Vol. 108(2001/10/28)

[今日の勉強]動物食と植物食 その2

第3の道、「雑食」

前回は「動物食」と「植物食」について説明しました。動物の食性にはこれ以外のものがあります。それは私たち人間の食べ方、「雑食」です。

前回説明したように、動物食は栄養的に効率のいい食事方法です。しかし、そのためには食べ物となる動物をコンスタントに捕獲できなければなりません。例えば、現在の日本の自然環境で考えてみましょう。もし日本にライオンがいた場合、彼らは生存できるでしょうか。原産地アフリカで、ライオンはガゼルやヌー、シマウマといった比較的大きな動物を捕獲して食べています。そして、そのような獲物も豊富に存在します。ところが、日本では大型の動物は少なく、生息密度もかなり低いものです。このような情況ではライオンのような大型の動物食動物は生存することは不可能です。実際、日本にはトドやオットセイのような海洋性動物を除くと、大型の動物食動物は存在しません。日本に限らず、地球上の陸地の大部分は動物食動物が生存するには厳しい環境といえます。アフリカは例外的に恵まれた環境なのです。
食物を動物ばかりに頼ることができない場合、他のもの、つまり植物に目をつけることになります。しかし、ウシのような植物食動物ほど消化器官が特殊化していないと、植物ばかり食べると栄養のバランスが偏ってしまいます。そのため動物も食べなければなりません。これが「雑食」なのです。動物食や植物食は、特定の食物に頼らざるを得ないケースが多く、環境の変化による影響も大きく受けてしまいます。一方、動物も植物も食べる雑食はとりあえず何でも食べることができるため、環境への対応力もあるといえます。雑食は効率がいいとはいえませんが、柔軟性のある食性といえるでしょう。
人間はまさに雑食動物です。動物を生でまるごと食べることはありませんし、植物だけで生きていくこともできません。「菜食主義者」という人たちはいますが、そういう人たちでも卵や乳製品は食べているはずです(食べてないとしたら栄養的に問題があります)。雑食は人間の宿命です。動物も植物もバランスよく食べるのが最も理にかなっているのです。まあ、肉食よりも菜食を重視した方が健康的にも資源的にも良い傾向であるのは確かなので、菜食主義者の方々を非難するつもりはありません。

さて、哺乳類全体を見回してみると、雑食というのは多数派であることがわかります。まず動物食の哺乳類を挙げてみると次のようになります。

食肉目の一部(ネコ科など)
クジラ目(クジラ、イルカ)
翼手目(コウモリ)の一部
有袋類の一部

意外と少ないのですが、これは豊富に動物を捕獲できる環境がそれほど多くないことを表していると言えるでしょう。食肉目はイヌ、クマ、ネコ、アシカ、アザラシなどが含まれますが、名前に反して純粋な動物食は少ないのです。クマやタヌキは雑食です。ササを食べるパンダは植物食のように見えますが、実際はネズミや昆虫のような小動物を食べることもある雑食です。それでもパンダは限りなく植物食に近づいた特殊な食肉目といえるでしょう。
次は植物食の哺乳類を挙げてみましょう。

偶蹄目(ウシ、ヒツジ、ヤギ、カモシカ、シカ、キリン、ラクダ、カバ、イノシシなど)
奇蹄目(ウマ、サイ、バク)
ウサギ目
長鼻目(ゾウ)
齧歯目(ネズミ、リス)の一部
翼手目(コウモリ)の一部
有袋類の一部(コアラ)

植物食の哺乳類は体が大きい傾向があります。これは食べ物を発酵するため器官のスペースが必要になるなどの事情があるためです。もちろん、小型哺乳類でもそれなりの方法で植物食に対応している種類がいます。それでも完全に解決できないこともあるため、小型偶蹄目の中には雑食のものがいるようですし、齧歯目(ネズミ、リス)の多くが雑食なのも同じ理由です。

最後に最近話題の、というか日本中(特に畜産、食品業界)を恐怖のどん底に突き落とした狂牛病について。ウシは植物食なので肉骨粉のような動物性の食物は必要はありません。しかし、実際に肉骨粉をエサに混ぜて食べさせると、乳量が多くなったり、成長が良くなったりなどの効果があるのです。個人的には狂牛病よりも、ウシに動物性の食物を与えてみようと考えついた人がいたことの方に感心してしまいます。効率化を求めれば肉骨粉はとても有用なのですが、それが狂牛病という大きなリスクをもたらす結果になってしまいました。自然の本来の仕組みに反することを行うということは、危険を伴う可能性があることを示したのが今回の狂牛病事件といえるでしょう。

次回は、哺乳類以外の動物の食性についての話です。


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