Vol. 73(2000/12/24)

[今日の事件]実験用ニホンザル密売

[ON THE NEWS]

無許可でニホンザルを飼育している業者から、実験用として大学や研究所が購入していることが朝日新聞による調査でわかった。業者は有害駆除目的で合法的に入手していたが、その飼育・譲渡には都道府県知事の許可が必要。業者はこの許可を取っていない。環境庁は実態調査を始める予定。
(SOURCE:朝日新聞(東京版) 2000年12月24日)

[EXPLANATION]

今日の朝刊に唐突に載った事件なのですが、一面トップですし、今年の「いきもの通信」は今回が最後ですのでとりあげることにしました。
実験動物にはさまざまな問題がからんでいますので、問題点を整理しながら解説していきましょう。

野生動物の捕獲

野生動物の捕獲については「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(鳥獣保護法)」で定められており、許可がなければできません。ニホンザルやクマ、シカなどが農作物を食い荒らしたりするなどの被害を与えるような場合は、「有害鳥獣駆除」として捕獲されることになります。これも鳥獣保護法で定められていることで、都道府県の許可が必要になります。
単なる狩猟とは異なり、実際に被害が発生しているため緊急性・必要性のある捕獲です。また、「有害鳥獣駆除」という大義名分があるので、堂々と捕獲できます(密猟がまったく無いとは言い切れませんが)。今回の事件のニホンザルもこの意味では「合法的に」捕獲されたようです。
ただし、野生動物の棲息状況をきちんと把握しているか、安易に捕獲に頼っていないか、という懸念はあります。捕獲しすぎて生息数が減りすぎてしまわないか。被害を出している群れとは関係の無い群れを捕獲したりして、無駄な捕獲をしていないか。捕獲をする前に、撃退するための方策を尽くしているのか。合法ではあっても慎重さが要求されるのです。

動物の飼育許可

動物の中には飼育する際に都道府県への届け出を必要とするものがあります。どんな動物の場合に許可が要るのかは、各自治体の条例などで定められています。ニホンザルはおそらくどこの自治体でも許可が必要になるでしょう。飼育の際には、飼育施設も適切なものが求められています。今回の事件の業者は、この飼育施設の整備の手間を嫌ったために、都道府県の届け出をしなかったようです。おかげで、ニホンザルたちは劣悪な環境で飼育されていたようです。
また、記事によると自治体によっては実験目的の動物の飼育を認めていないところもあるようで、業者はそれを知っていて無届け飼育した例もあるようです。

実験動物の入手

実験動物は、ネズミのような小型動物は別として、サルのような中型以上の動物を研究機関自身が飼育・繁殖していることはあまりないでしょう。そのため業者から購入する事になりますが、業者がどうやって動物を入手したかまでは気にしないことが多いようです。それらしい書類をでっち上げられればそれ以上追求することも難しいでしょう。
記事の解説では研究機関が入手方法についてもっと注意すべきだとしていますが、それにも限度があります。法的・行政的な管理の方が望ましいと私は思います。

実験動物は野生のものを使用することもありますが、人工的に繁殖させたものを使用することもあります。現在は人工繁殖させた動物を使うべきだというのが主流的な考え方でしょう。そうしないと野生の動物が乱獲によって数を減らしかねないからです。

実験動物はどのような目的で使われるか

医学の研究は理論だけでは進みません。いろいろな薬品や化学物質を投与したり、解剖をしたりしなければなりません。このようなことは人間に対して行うわけにはいきません。そのため人間の代わりになってくれる動物が必要となるのです。特に霊長目(サル)の動物は人間に近いためにとても重要な存在なのです。
一方で、動物実験は残酷だという意見もあります。しかし、完全に実験を禁止しては薬などの開発も難しくなるため、それは現実的にはできないでしょう。「可哀想だから」というだけでは動物実験を止める理由にはならないのです。それでも、無駄な実験をしないよう注意することで犠牲をいくらかでも少なくすることができるでしょう。


今回の記事は朝日新聞の調査によって判明したものです。地味な動物事件、しかし非常に多くの問題をはらんだ実験動物問題を、大マスコミがきちんと取材・報道するというのは珍しいことです(手元の切り抜きを確認してみたところ、朝日新聞は最近、有害駆除や実験動物についての記事を何度か掲載しており、継続的に取材しているらしいことがうかがえますB今回の記事は問題点もきちんと把握しており、的確な内容です。ただし、今回の記事は実験動物の問題の一部でしかないことを、マスコミも読者も忘れてはいけません。実験動物には上記のようににさまざまな側面があるのです。uミ。今回の記事は問題点もきちんと把握しており、的確な内容です。ただし、今回の記事は実験動物の問題の一部でしかないことを、マスコミも読者も忘れてはいけません。実験動物には上記のようににさまざまな側面があるのです。
実験動物は私たちの目に直接ふれる場所にいるわけではないので、あまり関心を持たれていませんが、実験動物は意外と多いのです。実験に使われるなんて残酷なようですが、医学研究や薬の開発には不可欠な存在でもあります。どこでどうバランスをとるか、人間側はもっと考えていくべきでしょう。
実験動物はいろいろな問題がからむために、どこに注目していいのか難しい問題でもあります。私自身は、まず「自然環境の維持」が優先事項と考えてますので、無計画な有害駆除をおこなっていないかに注目することにしています。

この事件は今回の報道だけで終わるものではありません。さらなる取材をマスコミには期待します。


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