Vol. 134(2002/6/30)

[今日の事件]東京都江戸川区ワニ脱走事件・後編
事件を「飼育」の視点から見てみると

前回は、ワニの飼い方について紹介しました。今回はこの視点から事件を見直してみましょう。
「3年前に知人からメガネカイマンを預かった」という飼い主の証言ですが、これを疑う理由はないものの、額面通り信じるには若干の疑問も残ります。この飼い主がワニを飼っていた状況を想像してみましょう。

まず飼育場所ですが、ワニも満足できる広さで飼っていたとはとても思えません。おそらく、浴槽で飼っていたのでしょう(実際、浴槽で飼う人は少なくないらしい)。
食べ物はどう調達したのでしょう。生きている動物を与えていたとは思えませんので、死んだニワトリなどを与えていたのでしょう。
温度は室内ならなんとかなるでしょう。が、紫外線となると十分には浴びなかったでしょう。
これら飼育のための条件は十分だったとは思えません。が、それでもちゃんと生きていました。聞くところによると、ワニは意外と丈夫な動物らしく、このような悪条件でも生きることは不可能ではないそうです。。しかし、実際に飼っていた期間はもっと短かったかもしれません。3年も生かしていたというのはちょっと長いような気もするのです。しかし、丁寧に飼えば不可能なことでもない……疑念はあるものの、検証は難しいことです。

飼育の登録をしていなかった、飼育設備が不十分だったといった条例違反については、おそらく条例のことを知らなかったと思われます。
もし条例のことを知っていたのならば、これは悪質な事件です。登録をすれば当然、飼育設備も条例に合ったものを作らなければなりません。そうなると今の場所では飼えない、あるいはお金がかかることになる……ならば無届けで知らんぷりをしてしまった方が面倒なことにはなりません。また、無届けがばれたとしても、「預かったもので、条例のことはしらなかった」という言い訳をすればいいのですから。
条例のことを知らなかった割には、3年もそれなりに飼育できるほどには知識はあったわけで、ややアンバランスな印象もあります。近くに爬虫類マニアがいて、いろいろ飼育のアドバイスをしていたのかもしれません。

こうやって細かいところをつついていくと、変な所はいくつもでてきますが、全体で見ると飼い主の証言は整合性があるとはいえます。私が新聞記事から推理できるのもここまで。これ以上のことは何も言えません。


この事件で考えてほしいことは、あなたの近くにも猛獣を無届けで(つまり、不十分な飼育設備で)飼っている人が確実にいるだろう、ということです。ほとんどの人にその実感はないでしょうが、日本は動物の輸入数が多いという事実があるのです。今回の事件では具体的被害がなかったのでこれ以上の騒ぎは無かったのですが、もしケガ人が発生していたらこの程度ではすまなかったでしょう。

はっきり言ってしまえば、東京都の条例に挙げられている特定動物(多くは猛獣か有毒)は、個人では飼うべきではない動物です。そもそも飼おうと思ってはいけない動物なのです。そしてそれ以前に、動物の幸福を考えるならば、十分な環境を用意できない場合には動物を飼うべきではないのです。


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