Vol. 101(2001/8/26)

[OPINION]動物にエサをあげてはいけません!

動物にエサをあげてはいけません!といっても動物園の話ではありません。ここでの「動物」とは人間の飼育下に置かれていない野生動物のことです。「野生動物にエサをあげてはいけません」ということについて、「そうだそうだ」と賛成してくれる人はまだ少ないでしょう。多くの人は「かまわないじゃないか」とか「なぜいけないの」という反応を示すと思います。実際、公園などに行けばハトやカモにエサをあげている人はたくさんいます。エサをもらっている動物の種類は意外と多く、主なものだけでもカイツブリ、ユリカモメ、カルガモ、各種カモ類多数、ハクチョウ類、ドバト、ハシブトガラス(以上、鳥類)、ミシシッピアカミミガメ(俗称・ミドリガメ)(以上、爬虫類)、タヌキ(以上、哺乳類)などがいます。
エサを与える立場からすれば、「動物愛護である」あるいは「動物とふれあう」ということであり、これが悪いことだとは思ってもいないようです。しかし、動物が好きな私があえて言うのです。動物にエサをあげてはいけません!、と。なぜいけないのか、その理由を聞いてください。


・食べ物を与えなくても野生動物は生きていける

もし人間が食べ物を与えなかったならば、野生動物はどうなるでしょうか? 死んでしまう? そんなことはありません。野生動物はそんなひ弱な存在ではありません。当然のことながら、野生動物は自力で食べ物を見つけることができます。人間が食べ物を与えなくても、彼らはしっかりと生きていくことができるでしょう。
食べ物を与えなくなると、そこにいる野生動物の数が減ることもあるでしょう。しかし、それは野生動物が死んだからではありません。もっといい環境の別の場所に移住したということなのです。
食べ物を与えなくても野生動物が死滅するようなことはありません。つまり、食べ物を与えなければならない理由がそもそもまったくないということなのです。

・食べ物を与えることによって野生動物本来の生態を失わせている

先ほども書きましたが、野生動物は自力で食べ物を見つけることができます。そうでなければ自然の中で生きのびることはできません。
そのような情況で人間が食べ物を与えるということは、野生動物にどういう影響を与えるのでしょうか。自力で食べ物を見つけるという野生の能力を失わせ、本来の生態を乱しているのではないでしょうか? 人間に依存して生きているなんて、野生動物にとって正しいことなのでしょうか?

・与える食べ物は栄養バランスなどが適切か?

野生動物に与える食べ物はパンやスナック菓子というのが定番のようですが、ちょっと待ってください! その食べ物は動物にとって栄養バランスに問題は無いのでしょうか? 野生動物は自然界の中で得られる食べ物を摂取するようにできており、それで栄養のバランスが保たれるような仕組みになっています。人間が片寄った種類の食べ物ばかりを与えることは、栄養的にかなり問題があるのではないでしょうか。また、人間が作り出した食べ物に含まれる添加物などが動物たちにまったく無害だと言い切れるでしょうか?
栄養で特に問題がありそうなのは動物食(肉食)の動物です。例えばカイツブリの場合がそれにあたります。カイツブリは小魚や水棲昆虫などを食べる動物食の鳥です。ところが、カイツブリは人間の与えるパンなどにも寄ってくることがあります。動物食の動物は、食べ物となる動物を丸ごと食べることで必要な栄養を得ています。動物にはたんぱく質も、脂肪も、カルシウムも鉄分もビタミンも全部含まれているのですから、これは最も理想的な栄養食です。そんな動物に植物性の食べ物を与えて何の意味があるのでしょう? (だからといって、煮干しを与えても意味はありませんよ! 新鮮な動物を与えなければいけないのです。)
動物に食べ物を与えている人たちは動物愛護のつもりでいるのかもしれませんが、このような栄養の問題をきちんと考えているとはとても思えません。はっきり言って、動物の健康にとってマイナスだと思います。
また適正な量を考えずに大量にエサをばらまく人もいます。野生動物を太らせることが動物愛護なのでしょうか?

・過度の集中は伝染病などのリスクも負う

人間が食べ物を与えすぎると、特定の動物が狭い場所に極度に集中してしまうことがあります。これはかなり危険なことと言わざるを得ません。伝染病などの病気にかかった時に、その集団全体に一気に感染してしまうおそれがあるからなのです。最悪の場合は大量死になる危険もあります。
また、病気が人間に感染することもあり得ることです。例えばハトの場合、オウム病、クリプトコッカス症といった人間に感染する病気を持っていることがあります。さらに、羽毛がアレルギーの原因になることもあります。それに、ハトが多すぎるとフンも多くなるわけで、衛生的とは言えません。

・特定の動物が過度に増えることがいいことなのか?

自然界の理想的な姿とは、多種類の動物が適度な密度で生息しているということです。少数の種類の動物が狭い範囲に集中しているというのは非常に不自然なことなのです。


以上、動物にエサをあげてはいけない理由を挙げてみました。これで理解いただけたでしょうか。「動物にエサを与えること」=「自然保護・動物愛護」ではありません。むしろ人間にとっても動物にとっても問題があることなのです。
では、エサをあげずにどうすれば自然保護ができるのか、と思われるかもしれません。その答は、「動物にとってより自然な生息環境を整える」ということです。動物が好む場所を用意する、動物の好みの植物を植える、などなどやることはいくらでもあります。

「エサをあげることは動物とのふれあいである」という意見もあるでしょう。しかし、野生動物にとっては人間との接触は本来かなりのストレスなのです。例えば、私は気づかずに野鳥と異常接近してしまうことがよくあるのですが、その時に野鳥はこちらに対して非常に警戒をします。人間の感情をあてはめるのが適切かどうかはわかりませんが、私には野鳥が「緊張」しているのがはっきりとわかります。
もし「動物とのふれあい」を求めるのならば、それはペットに対して求めてください。自分の飼っているイヌやネコに対して愛情をそそぐことには何の問題もありません。「動物」というと、野生動物も飼育動物(ペット、家畜)も区別せずに考える人も多いのですが、これらは厳然と区別されるべきものです。野生動物は人間がいなくても生きていけますが、飼育動物は人間がいなければ生きていけません。ですから飼育動物に手間をかけるのはかまわないことですし、野生動物に余計なちょっかいを出すことは控えなければならないのです。
それでも、野生動物と向き合う経験も大切なことではあります。その場合は、野生動物にストレスを与えないよう距離を保ち、静かに観察するというルールを守るようにすべきです。これを「近くで見れないなんてつまらない」と考えるのは短絡です。動物が安心していられる距離を保てば、動物たちは本来の生態を私たちに見せてくれます。このような野生動物とのふれあい方こそ、人間、野生動物両者にとって理想的だと言えるでしょう。

動物にエサをあげてはいけないということ、納得できたでしょうか。もし、今まで野生動物にエサを与えていたならば、今後はそれを止めて、代わりに遠くから野生動物を見守ってください。見守る人がいるということだけでも自然保護には役立つのですから。


参考に環境省の資料(一般向けパンフレット)を紹介しておきます。ドバト(ハト)にエサをあげないで、という内容のものです。環境省のホームページからは、「報道発表資料」→「2001年2月」とたどっていってください。

「野生動物にエサをあげてはいけません」という考え方は、私だけが主張する特殊な意見ではないのです。


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