったく異なっているのです。

のどがふくらむ鳥といえば、もうひとつ忘れてはならないのがペリカン[図E]です。ペリカンはのどというよりも、くちばしの下側がびよ〜んと広がり、そこで魚をキャッチします。ペリカンとウでは違うように見えるのですが、両方をよく観察すれば、広がっている部分はくちばしの下側からのどにかけての部分であることがわかるはずです。つまり、程度の差はありますが広がる部分は本質的に同じなのです。

さて、ここまでいろいろと説明してきしたが、これらウ、カツオドリ、グンカンドリ、ペリカンは分類上は「ペリカン目」という同じグループに属しているのです。のどが伸びるという特徴は全てのペリカン目の鳥に見られるわけではないようですが、動物食であるのは共通するようです(油が出ないのはウとグンカンドリに特有のもののようです)。
外見的には必ずしも同じ仲間には見えないかもしれませんが、注意して観察すれば少しずつ似たところがあります。動物を分類する時は外見的な特徴が重要ですが、逆に、未知の動物がどのグループに属するかを推測する場合も外見的特徴が大切な手がかりになります。もし、あなたの目の前に名前も知らない動物が現れても、その外見をよく観察することでどの動物グループに属するかがわかれば、その行動や生態を予測することも可能でしょう。これは調査・研究や写真・ビデオ撮影のためにも役に立つことです。対象をよく観察すること、そして分類学の知識を持つことは現場で非常に重要なことなのです。


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