いきもの通信 Vol.137[今日の事件]カブトムシ・クワガタムシの輸入緩和は再考すべきである 

Vol. 137(2002/8/4)

[今日の事件]カブトムシ・クワガタムシの輸入緩和は再考すべきである

[ON THE NEWS]
農林水産省植物防疫所によると、2001年に輸入されたカブトムシ類は31万8千匹、クワガタムシ類は36万4千匹。特に多いのがアトラスオオカブトムシ20万匹、オオヒラタクワガタ10万匹。
トラフィック・ジャパンの店頭調査によると、専門店の中には輸入未認可の種を売っていたり、カブトムシ・クワガタムシの輸出を禁じている国からの種を売っていたという。
(SOURCE:2002年7月30日 朝日新聞(東京版))

[EXPLANATION]

カブトムシ・クワガタムシの輸入については、検疫手続がゆるくなった2年前にも取り上げましたが、事態はどうも悪い方向に向かっているようです。

新聞記事にもあるように、1年間にカブトムシ・クワガタムシ合わせて68万匹以上も輸入されているのですが、これには私もびっくりです。それだけマニアが多いのだとしても、この数字は大きすぎるように思います。おそらく歩留まりを見込んで(つまり小売り販売する前に死亡する個体もいるということ)大量に仕入れているか、小売業者・卸業者が過剰に在庫を抱えているとしか思えません。
そんなに抱え込んでもビジネスとして成り立つとは思えません。いずれ落ち着けば、この数は減るだろうことを期待したいのものです。

カブトムシ・クワガタムシは世界の熱帯〜温帯に広く分布していますが、日本へ輸入されているのは東南アジア産のものが大半でしょう。
以前、雑誌の記事で日本向けにクワガタムシを採取して出荷している現地の様子の記事を読んだことがあります。カブトムシ・クワガタムシなどはそこらにいくらでもいますから採取は簡単ですし、日本人は虫を高く買い取ってくれます。おかげで地元業者はうるおいます。しかし、大量に採集することで、現地の自然のバランスが崩れるのではないか、というおそれもあります。このままではそれこそ、一帯のカブトムシ・クワガタムシが取り尽くされてしまうかもしれません。68万匹という数字は、地域によっては生息数が激減してしまうことがありえることを意味していると思われます。

カブトムシ・クワガタムシの輸入時の手続きを担当しているのは農林水産省植物防疫所ですが、久しぶりにホームページの「検疫有害動物でないカブトムシ・クワガタムシ一覧表」を見てまたまた驚きました。掲載されている種類がかなり増えているのです。
2年前はカブトムシ・クワガタムシ合わせて53種だったのが、今年2002年6月のリストではカブトムシ35種、クワガタムシ248種にも拡大されているのです。世界中のカブトムシ・クワガタムシの種類はまだまだ多いのですが、主要な種類がすべて網羅されているといっていいでしょう。これでは規制は無いも同然です。
3年前の「輸入解禁」は、正しくは「輸入手続簡略化」というもので、それ以前と比べて、大幅に規制が変化したわけではありません。たったこれだけの規制緩和で1つのマーケット(市場)ができてしまうわけですから、不思議なことです。

輸入されたカブトムシ・クワガタムシは、事故であるいはうっかりして飼育ケースから屋外に逃げることもあります。そして、早くも各地から外国産カブトムシ・クワガタムシを見たという報告が来つつあるようです。
前にも書きましたが、外国のカブトムシ・クワガタムシも日本で越冬し、繁殖する可能性があります。そうなると特に問題となるのはクワガタムシでしょう。カブトムシに比べると、クワガタムシは種類が多く、アジアには同種、近縁種が広く分布しているからです。さらに種類をしぼるとヒラタクワガタ(Dorcus titanus)が最大の問題になるでしょう。ヒラタクワガタは日本だけでなく、東アジアから東南アジアに分布しています。そして、地域ごとに細かく亜種に分類されています。日本でも離島のヒラタクワガタは亜種に分類され、それぞれ形態に差異があります。それぞれの亜種は地域的に隔離されているので、自然の状態では交雑することはりません。ところが、今非常に多くのヒラタクワガタが輸入されています。10万匹輸入されているというオオヒラタクワガタは名前は違うのですが、ヒラタクワガタと同じ種類のことです。なぜこんなに人気なのかはわかりませんが、東南アジア産のヒラタクワガタは日本産より大型になる傾向があり、10cm超にもなります(日本産では8cm超は極めて珍しい)。より大きな個体を育てるために、アジア各地のヒラタクワガタが集められ、交配されているのではないか、と想像されます。もしそういう個体が自然環境に流出すると、日本のヒラタクワガタの本来の遺伝子が予期せぬ変化を受けることになるでしょう。

動物問題一般に共通していること、それは「人間による自然への介入」です。日本での勢力拡大が問題になっているアライグマやミシシッピアカミミガメも、人間がペットとして飼っていたものが起源ですから、「人間による介入」には違いありません。特に、専門家の領域だったものが一般人が誰でも入手できる状況に変化したとき、この意図しない介入が起こります。
カブトムシ・クワガタムシの輸入は、このままではどういう結果を引き起こすか予測できません。直ちに輸入を大幅に制限するべきであると私は考えます。特に、国内外に同じ種が分布しているヒラタクワガタ、それと交雑の可能性がある近縁種は輸入を禁ずるべきでしょう。


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