いきもの通信 Vol.102[今日の本]トンボのすべて 改訂版 

Vol. 102(2001/9/2)

[今日の本]トンボのすべて 改訂版

トンボのすべて 改訂版
[DATA]
著:井上 清(いのうえ・きよし)、谷 幸三(たに・こうぞう)
発行:トンボ出版
価格:3600円
初版発行日:2000年8月1日
ISBN4-88716-112-3

[SUMMARY]国産トンボ全部収録

日本国内で見られるすべてのトンボ196種について、写真と解説が載せられている。科や属といった分類学的順序ではなく、生息環境別に掲載されている。一部の種類については詳細な種の見分け方も載っている。
この他、産卵、羽化、飛び方、生息環境、ビオトープなど総合的な話題も多く、トンボとその周辺を幅広く理解できる。

[COMMENT]トンボは環境指標生物なのである

私、今年の夏はトンボに注目しています。週に一度、都内某公園に通っているのですが、よく注意してみると意外と多くの種類のトンボがいるものです。この公園の池の水質はお世辞にも良いものではありません、というかはっきり言って汚い方だと思います。トンボの幼虫「ヤゴ」は水中で生活します。ですからトンボと水場は密接な関係にあるのです。その劣悪な環境でもトンボはしっかりとすみついています。コシアキトンボ、シオカラトンボ、オオシオカラトンボ、ノシメトンボ、ウチワヤンマ、ウスバキトンボ、アジアイトトンボ、ハグロトンボ、そして種名未確認のトンボがいくつか…と意外と多くのトンボがいることがわかったのでした。

トンボの名前を確認するのに役に立っているのが今回紹介する「トンボのすべて 改訂版」です。この本は1年前に買ったのですが、今年の観察ではとても参考になっています。
普通、図鑑では分類学的に種類を並べていくものですが、本書では生息環境別に並べられています。「川の上流域」「暗い細流」「水面の開けた明るい池」「樹林のある深い池」「水泳プール」…といった具合になっています。現実にはトンボはこれらの生息分類に完全に従っているわけではないので、これをそのまま額面通りに受けとるわけにはいかないのですが、「このトンボが見られたならば、あのトンボもいる可能性がある」とか「この環境ではこのトンボがいる可能性は低いだろう」という風に応用して使うことができます。巻末には生息地域、出現季節の表もありますので、これとあわせて使えばとても便利です。
ただ、私が使ってみて思ったのですが、残念ながら種の判別には必ずしも役に立ちません。写真の他にイラストもつけて判別のポイントを説明してくれているのですが、それでも種の判別ができないことがありました。もう少々私の熟練も必要なのだとは思いますし、200種近くもいるのですからそう簡単にはいかないこともわかるのですが、なんとかわかりやすくはならないものでしょうか。

同書で特に面白いと思ったのは、トンボと水質環境の対応表です。水質基準値であるBOD(生物化学的酸素要求量)と生息するトンボ(ヤゴ)の対応を図示したものです。これを見ると、トンボは水質と密接にかかわっていることがわかります。ヤンマの多くはある程度水質が良い場所でないと生息できないこと、コシアキトンボやシオカラトンボは汚れた水に生息すること…などなど。生息するトンボの種類から水質がわかるということは、トンボは水質環境を測る指標動物ということでもあります。都内某公園で私が見たトンボのほとんどは、そこが汚れた水質であることを証明するものだったのです。もっとも、都区部の公園池のほとんどは似たようなもので、ここだけが特に汚れているわけではないのですが。それはさておいても、水質からトンボの種類を知ることができるこの対応表は種の判別にとても役に立ちます。

同書を読んで改めて気付かされるのは、都市においてトンボが育つ環境がとても少ないことです。トンボは水があるだけでは繁殖できません。ヤゴの食べ物となる小魚や水棲動物がいなければなりませんし、隠れ家となる水草や藻も必要となります。護岸工事で固められた都市河川でトンボが見られないのはこのためなのです。
こうして見ると、トンボというものは水辺の生態系の豊かさを教えてくれる動物といえます。このことがわかれば、トンボがもっと面白く観察できるのではないでしょうか。


[いきもの通信 HOME]