いきもの通信 Vol.141[今日の事件]アゴヒゲアザラシ出現!2/飼ってはいけない、野生動物 

Vol. 141(2002/9/8)

[今日の事件]アゴヒゲアザラシ出現!2

飼ってはいけない、野生動物

動物事件を扱う連載記事を書いていた雑誌がなくなったので、これからは動物事件を扱うことが増えるかもしれません。ということで、この夏の話題をさらったアゴヒゲアザラシ事件の続きです。


8月17日以降、多摩川から姿を消したアゴヒゲアザラシは、8月25日に鶴見川(川崎市、多摩川の西隣の川)に現れました。しかし、8月31日以降、また姿を消してしまいました。
アゴヒゲアザラシにはたくさんの観客が群がったということはニュース等でご存知の方も多いでしょう。これはつまり、マスコミも群がったということでもあります。ただ、雑誌記事を見てみると、写真中心の記事で、内容もあたりさわりのないものばかり。私の「飼育個体放獣説」にふれるものはまったくありませんでした。。あちこち取材すれば放獣説は必ずどこかで出るはずで、これはマスコミの突っ込み不足と言っていいでしょう。記事の中には、大地震の前兆というものまで登場しました。この手の話は何かあるたびに登場するのですが、冷静に考えると意味のない説です。動物の異常行動と地震の発生の関係は科学的な証明がなされていません。少なくともアザラシと地震の関係が調べられたことはありません。こういった話は、例えて言えば「総理大臣がくしゃみをすれば大地震が起こる」ということと同じようなレベルの意味しかありません。こういう話に飛びつくようでは雑誌のレベルがわかってしまいます。
逆に興味深い情報を載せていたのは週刊朝日でした。問題のアザラシと同じと見られる個体が少し前に三浦半島(東京湾の入り口)で目撃されていたという話が載っていました。私が知りたかったのは、多摩川以前にも目撃されているのかどうか、ということでした。いきなり多摩川に現れたというのは不自然だからです。この記事の情報の通りだとすると、やはりこのアザラシは北から泳いできたものと考えたほうが良さそうです。私の「放獣説」はいったん取り下げてもいいでしょう。だからといって、珍獣ペットの流行に対しての警告は取り下げることはありません。


さて、今日の本題はここからです。
ライコスという総合情報サイトに、オンライン投票ができるアンケートのページがあります。そのアンケートで、8月27日から9月4日まで「アザラシのタマちゃん、どうするべき?」というテーマで投票が行われました。その結果をまずはご覧いただきましょう。

No.34 アザラシのタマちゃん、どうするべき?

ふるさと北極に帰してあげて!!
529
5.2%
川の汚染が心配。せめて海に放そう
5058
49.8%
水族館で引き取って欲しい
302
3.0%
タマちゃんの勝手でしょ
781
7.7%
このまま鶴見川名物になってもらいたい
401
4.0%
我が家で飼いたい
3058
30.2%
投票総数
10129

うーむ、なんという結果でしょう。そもそも設問自体がふざけているような雰囲気がありますし、投票している側も冗談やしゃれで投票しているように思えます。また、一般的なネットユーザーの傾向からすると、投票者は20〜30代の人が多いと思われ、世論調査としては非常に不完全な、信頼できない種類のものです。
それぞれの項目を詳しく分析してみましょう。

最も動物保護的に良心的だと思われる(しかし、現実には適切でない)選択肢、「北極に帰して」「水族館で引き取って」の票が極端に低いのは不思議です。普通の人ならばこれらを選びそうな気がするのですが。どうも、動物に関心のある人ばかりが投票しているのではなさそうな感じです。
「このまま鶴見川名物に」が低いのは当然のことでしょう。そんなことを願っているのは地元の人ぐらいです。「うちの近所の川にも来ないかな」と考える人ならきっとたくさんいたことでしょう。
最多得票だったのが「海に放そう」だったのは非常に意外でした。これは鶴見川が「汚い川」ということが報道されたせいもあるでしょう。しかし冷静に考えればこの方法はあまり意味のないことです。もし、あのアザラシを捕獲して東京湾に放しても、またどこかの川に現れる可能性は非常に高いのですから。なぜこの選択肢が人気だったのか、私には理解できません。
私が最も恐れ、注目していた選択肢が「飼いたい」です。そして、投票結果は非常に残念なものになってしまいました。30%もの人が「飼いたい」と言っているのですよ! これまた冷静に考えれば、アザラシを個人で飼うことは不可能だということぐらい誰にでもわかるはずです。冗談やしゃれでこれを選んだ人もいるのでしょう。だとしとも、この3000人の中には本気で飼いたいと思っている人がいるかもしれません。この選択肢を選んだ人たちは潜在的な珍獣飼育予備軍だといえるでしょう。そう考えると、この数字の多さにはぞっとします。先日のワニ脱走事件をご記憶の方もいるでしょう。ナマケモノを売っているショップもあります。オランウータンを密輸した業者もいます。信じられないような動物を飼っている人は確かにいて、需要もそれなりにあるのです。
ここで考えて欲しいのは、「野生動物を個人で飼う必要があるのか?」ということです。イヌやネコなどのペットは、長い歴史の中で人間と共に生活するようになった動物ですので、飼うことにはなんら問題はありません。しかし、野生動物はそうではありません。野生動物は本来の生息環境の中で生きるのが最も望ましいことなのです。それをわざわざ個人で飼育する理由はあるのでしょうか?

今回のアゴヒゲアザラシは人間が飼っていた可能性は低くなりましたが、上記のアンケートからは安心できない現状が見えてきます。たとえ冗談でも「あのアザラシを飼いたい」と思った方は、野生動物の側に立って、動物を飼うことの意義を問い直してほしいものです。


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