Vol. 97(2001/7/29)

[今日の観察]お菓子のおまけの恐竜模型比較論

恐竜商売はもうからない?

動物模型の出来の良さで大人気のチョコエッグも、夏の間は出荷されないのでブームも一段落というところです。秋になるとまたブームが再燃するんだろうなあ。チョコエッグがなぜ夏は販売されないかというと、暑さでとけてしまうから、なんだそうです。

一時姿を消しているチョコエッグにかわって店頭に登場してきたのが、恐竜模型がおまけについたお菓子です。しかも3製品も登場しています。それぞれにそれなりの完成度になっていますので、今回はこの3製品を比べてみましょう。

チョコラザウルス
味覚糖株式会社
造形企画製作・株式会社海洋堂
造形総指揮・松村しのぶ
24種類。恐竜だけでなく、その他の爬虫類、古生代・新生代の動物、海洋生物など幅広くピックアップしている。

ダイノモデルス
フルタ製菓株式会社
原形製作・荒木一成
ポピュラーな恐竜8種類

ダイノワールド
カバヤ食品株式会社
制作総指揮・ロバート・T・バッカー
原型製作・ビットラン株式会社
ポピュラーな恐竜、魚竜、翼竜など19種類。

これらの製品名は、どれも似ていて混乱しそうなので、以下では順に「チョコラ」「モデルス」「ワールド」と表記することにします。
まずは、これらの模型を見比べてみましょう。3製品に共通している恐竜を並べてみることで、それぞれの特徴がわかるでしょう。

同じ恐竜でも、製品毎に印象が違っているのがわかると思います。
「モデルス」は骨太というか、筋肉がもりもりしているというか、ボリューム感があるのが特徴です。ティラノサウルス[写真A]ではそれがよくわかります。「チョコラ」も出来はいいのですが、並べてみるとやや貧弱な感じに見えてきます。(「ワールド」のティラノサウルスは現段階では入手できませんでした。)
彩色は「チョコラ」が最も細かく、派手です。パラサウロロフス[写真B]は特にそうです。ちょっと明るすぎるような気もしますが。
私が恐竜模型を見るときに基準としているのがトリケラトプスです。トリケラトプスは化石資料も多く、その独特の形状から人気もあります。トリケラトプスといってもその細かい形状についてはさまざまな変異があって、元になる資料によって形が違ってくるものです。今回の3製品でも、えり飾りの大きさ、角の形と角度などが微妙に異なります。どれが正しいとも言い難いので、結局は自分の感性と合うものを選ぶことになります。他の恐竜では差はあまりないのですが、トリケラトプスの場合は(私にとっての)好き嫌いの差が最もよくでるのです。ですから、恐竜模型を比較するならまずトリケラトプスを見るのです。
ただ、今回のトリケラトプス[写真C]、「チョコラ」と「モデルス」はよく似ていたので、「元資料が同じなのかな」と思っていたら、原型製作者が同じ人であることが後でわかりました。なんだ、そうだったのか。

今回の3製品を私として評価すると、「チョコラ」と「モデルス」はほぼ互角の出来です。種類豊富な、そして続編の予定がある「チョコラ」には期待しています。ただ、ややきゃしゃなのが難点です。「モデルス」は骨太の造形が気に入っています。「チョコラ」は種類によって大きさにばらつきがあるので(トリケラトプスは小さすぎ)、飾るなら「モデルス」の方がいいかなと思います。
「ワールド」については、残念ながら他と比べると出来がいいとは言えません。尾の先端や角の先端のようなとがった部分が丸くなっているため、シャープな印象が最も薄いのです。子供向けなのでそうしたのかもしれませんが、他と比べるとこのことがマイナスになっていると思うのです。ただし、私の評価の低い「ワールド」の中で、唯一評価しているのはディプロドクス[写真D]です。この細長い体形にはびっくりです。恐竜模型でもこのように細長い体形のものは意外と少ないのです。よくぞ、これを立体化してくれた、と思います。


さて、今年(2001年)夏は映画「ジュラシックパーク3」が公開される予定で、今回紹介した恐竜模型もこのことを念頭に置いて開発されたものと思われます。そして、業界をゆるがしたチョコエッグの大ブレイク。今度は恐竜もので稼いでやろう、と考えるのは無理もないことです。
しかし、そう簡単にはいかないでしょう。実は「恐竜ものはもうからない」というジンクスがあるのです。映画「ジュラシックパーク」は別として、最近恐竜で大ヒットしたものがあるでしょうか? おそらく無いはずです。私もCD-ROM書籍「マルチメディア恐竜図鑑」を担当したことがあるのですが、景気が悪いという外的要因を差し引いても、そのセールスはとても低調でした。恐竜ものは売れるような印象があるのですが、実際はそうではないのです。今回紹介した製品も、店頭の動きを見る限りではチョコエッグと比べて売れ行きはそれほどでもないようです。

恐竜ものがあまり売れない理由というのは私にもよくわかりません(逆にチョコエッグが売れる理由もよくわからない)。男の子は恐竜好きなのではないか、と思われる方がいるかもしれませんが、最近はそうではないようです。恐竜よりもポケモンなどの方に関心が行ってしまっているのではないでしょうか。また、最近は恐竜の新発見や新理論が次々と登場して、その動向の把握が一般の人にはわかりにくい、ということもあります。今ある本を読んでも、数年後にはその内容が新発見・新理論によってひっくり返されているかもしれません。おまけに恐竜に関する(大人向けの)本はとても少ないのです。信頼できる情報源が少なくては、興味を持ってもそれ以上先に進むことは難しいでしょう。このままでは恐竜はいつまでたってもマイナーなままでしょう。
こういう情況を打開するには、専門家である学者の方々にがんばっていただくしかありません。豊富な資料にアクセスでき、難解な内容をわかりやすくかみくだいて説明することができるのは専門家の方々だけなのですから。もっとも、売れる見込みのあまりない本を作りたがらないのが最近の出版社なので、望み薄ではあるのですが…。それでも、私は完成度が高い本ならそこそこ売れると思います(内容が薄い本では売れませんよ!)。


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