Vol. 126(2002/4/7)

[今日の観察]都会の3大哺乳類は何でしょう?

新聞を見ていると、東京都区部でタヌキが見つかった、ハクビシンが見つかった、ヒキガエルが産卵していた、と動物がいるだけでニュースになっているような感じがします。しかし、都市動物を見てきた私にとってはそのようなことは当たり前のことであって、今さら驚くようなことではありません。都会には動物はいない、と思っている人は多いようですが、それは「見えていない」だけであって、現実にはとても多くの動物が生息しています。昆虫や鳥が多くいるのは誰にでもすぐわかるでしょう。哺乳類となるとその数は少なくなりますが、間違いなくあなたの近くにも生息しています。

さて、ここで問題です。
東京都23区で生息数が多い哺乳類を3種類あげてください。
ただし、イヌ、ネコ、ハムスターなど飼育動物は除きます。

さあ、考えてください。


どうです? わかりましたか?

それでは答えです。
第1位はネズミです。具体的にはドブネズミとクマネズミの2種いるのですが、その数を数えた記録は無いので、どちらが多いかはわかりません。ここではこれらをまとめて第1位とすることにします。
ネズミが1位、というのは簡単だったでしょうか。ある種の業界(特別な業界ではありませんよ!)にとっては、ネズミ問題は非常に重大なことです。それほどネズミは多数生息しているのです。ただ、普通の人にとってはネズミを見た経験は少ないでしょう。というのは、ネズミは住宅地にはあまりいないからなのです。
「ネズミは繁殖力が強いから1位も当然」と考えた方も多いでしょう。これはある意味で正解ですが、不正解でもあります。確かにネズミ類の繁殖力は強力ですが、個々の種で見ていくと、ネズミの生息域はある地域内に限定されているものなのです。あらゆるネズミが世界のどこにでもいるものではないのです。例外がドブネズミとクマネズミです。この2種の分布だけは「世界中」なのです(図鑑などで確認してみてください)。ドブネズミとクマネズミは特別なネズミなのだ、ということをぜひ記憶しておいてください。ちなみに、ドブネズミもクマネズミも分類上は齧歯目ネズミ亜科クマネズミ属に属する親戚同士です。

さて、次は第2位です。
これは難しい。多分、ほとんどの人は思いつかないのではないでしょうか。
答えはアブラコウモリ(イエコウモリ)です。
23区内でコウモリを見たことが無い人は多いでしょう。ほとんどの人はその存在に気づいていないようです。しかし、私にはよく見えるのです。といっても私が特殊なコウモリ・センサーを持っているのではありません。コウモリが出現する場所と時刻を知っているからなのです。コウモリが現れる時刻は、日没後30分ぐらいからです。あまり遅くなると空が暗くなりすぎて観察できなくなります。場所は、水場。公園の池、川、駅前の人口池など、水がある場所にはかなり高い確率で現れます。また、運動場のような空が開けた所にも現れることがあります。コウモリの飛び方は、ひらひらと方向を変えながら飛ぶので、まっすぐ飛ぶ鳥とは明らかに違います。それに、鳥は基本的に昼行性ですので、日没後に行動することはまれです。
コウモリがいると信じられない方は、一度観察に挑戦してみてください。

最後は第3位。
これはわかる人は多いかもしれません。
答えはアズマモグラです。
公園のように広く土のある場所に行くと、必ずのように「モグラ塚」があります。23区内でも公園や神社のような土が露出している場所は多く、モグラはかなり普遍的な存在です。

これらトップ3を眺めるとあることに気がつかないでしょうか。
それは、「これらの動物を目撃する機会が少ない」ということです。モグラは常に地面の下なので当然として、ネズミもコウモリも非常に生息数が多いにもかかわらず、目撃のチャンスはとても少ないものです。私たち人間は、目に見えるモノだけを信じ、見えないモノのことは気にも留めない傾向があります。だから都会で野生動物が現れると、それが新聞沙汰になったりするのでしょう。

ところで、ネズミ、コウモリ、モグラはそれぞれ齧歯目、翼手目、食虫目に分類されますが、これらは哺乳類の種の数のトップ3(順番もこの通り)でもあります。これらの種数の合計は、哺乳類全集の70%以上を占めるマジョリティーなのです。ネズミ、コウモリ、モグラがトップ3であるのは当然のことなのです。

さて、都会の哺乳類の第4位以下はどうなっているのでしょうか。
はっきりとしたことはわからないのですが、おそらくイタチ、アカネズミあたりが続くと思われます。さらにこれらに続くのはタヌキでしょうか。タヌキの生息数は意外と推測可能で、23区内に数百頭がいると思われます。ええっ、そんなに?と驚かれる方もいるかもしれませんが、この推定数はかなり確実です。

「動物は自然が豊かな所にいる。都会にはいない。」と多くの人が考えているでしょう。でもそれは明らかな誤解です。都会には動物が確かにいるのだ、ということをまずは知識として知っていてください。そうしてまわりを注意深く観察すれば、きっと動物達に遭遇する機会があるでしょう。


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