いきもの通信 Vol.98[今日の観察]法律上での「動物」の定義 

Vol. 98(2001/8/5)

[今日の観察]法律上での「動物」の定義

人間社会は法律によって治められていますが、動物もやはり法律によって何らかの形で治められています。といっても、人間(あるいは法人)と同等の立場ではありません。また、動物といってもクラゲやダニやダンゴムシといった動物までも含まれているわけではありません。
そこで、法律はどのような動物を扱っているのか、また、「動物」をどう定義しているのかざっと見渡してみることにしましょう。


動物についての法律で、最も身近なのは「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」です。
この法律では第13条第4項で「愛護動物」を定義しています。

牛、馬、豚、めん羊、やぎ、犬、ねこ、いえうさぎ、鶏、いえばと、及びあひる
前号に掲げるものを除くほか、人が専有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類

最初に挙げられているのは「家畜動物」です。この定義で重要なのは「人が専有している動物」つまり飼育動物または家畜動物であるということです。ですから野生動物は「愛護動物」には含まれないわけです。ただし、飼い主がいない野良犬、野良猫でも最初に定義されているように「愛護動物」に含まれます。また、この定義では両生類や魚類、そして無脊椎動物すべてが含まれていないことにも注意してください。つまりカエルやコイやスズムシやホタルは含まれないのです。ただし、これらの動物でも誰かが所有している動物に対して他人が虐待などをすれば、刑法の「器物損壊」が適用されます。「愛護動物」でなくても、「所有物」を損壊すれば罪になるわけです。この場合でも野生動物はだれかの所有物ではありませんので対象外になります。

動物愛護法には対応する条例が都道府県にあります。その代表として、東京都の「東京都動物の保護及び管理に関する条例」を見てみましょう。この条例では第2条二で次のように定義しています。

人の飼養(保管を含む。以下同じ。)する動物で、ほ乳類、鳥類及びは虫類に属するものをいう。

動物愛護法とほぼ同じ定義です。この条例は動物愛護法と関係するものであるため、定義が同じになるのも当然です。


主に狩猟についてを定めている「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(鳥獣保護法)」では「動物」の定義は書かれていません。ただし、狩猟の対象となる「狩猟鳥獣」については「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律第一条ノ五第二項の規定に基づく狩猟鳥獣の種類」という環境庁告示で定義されています。以下はそれを整理したものです。

鳥類
ゴイサギ、マガモ、カルガモ、コガモ、ヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、ハシビロガモ、ホシハジロ、キンクロハジロ、スズガモ、クロガモ、エゾライチョウ、ウズラ、コジュケイ、ヤマドリ(コシジロヤマドリを除く。)、キジ、コウライキジ、バン、ヤマシギ(アマミヤマシギを除く。)、タシギ、キジバト、ヒヨドリ、ニュウナイスズメ、スズメ、ムクドリ、ミヤマガラス、ハシボソガラス、ハシブトガラス
哺乳類
ノウサギ、タイワンリス、シマリス、クマ、ヒグマ、アライグマ、タヌキ、キツネ、テン(ツシマテンを除く。)、オスイタチ、ミンク、アナグマ、ハクビシン、イノシシ(イノブタを含む。)、シカ、ヌートリア、ノイヌ、ノネコ

これら以外の動物は狩猟禁止です。また、上記の狩猟してもいい動物であっても、誰でもいつでもいくらでも狩猟していいわけではありません。狩猟免許を持たない人がつかまえたりしたら法律違反です。この定義には「オスイタチ」のようによく意味のわからないものも含まれています。「ノネコ」というのも不思議な存在で、これは「完全に人間の飼育から離れたネコ」ということでしょう。ただ、現実的には野良猫=「飼育下ではないが、人間生活に依存している(残飯をあさるなど)ネコ」との区別が難しいため、狩猟対象となることはないでしょう。イヌの場合は飼い犬なら「狂犬病予防法」によって登録の証明である鑑札をつけなければならないため、ノイヌとの判別はまだ容易です。
ここで定義されているのは哺乳類と鳥類だけですが、ではここに書かれていない昆虫は狩猟禁止なのか、というと常識的にはそんなことはないでしょう。もしそうなら子供たちの昆虫採集は法律違反ということになってしまいます。おそらく、鳥獣保護法が想定する「動物」とは哺乳類と鳥類に限られているのでしょう。このことはもう少しはっきり定義した方がいいでしょう。


さて、もうひとつ「絶滅のおそれのある野性動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」という法律があります。この法律でも「動物」の定義は無いのですが、政令「絶滅のおそれのある野性動植物の種の保存に関する法律施行令」で「絶滅のおそれのある野性動植物の種」を定めています。ここでは「国内希少野生動植物種」と「国際希少野生動植物種」が定められています。これらに含まれる動植物はとても多いのですが、動物について分類だけを取り出してみました。

国内希少野生動植物種
鳥綱、哺乳綱、両生綱、魚上綱、昆虫綱
国際希少野生動植物種
鳥綱、哺乳綱、両生綱、魚上綱、昆虫綱、二枚貝綱、腹足綱(ハワイマイマイ属)

「国際希少野生動植物種」は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」に記載されている種類とほぼ一致しています(「種の保存法」は「ワシントン条約」に対応する国内法であるため)。
種の保存法は、必要ならばあらゆる生物を対象にできると考えていいでしょう。最も「動物」の対象が広い法律と言えそうです。


最後に、法律ではありませんが動物の輸出入に際しての検査を行う「動物検疫」について見てみます。今回は輸入に限っての場合を見てみましょう。動物検疫所のホームページで取り上げられている、輸入時に検疫が必要な動物は次のような種類です。

イヌ、ネコ、小鳥、サル、ウサギ、あらいぐま、きつね、スカンク、
家畜(牛、豚、やぎ、ひつじ、馬、鶏、あひる、七面鳥、うずら、がちょう、 みつばちなど)、
牛、豚、やぎ、ひつじ以外の偶蹄類動物(いのしし、しかなど)、
馬以外の馬科(しまうまなど)

この中では唯一の昆虫としてミツバチが入っていますが、これは養蜂業で扱っているため家畜と同じと見なされているのでしょう。
一方で検疫の必要がない動物は次の通りです。

かえる(両生類)、へび(は虫類)、魚類など
ネズミ・ハムスター・リス(齧歯目)
フェレット

検疫の必要がないといっても、これらが「動物」であると認識していることに注目してください。このことを考慮すると、ここでの「動物」の定義は、すべての脊椎動物と一部の昆虫ということになります。
なお、一部の昆虫は「植物検疫」の対象になりますので、昆虫すべての輸入が自由というわけではありません。


さて、以上の様に法律上での「動物」の定義あるいは範囲を見ていくと、「動物」とは主に「脊椎動物」の事を指し、特に「哺乳類、鳥類」(最近は「爬虫類」も含む)を指すものであることがわかります。昆虫をはじめとする無脊椎動物はほとんど法律の対象にはなっていないのです。現実的には、無脊椎動物まで含めてしまうと「動物」の範囲が非常に大きくなってしまうため、実用上仕方がないとは言えるでしょう。
それでも両生類、魚類の扱いが薄いのは気になります。今回は取り上げませんでしたが、魚類は水産庁(農林水産省)の管轄下で、主に「漁業産業の対象として」扱われているので、それなりに行政の関与があります。ただし、ブラックバス問題のような例もあるように、まったく問題が無いわけではありません。
両生類の場合は魚類のように官庁とのかかわりも無く、脊椎動物の中では最も手薄な分野と言えるでしょう。法律的・行政的には「忘れられた存在」と言ってもいいのではないでしょうか。両生類には、カエル、サンショウウオ、イモリなどが含まれます。両生類は普通は産卵時に水のある環境が必要となります。成長すれば水の少ない環境でも生息できる種類も多いのですが、基本的に水(淡水)環境に依存した動物です。その水環境には、河川、渓流、湿地、水田、池沼、時には池には見なされないような小さな水たまりまでも含まれています。行政はこういった環境すべてを統一的に監視しているわけではありません。両生類は盲点ともいえる場所に生息する忘れられた動物なのです。

法律も行政も、人間のために存在するものです。人間にかかわりの薄い事物が扱われないこともあるのは仕方のないことです。だからといって法律・行政で扱われていない動物を軽視してもいいということにはなりません。逆に目が届きにくいということを考えると、より注意して見守る必要があるともいえます。
法律はあくまで「人間社会のルール」に過ぎません。動物(特に野生動物)に対しては法律とは別の「ルール」で接していく必要があるのです。


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