Vol. 75(2001/1/14)

[今日の事件]絶滅動物が復活する時

[ON THE NEWS]

マンモスの復活を計画している「マンモス復活協会」が1999年にシベリアで発掘した動物の皮膚は、DNA解析の結果マンモスの皮膚ではないことがわかった。同時期に棲息していたケサイ(サイの仲間)のものと考えられている。
(SOURCE:朝日新聞(東京版) 2000年12月29日)

米国のアドバンスト・セル・テクノロジー社は、絶滅のおそれのあるガウルのクローンを誕生させることに成功したと発表した。8年間冷凍保存されていたガウルの皮膚の体細胞の核を乳牛の卵子に移植、それを牛の子宮に入れて妊娠させた。このクローンのガウルは48時間後に細菌感染で死亡した。
(SOURCE:朝日新聞(東京版) 2001年1月13日(夕刊))

[EXPLANATION]

あまりマスコミには登場していないためか、マンモスを復活させる計画が実際にあることを知っている人は少ないでしょう。しかし、そんな計画が本当にあるのです。私は以前から耳にしていたのですが、ここ「いきもの通信」は原則として現在生きている動物をとりあげることにしているので、これまでは避けてきた話題でした。ですが、この機会にやはりとりあげておくべきだと思い直したのです。
マンモスを復活計画については、私が半端な説明をするよりもきちんと解説されたものを読んでいただく方が良いでしょう。科学雑誌「Newton」1998年6月号に、マンモス復活協会のメンバーであり、この計画の発案者である方が執筆した「シベリアにマンモスパークが出現する?」という記事が掲載されています。この記事ではマンモス復活計画が詳しく紹介されていますので、興味がある方はご覧ください。

マンモス復活の方法を簡単に説明すると次のような方法になります。まず、保存状態が良いマンモスの遺体を見つけます。シベリアの永久凍土に埋もれているような遺体が望ましいです。この遺体から、長期間DNAが保存されている可能性が高いと考えられる精子を取り出します。そしてこの精子を現生のゾウの卵子に受精させ、雑種(ハイブリッド)を誕生させます。この雑種の卵子に、再びマンモスの精子を受精させます。すると、最初の雑種よりもマンモスにより近い雑種が誕生します。この後も雑種の卵子とマンモスの精子の交配を続けていけば、最終的にはマンモスそのものに限りなく近い種が誕生するはずです。この方法は非常に単純ながらも、理論的には間違いのない方法です。
ただし、まず難しいのがDNAが良好に保存されている精子を発見することです。今回調べたのは「皮膚」ですから、これがもしマンモスのものであったとしても、復活は不可能だったでしょう。もうひとつ難しいと思われるのが、ゾウの人工授精〜出産の過程です。人工授精が困難かどうかまでは私は知らないのですが、出産はとても大変なものになるでしょう。なにしろ、ゾウの妊娠期間は22ヵ月にも及ぶのですから。しかも普通は1頭しか産みません。ゾウはそれほど繁殖力が高いとはいえない動物なのです。このことを考えると、何度も交配を繰り返さなければならないこの方法では、マンモス復活までに数十年かかることは必至でしょう。ただし、これも性成熟を待たずに、胎児の段階で卵母細胞を取り出して卵子に成熟させるという方法を使うことで、大幅に期間を短縮することが可能になるということです。

もうひとつのニュースである、ガウルのクローン誕生は絶滅動物を復活させる別の方法です。この方法は、クローン羊ドリーで知られる体細胞クローンと同じ方法を使ったものです。この方法は死産や死亡率が高いといった問題点がまだあるものの、いずれは技術的にも完成していくでしょう。

さて、ここで考えて欲しいのです。
絶滅動物の復活は確かに夢のあることです。
しかし、それは本当にやる価値のあることなのでしょうか。
そんなことよりもやるべきことがあるのではないでしょうか。

私が心配なのは、復活技術の登場によって「絶滅しても復活できるのなら、どんどん絶滅しても大丈夫なんだ」という考え方が広まってしまうことです。これが開発(=自然破壊)や狩猟、密猟の免罪符になってしまうかもしれません。
しかし地球環境全体を考えると、自然環境つまり野生の動植物を保全することこそが最も大切であるのは確かなのです。動植物を保護し、絶滅しないようにすることこそが必要なのであって、復活技術があったとしてもそれは必要のない技術であるべきなのです。

一方で、既に絶滅してしまった動物を復活させることには疑問を持たざるをえません。近年絶滅した動物たちは、人間による圧力(狩猟、開発による棲息地減)が絶滅の大きな原因になっているといわれています。もし生息環境が失われていたら、復活させたところで野生に戻すことはできません。また、どの動物を復活させるかは人間の都合によって決められるわけで、話題にもならない目立たない動物の復活は後回しにされ、人気のある、例えばパンダのような動物ばかりが増やされる事になるかもしれません。これは非常に「不自然」(非自然?)なことではないでしょうか。自然環境に必要以上に人間が手を出すことは、長期的な影響が予想できないだけになるべく避けたいことです。

むしろ、今私たちがやるべきことは目の前にある自然環境を守ることではないでしょうか。自然環境に手を加えるのではなく、現状を維持すること。人間の介入を最小限におさえること。野生動植物の保護にはそれが一番いい方法なのです。絶滅してしまった動物よりも、今そこにいる動物を守ることを優先すべきなのです。


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