いきもの通信 Vol.138[今日の事件]コウノトリの郷公園にコウノトリが飛来 

Vol. 138(2002/8/11)

[今日の事件]コウノトリの郷公園にコウノトリが飛来

[ON THE NEWS]
8月5日、兵庫県立コウノトリの郷公園(豊岡市)に野生のコウノトリ1羽が飛来した。

[EXPLANATION]

「絶滅の危機にあったが、繁殖に成功して数を増やしている鳥」というと皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。おそらくほぼ全員が「トキ」と答えるでしょう。それはそれで正解ですが、これにあてはまる鳥がもう1種類いることをご存知でしょうか。そして、その鳥を近い将来、野生に戻す計画が進行中なのです。
それがコウノトリなのです。

コウノトリといっても、今の日本人にはピンとこないと思います。野生のコウノトリが絶滅して30年。20世紀初頭でも100羽以下しかいないほど数が少なかったのですから、人々の記憶にはほとんど無い鳥なのです。
コウノトリは、外見はツルの仲間のように見えますが、サギやトキの仲間です。体の大きさは、日本最大のサギであるアオサギやダイサギよりも大きく、日本最大の鳥、タンチョウ(タンチョウヅル)より少し小さいぐらいです。外見からはツルとコウノトリが別の分類の鳥とは思えないほどそっくりで、かつて、日本では(おそらく中国でも)コウノトリはツルの仲間だと思われていたようです。
「ツルの恩返し」という昔話も、場所によっては「コウノトリの恩返し」だったりするそうです。
コウノトリには、季節移動をする渡り鳥タイプと、移動しない留鳥タイプがいます。日本にいた留鳥タイプの野生個体は絶滅しましたが、ロシア沿海州や中国などには今でも渡り鳥タイプが生息しています。そして、この渡り鳥タイプは今でもごくまれに日本に飛来しています。ただし、これは渡りの途中で迷って日本に来てしまったようです。

※補足しておきますと、ヨーロッパにいるコウノトリは、外見は東アジアのコウノトリにそっくりですが、別の種と考えられています。ヨーロッパのコウノトリは「シュバシコウ」といわれています。

野生のコウノトリが最後まで見られたのは、兵庫県豊岡市でした。戦後、豊岡市と兵庫県はコウノトリを保護する活動をしました。野生では生存が難しいと考えられ、捕獲して飼育することになったのです。豊岡には専用の飼育場も建設されました。しかし、残念なことに1971年に野生のコウノトリは絶滅してしまいました。その後、コウノトリを繁殖させる努力が続けられました。繁殖が成功したのは1988年、多摩動物公園でのことでした。翌1989年にも豊岡で繁殖に成功しました。その後、繁殖は順調に進み、豊岡で飼育されているコウノトリは、今年(2002年)ついに100羽を超えました。
ここまでの経緯、本当にトキそっくりです。しかし、トキが国内で繁殖に成功したのは1999年。コウノトリの方がずっと先を行っているのです。

繁殖の次の目的、それはコウノトリを野生に戻すことです。しかし、現状のまま野生に戻しては、以前と同じように数を減らしてしまうでしょう。絶滅の原因を再検討し、対策が必要となります。原因のひとつは食べ物となる魚やカエル、昆虫などが減ったこと。もうひとつの原因は農薬でした。コウノトリが安全に生活できる場所ととして、豊岡市内に「コウノトリの郷(さと)公園」という飼育施設が完成しました。同公園は谷を利用した棚田があった場所です。ここを湿地として整備し、コウノトリの食べ物となる動物たちが生息できるようにしています。また、公園の前に広がる水田では、減農薬・減化学肥料のアイガモ稲作が行われています。絶滅を教訓に、コウノトリが暮らせる準備が進んでいるのです。
コウノトリを外に出すのは2005年。もうすぐなのです。

ここで、冒頭の事件に戻ります。
コウノトリがやって来ることがどうして大事件なのか、もうおわかりになったでしょう。日本で(動物園を除いて)唯一コウノトリを飼育しているコウノトリの郷公園。そこではコウノトリを迎える準備が整いつつある。そこへ舞い降りた野生のコウノトリ。
この野生コウノトリはこの1年半ほどの間に西日本で何度か目撃されていた個体と同じではないかと考えられているようです。渡りの途中に日本に迷い込み、そのまま大陸に戻れなくなってしまったようです。7月末にお隣の京都府でも目撃されており、それが豊岡にやって来たようなのです。
今まであちこちふらふら飛んでいたコウノトリが、広い日本の中の同公園にやって来たということは、貴重な偶然といえるでしょう。この野生個体がここに居着くのならば、同公園はコウノトリにとって良い環境であることが証明されたといえるでしょう。また、野生個体が飼育個体になんらかの影響を与えるかもしれません。交尾にまでいたれば、遺伝子の多様性にも良いことになるでしょう。
今のところ、このコウノトリはここから動く様子はありません。これからどうなるのか、目が離せません。


ところで、このニュースは東京だけでなく、全国的にも(そして地元関西でも)ほとんど流されませんでした。これがトキなら新聞の1面に載るでしょう。コウノトリは知名度が低いということもありますが、マスコミの生物についての知識レベルがこの程度のものというのも真実なのです。


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