Vol. 111(2001/11/25)

[今日の本]無限に拡がるアイガモ水稲同時作

無限に拡がるアイガモ水稲同時作
[DATA]
著:古野隆雄(ふるの・たかお)
発行:農村漁村文化協会(農文協)
価格:1857円
初版発行日:1997年11月30日
ISBN4-540-97009-7

[SUMMARY]アイガモ(とアゾラとドジョウ)が稲作を変える!

福岡県桂川町在住の農業家である著者が、試行錯誤しながらアイガモを利用した稲作でつちかったノウハウをまとめた本。
田んぼにアイガモを入れると、雑草を食べたり、害虫を食べてくれる。また、フンは稲のための栄養にになる。これが「アイガモ水稲同時作」。著者はさらに、アゾラ(浮草)、ドジョウを導入した総合的な農法に取り組んでいる。本書ではそれらを実践の立場から解説している。野犬やカラスなど外敵への対処法も紹介している。

[COMMENT]カモは雑食だった!

まず最初に「アイガモ」の定義をしておきましょう。普通は図鑑を見ても「アイガモ」という鳥は載っていません。簡単に言ってしまうと、「アイガモ」=「マガモ」なのです。そしてもうひとつ重要なことは、「マガモ」=「アヒル」でもあるということです。動物分類学から見ると、これら「マガモ」「アイガモ」「アヒル」は同じものなのです。しかし、呼び名が違うということは何らかの違いがあるということです。まず「マガモ」ですが、これは野生の動物です。マガモを人間が改良して家畜にしたのが「アヒル」です。アヒルはマガモよりもかなり体が大きいので、すぐに判別できます。アヒルというと白色の品種がおなじみですが、マガモのような体色のアヒルもいます。そして最後が「アイガモ」ですが、これは一般的にはマガモとアヒルをかけあわせたものとされます。だから「合鴨」というわけです。野生のマガモと家畜のアヒルをかけあわせることにより、おいしい鳥肉が得られるそうです。それを食べるのが「合鴨料理」なのです。

さて、私がこの本を買ったのは、カモ類の生態についてある疑問を持っていたからなのです。多くの人は、カモ類は植物食と思っていると思います。キンクロハジロのような「潜水ガモ」は貝類や甲殻類を食べる動物食なのですが、カルガモやマガモなど淡水でよく見かける種類は一見植物食のように見えます。実際、木の葉を食べる姿もよく見かけます。しかし私はある時、これに疑問を持ちました。オナガガモやハシビロガモは、水面にくちばしをつけて、ぺちゃぺちゃと水をこしとるような動作をよくします。これは明らかに食事をしている動作なのですが、この時彼らは植物性プランクトンだけではなく、動物性プランクトンも飲み込んでいるはずです。飲み込むときにこれらを区別することはできませんから。とすると、これらのカモは雑食であると言うべきなのです。ここで、私はさらに考えました。カモ類が動物性プランクトンを食べるのならば、昆虫のような小型動物も食べているのではないか、と。ですが、それを証明するてがかりもありませんし、文献も見当たりませんでした。

そうしているうちに、ある日書店でアイガモ農法の本が平積みしているのを見つけました。1冊はここで紹介している「無限に拡がるアイガモ水稲同時作」、もう1冊は同じ著者の「合鴨ばんざい」(1992年)という本でした。これらの本によると、アイガモは間違いなく小型昆虫も食べているのです。
アイガモ農法とは、田んぼにアイガモを放し飼いにするというものです。アイガモは田んぼに生える雑草を食べてくれるので、草取りをしたり除草剤をまいたりせずにすむのです。アイガモはイネは好きではないため、イネの成育には問題ありません。そして、アイガモはイネにつく害虫を食べるという防虫もやってくれるのです。さらに、アイガモのフンはそのまま肥料になります。アイガモによって、有機農業を比較的容易に実現できるのです。
著書はさらにアゾラ(浮草)とドジョウを田んぼに導入し、成果をあげています。ここまでくると田んぼは立派な「生態系」を構成していると言えます。ここで、これらの動植物の役割を見てみましょう。

アイガモ

雑草(種子を含む)を食べるなどの効果で雑草を防除する
害虫を食べる
フンがイネの養分になる
フンが水中動物の食料になる
最終的には人間の食料になる

アゾラ

アイガモの食料になる
空中窒素を固定する(それをアイガモが食べ、フンになることでイネの養分になる)

ドジョウ

水中動物を食べる
フンがイネの養分になる
最終的には人間の食料になる

非常に複雑なシステムを構成しており、完全に仕組みが解明されているわけではありませんが、著者はこれを実践し、成功しているのです。この農法の驚くべきことは、無農薬であること、無肥料であること、人間が与えるアイガモの食料は最小限ですむことといったことです。私たちが普通考える稲作とはずいぶん違うものです。
この本を読んでいると自分でもこの農法ができるような気がしてしまいます。いや、実際には無理なことなんでしょうが。

えー、さて、話を最初に戻しましょう。マガモ類の食性については、この本で雑食であることがわかったわけです。ただ、カモ類全体では植物食にかたよっている種類もあれば、動物食にかたよっている種類もいます。また、場所や季節的な条件によって植物食あるいは動物食にかたよることもあるでしょう。「カモは植物食」という俗説を、十分な証拠無しに信じてはいけないのです。
半端な知識で動物を見ると、このようにとんでもない誤解をしてしまう可能性があります。動物には詳しいつもりの私でもこれには注意しなければなりません。動物観察は知識と経験と分析力が必要とされる、けっこう大変なことなのです。本書の内容とはあまり関係ないことながら、このようのことを考えさせられた1冊でした。


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