Vol. 154(2002/12/15)

[今日の本]野鳥売買 メジロたちの悲劇

野鳥売買 メジロたちの悲劇
[DATA]
編著:遠藤公男(えんどう・きみお)
発行:講談社(講談社+α(プラスアルファ)新書131-1D)
価格:800円
初版発行日:2002年11月20日
ISBN4-06-272163-5

[SUMMARY]野鳥密猟・密売買の現場を歩く!

現在も横行しているメジロの密猟・密売の実態を報告する。
主に1990年代からの日本、中国(香港を含む)の現場が書かれている。中国は香港、広州、北京などの流通・市場の現場を著書自らが歩いての報告。日本では密猟や「鳴き合わせ会」などの事例報告、各地での対策の活動などを紹介している。

[COMMENT]ニュースにならない犯罪

私は動物事件に興味があるので、新聞記事にはいつも注意しています。動物事件というと最近はタマちゃんをはじめ、サルが暴れたとか、ネコを虐待したといったものがありましたが、こういうものばかりが動物事件ではありません。時々、というよりもまれに小さな扱いでメジロの無許可捕獲・飼育についての記事が載ることがあります。あまり大々的にマスコミに登場することがないため、なぜメジロを飼うと犯罪なのかわからない方も多いでしょう。私もこの飼育メジロには興味があったのですが、新聞などにはほとんど登場しないため、ずっと情報不足でした。そしてようやく登場したのが本書だったのです。本書の著者は、国内の調査や、輸出元である香港・中国を実際に歩いて、密売買の実態を調べてきており、本書で紹介されるその様子はとても興味深いものです。
飼育メジロ問題についてピンと来ない方にはぜひ読んでほしい本です。

この本は、メジロの密猟・密売買の実態を紹介していますが、「密」とつくことからもわかるように、これは犯罪なのです。その仕組みについて解説しましょう。
数ある鳥の中でなぜメジロなのかというと、メジロの「鳴き合わせ会」でその美声を競わせるため、非常に需要が高いのです。しばらく前までは全国各地あちこちで鳴き合わせ会が開催されていました。ここで問題になるのが、メジロは許可なく捕獲することが禁じられていること、そして1世帯につきメジロは1羽しか飼ってはいけないということです。鳴き合わせ会にメジロを持ち込む人たちは、1人で何羽も持ってきます。家にはもっとたくさんのメジロがいるでしょう。これは違法なのですが、抜け道があるのです。法令にしばられるのは国産メジロだけで、国外産のメジロは輸入証明書があれば何の制限も受けないのです。では、彼らが飼っているメジロは国外産なのかというと、実際はほぼすべて国内産なのです。
そのからくりは次のようになっています。まず、メジロを主に中国から輸入します。それらには輸入証明書がついていますが、中国メジロを途中で日本のメジロにすりかえるのです。あるいは、国内産のメジロに偽造の輸入証明書をつけている場合もあります。このようにして、日本で密猟されたメジロが中国産などと偽って流通するのです。これは明らかな鳥獣保護法違反なのですが、警察はあまり重大なものとは考えていないようで、摘発されることもあまりないのが実情です。また、マスコミも同様の認識で関心が薄いため、記事になることはさらに少なくなるのです。
中国では、以前から輸出用や食用の動物の需要が高く、野生動物は取り放題の状況が最近まで続きました。最近ではようやく野生動物保護の方針が広がりつつあるようですが、取り締まりが行き届いていない場面もあるようです。
中国から輸入される野鳥の中で、飛び抜けて多いのはメジロで、年に2〜6万羽にもなるといいます。これらのメジロは輸入後は国内産メジロとすり替えられて処分されているらしいのです。輸出先は日本だけではありませんし、種類もメジロだけではありません。この何倍にもなる野鳥が捕獲されているのです。これはつまり、中国の野鳥自身も危機に瀕しているということなのです。

今、日本では珍獣珍鳥が簡単に入手できます。しかし、そのためにこれらの動物たちは生息地で狩猟され、生存の危機にさらされているということを忘れてはいけません。個人的な趣味のために野生動物を飼う意味が本当にあるのか。よく考えてみてください。人間が繁殖させているイヌやネコといった飼育動物(家畜動物)と、自然環境の中で生息している野生動物を同じように扱ってはいけないのです。


最後に、このメジロ関連の法令・告示の根拠を紹介しておきましょう。本書ではこの説明が足りないので補っておきます。
どんな法律でも同じようなものかもしれませんが、細かい決まりごとは法律本体には書かれておらず、施行令や告示に書かれています。一般には「鳥獣保護法に違反」と簡単に書かれることが多いのですが、これはちょっと正確ではないのです。

まず、捕獲の禁止は、「鳥獣保護法」=「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」(本当は今年2002年(平成14年)に改正されたのですが、資料が無いので平成11年改正のものを引用します)第1条の5に「狩猟鳥獣以外の捕獲の禁止」が書かれています。「狩猟鳥獣」の定義は「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律第一条ノ五第二項の規定に基づく狩猟鳥獣の種類」という環境省告示にあり、この中にはメジロは当然入っていません。本来はメジロを捕ることは同法違反なのですが、飼育のために例外が設けられています。それが書かれているのは「第9次鳥獣保護事業計画の基準」という環境省告示です(リンク元)
この基準の中に、「第9 その他鳥獣保護事業の実施のため必要な事項」→「1 鳥獣の捕獲等に係る許可基準の設定」→「(2) 捕獲許可基準の設定方針」→「3その他特別の事由の場合」→「4愛がん飼養」という項目があり、ここでメジロについて次のように書かれています。


ア 許可対象者
 自ら飼養しようとする者(当該者が現に飼養許可に係る鳥獣を飼養しておらず、かつ5年以内に当該者又は当該者から依頼された者が愛がん飼養のための捕獲許可を受けたことがない場合に限る。)又はこれらの者から依頼を受けた者

イ 鳥獣の種類・員数
 メジロ又はホオジロに限る。数は種の如何にかかわらず1世帯1羽


えー、今どきの入試問題にも取り上げられないような悪文ですね(笑)。簡単にいうと、「一家に1羽しか飼えない」ということです。これがメジロの捕獲の例外です。捕獲に際しては許可が必要ですし、飼う時にも許可が必要です(どちらも管轄は都道府県)。

この「基準」には罰則のことは特に書かれていませんが、これに違反した場合は「鳥獣保護法」本体の罰則が適用されます。
鳥獣保護法第21条では許可の無い捕獲に1年以下の懲役または50万円以下の罰金、そして同第22条では許可の無い飼養に6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となっています。

本書によれば、今年2002年(平成14年)に改正された鳥獣保護法では、違法輸入の鳥獣の飼養にも「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」となったそうで、あやしげな国際取引にも歯止めがかけられることになりそうです。


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