Vol. 115(2001/12/30)

[今日の勉強]名前の話 学名・世界共通の名前

前回も話したように、生物の名前というものは国によって違っています。一般には英名が流通していますが、これも完全に統一されているわけではありませんし、分類的な厳密さには欠けます。そこで登場するのが世界共通で使え、分類的にも適切な統一名称「学名」です。
まずはその実例を見てみましょう。私たち人類も生物ですので当然学名があります。人間のことは和名では「ヒト」と言いますが、学名は次のようになります。

Homo sapiens

そう、「ホモ・サピエンス」です。この言葉は知っているけどいったいどういう由来なのか知らない方も多いでしょうが、なんのことはないヒトの学名なのです。さらに解説しましょう。前半の「Homo」は属名を表し、後半の「sapiens」は種小名を表します。「属」とは「種」より1段階上位の分類階級です。例えばイヌ属にはイヌやオオカミやコヨーテが含まれます。ヒト属(=Homo)の場合にはヒトしか含まれていません。種小名とは種それぞれにつく名前です。このように学名は2語から成り、同時に分類をも表現しているのです。
学名にはその他にもいくつか決まり事があります。まず、基本的にはラテン語を使います。もうひとつはイタリック体(斜字体)で表記することです。
さて、学名はあらゆる生物につけられているわけですから、身近な動物にも学名はあるわけです。そこで親しみのある動物の学名の例をいくつか書き出してみましょう。

イヌ
Canis familiaris

イエネコ
Felis catus

ウシ
Bos taurus

ウマ
Equus caballus

ゴールデンハムスター
Mesocrietus auratus

とまあ、こんな具合です。学名は厳密に1種1名となっていますので、学問的正確さを要する場合には和名や英名だけでなく学名を並記するのは当然でしょう。まあ、この「いきもの通信」ではそこまで必要な話はあまりありませんが。
学名は1種1名と書きましたが、現実にはある生物に複数の学名がついている場合もあります。これは大抵の場合、「分類学上の論議が決着していない」ということです。生物分類というのは数字で測れるものではないため、その解釈は学者によってまちまちです。そのため学名がいまだに統一されていないという例は多数あります。その他にも「実は別の動物と同一種であることがわかったが、慣例上今も古い名前が流通している」という場合もあります。

先ほど「学名はラテン語で書く」と書きましたが、これも例外は多数あります。特に種小名の方は地名、発見者・関係者などの人名、現地での呼び名を採用する例も多いのです。例えばニホンジカの学名は「Cervus nippon」または「Sika nippon」で、種小名はずばり「日本」です。また後者の属名は「鹿」で、これは現地での呼び名そのものです。この他に私が印象的に覚えているのはエイの仲間の「アカエイ」の学名「Dasyatis akajei」で、種小名がずばり「アカエイ」になっているのです。このような例はとても多数あるので、動物の分類辞典や和名・学名辞典を見る機会があれば、学名に目を通してみると面白いでしょう。

ところでこの学名ですが、学問的には非常に重要であるものの、一般の人にとってはまず意味のないものでしょう。学名を知らなくても日常生活にはまったく支障ありません。それでも、生物について調べものをするときには必ず登場するのも学名なのです。学名が表す分類上の意味(属名・種小名)を知っていれば、さらに面白く生物のことがわかるでしょう。


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