Vol. 142(2002/9/15)

[今日の本]本当に困っている人のためのゴキブリ取扱説明書

本当に困っている人のためのゴキブリ取扱説明書
[DATA]
著者:青木 皐(あおき・のぼる)
発行:ダイヤモンド社
価格:1400円
初版発行日:2002年4月18日
ISBN4-478-86036-X

[SUMMARY]プロジェクトが教えるゴキブリ退治

ゴキブリ駆除の専門家が屋内ゴキブリの完全駆除を指南した本。家屋内のゴキブリの生態、ゴキブリの侵入経路などの解説に始まり、屋内ゴキブリをゼロにするための日常の管理方法を紹介する。その方法はレスケミカル(殺虫剤をなるべく使わない)という環境にも優しいものである。その他、学問的ゴキブリの話や、なぜゴキブリが嫌われるかについての考察も。

[COMMENT]ゴキブリ退治には敵を知れ!

ゴキブリ本を取り上げるのは2回目ですが、私がゴキブリに興味があるのは事実なのでご勘弁を。といっても、私は屋内ゴキブリを飼いたいと思ったことはありませんし(というか元々飼育系の人間ではないので)、自宅にまれに現れるゴキブリは駆除するようにしています。それでも、ゴキブリという昆虫は自然環境下では分解者という非常に重要な役割を果たしており、何も知らずにいるのはもったいない動物なのであります。しかし、ゴキブリの情報は少ないので日頃からそういうものにはアンテナを張っていなければなりません。
本書は屋内ゴキブリを完全駆除することを目的にした実用書なのですが、著者自身がゴキブリとその駆除を研究しただけあって、その内容は非常に実践的なものです。
本書ではゴキブリの生態について詳しく書かれていますが、「敵を知る」というのはいつの時代でも常に必要なことなのです。いくらゴキブリが嫌いだといっても、相手のことを知らずに、中途半端な知識と思い込みで戦うようではいつまでたってもゴキブリには勝てないでしょう。どんなに嫌いだとしても、ゴキブリから目をそらさない姿勢が必要なのです。目をそらしているようでは最初から負けを認めているようなものです。
本書のゴキブリ駆除方法で興味深いのは、「レスケミカル」つまり殺虫剤を極力使わない方法を提唱していることです。ゴキブリ殺虫剤というと、噴射スプレー式のものや発煙式のものが有名です。しかし、私はこのような化学物質をまき散らすタイプのものは使う気になれません。どういう成分のものが入っているか、それがどう人間に影響するか、わからないからです。これらの殺虫剤はゴキブリだけに効果があり、人間には影響は無いはずなのですが、それを100%信じることはできないのです。で、私は駆除方法にはトラップ式、つまり「ゴキブリホイホイ」タイプを採用しています。これならわけのわからない化学物質が散布される心配もありません。
殺虫剤のもうひとつの問題は、その効果が100%ではない、ということです。短期的には効果があっても、やがて耐性を身に付けてしまうのです。では、ゴキブリ駆除は不可能なことなのかというとそうではありません。よく考えてみると、ゴキブリが来ない場所、住み着かない場所というのは確かに存在します。なぜゴキブリがいないのか、その理由がわかれば殺虫剤無しでもゴキブリ駆除ができるはずなのです。私はこのような駆除方法を、殺虫剤による「化学的駆除」に対して、「物理的駆除」と言っていました。そして本書を読んでいると、ほぼ同じ趣旨の言葉として「物理的制御」というものが出てくるのです。ゴキブリを駆除するには、ゴキブリが嫌いな環境を作ること。これこそが安全で効果的な方法でしょう。詳細はとにかく本書を読んでみてください。

ところで、今年はもう1冊ゴキブリ本が出ています。「ごきぶり撲滅大作戦」という書籍ですが、こちらの方は私はお勧めしません。それは、素人による素人考えの内容でしかないからです。内容は、ゴキブリ駆除をあれこれ試す過程をつづったルポ風のものですが、では完全駆除ができたのかというと、その確信が持てない結末です。悪戦苦闘の過程を読んで楽しむ、という読み方なら問題ないのですが、現実のゴキブリ駆除に役に立つものとは思えません。たとえ参考になる部分があると感じても、理論的・実践的な裏付けがあるわけではないので、実際に役に立つかどうかは保証できません。
この本の内容で決定的に間違っているのは、世界中のゴキブリを駆除しようとしている(らしい)ことです。これではゴキブリ駆除は失敗することは確実です。屋外のゴキブリまでも殺していったいどうしようというのでしょう。はっきり言って見当外れの内容なのです。

「本当に困っている人のためのゴキブリ取扱説明書」に話を戻しますと、こういうことが書かれています。
「地球上の生き物としての大先輩であり、”サバイバルのプロ”である彼らに、ぜひ、敬意をもち、礼儀をわきまえて向かいあってほしい」
そう、こういう態度こそを人間はまず身につけるべきなのです。


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