いきもの通信 Vol.85[今日のいきもの]プランクトンという名前の生物はいない?! 

Vol. 85(2001/4/22)

[今日のいきもの]

プランクトンという名前の生物はいない?!

最近また諌早湾の水門開放についての話題がマスコミに登場しています。今回は特に冬に有明海一帯でノリが大不作になってしまい、その原因として諌早湾の干拓が挙げられています。不作の直接の原因はプランクトンの異常増殖と言われているのですが、その遠因が諌早湾の干拓であると疑われているのです。
今回の話は諌早湾ではなくて、プランクトンの話です。

「プランクトン」という言葉、今回の諌早湾に限らずよく耳にすると思います。プランクトンとは何か生き物のことなんだな、というのは皆さん理解していると思いますが、それでは具体的にはどのような生き物なのかご存じでしょうか。ちょっとプランクトンの姿を想像してみてください——。どうでしょう。ミジンコみたいなものを想像された方が多いでしょう。全然想像できない方もいるかもしれません。ところで、プランクトンは「動物プランクトン」あるいは「植物プランクトン」という呼ばれ方をされることがあります。そこで今度は「動物プランクトン」そして「植物プランクトン」の姿を想像してみてください——。ますます混乱してしまいましたか? プランクトンは一般的によく知られている割にはきちんと理解されていないのではないでしょうか。
それでは、プランクトンとはいったいどういう生き物なのか? プランクトンを正確に理解するにはプランクトンだけではなく、「ネクトン」「ベントス」という言葉もいっしょに知らなければなりません。

ネクトン
遊泳生物。水中を泳ぐ能力がある生物。大部分の魚類の他、クジラ・イルカなどの哺乳類、ウミガメなどの爬虫類を含む。

プランクトン
浮遊生物。自力で泳ぐことがてきないか、泳ぐ力がきわめて小さい、水中を浮遊する生物。大部分は小さな生物。ミジンコ、オキアミあたりがなじみがあるが、クラゲもプランクトンである。また、魚類、貝類、エビ、カニなどの卵や幼生の中には水中を浮遊するものもあり、それらもプランクトンと分類される。

ベントス
底生生物。海底で生活する生物。貝類、一部の魚類の他、海藻・海草、サンゴ、イソギンチャクなど。

この説明にあるように、プランクトンとは特定の生物のことを指しているのではありません。水中の生物を生態的に分類したもののうち、浮遊生物を「プランクトン」と呼んでいるだけなのです。ですから、プランクトンには非常に多くの種類の生物が含まれるのです。中にはクラゲのように肉眼で見ることができるものもいますが、ほとんどは目に見えないほど小さい微生物です。体が小さいと遊泳力も小さくなります。プランクトンのほとんどが微生物であるのはこのためです。クラゲがプランクトンというのは意外かもしれませんが、定義としては間違っていません。ただ、実際にはプランクトンといえば水中の浮遊微生物のことを言う場合がほとんどでしょう。
プランクトンはさらに動物プランクトンと植物プランクトンに分けられます。動物プランクトンは上記のような多くの種類の動物が含まれます。植物プランクトンはラン藻、珪藻、緑藻などの藻類です。
赤潮というのは、ある特定のプランクトン、ほとんどは植物プランクトンが爆発的に増殖する現象です。赤潮によって水が赤色などに変色するのはプランクトン自身の色(およびその生理的な反応)によるものです。プランクトンが大量発生すると、魚などが窒息したり(プランクトンが酸素を消費するなど)、中毒死に至ったり(プランクトンが毒素を持つなど)といった被害が発生します。
今回の有明海のノリ不作の原因は、珪藻プランクトンの異常増殖によって栄養塩が不足したため、と言われています。赤潮とまではいかないものの、それに近いことが起こっていたということのようです。

プランクトンは赤潮などで何かと話題になりやすく、多くの人が知っている言葉ですが、その定義を知っている人は専門家以外ではほとんどいないでしょうし、ネクトン、ベントスといった言葉はまったく知らない人がほとんどでしょう。しかし、水中の生態系を考える上ではプランクトンだけではなく、ネクトン、ベントスも含めなければ不十分なのです。
特に、ベントスは移動能力が無いか、あっても非常に弱いため、埋め立て・干拓その他の環境変異に非常に影響を受けます。諌早湾でいえばムツゴロウがその象徴でした。ムツゴロウは遊泳力はあるものの、事実上ベントスとして生活しています。干拓されれば死滅する運命にあるのです。

私たちは陸上で生きているため、水中の生態系をよく理解しているとはいえません。プランクトン、ネクトン、ベントスという分類は水中生態系を理解するための助けになると思います。この機会に、この3つの言葉をセットで覚えてください。


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