いきもの通信 Vol.156[今日のいきもの]伝承の中の動物たち・その1/やはりキツネは伝承の王様!? 

Vol. 156(2003/1/5)

[今日のいきもの]伝承の中の動物たち・その1

やはりキツネは伝承の王様!?

昨年、雑誌「AERA」で妖怪ブームについての記事が載りました。その記事では、妖怪についてのデータベースの紹介もされていましたが、これを読んで私にはピンと来るものがありました。いや、私は別に妖怪マニアではありません。しかし、カッパやツチノコのように、かつては妖怪と動物の境界線は広く、あいまいなものでした。伝承の中には現代の知識で見てみても興味深いものがありますし、当時の動物観・自然観を知る上でも面白い資料です。今回と次回は、このデータベースを探索して見えてきた動物の伝承を紹介してみようと思います。

さて、このデータベース、正しい名称は「怪異・妖怪伝承データベース」といい、国際日本文化研究センターが作成したものです。内容は妖怪だけに限ったものではなく、かなり広範な事象を扱っています。同ホームページによれば、
「特に民俗学関係雑誌や江戸時代の随筆類に採録されている、この種の存在によって引き起こされたとされる「怪異・妖怪」現象に関する書誌情報」
を集めたものということです。

まずは、同データベースに登場する動物を挙げていきましょう。以下は、それぞれの言葉を検索してヒットした件数の順に並べたものです。参考までに、動物以外の言葉も並べてみました(赤い文字の項目)。カタカナと漢字が混じっていますが、基本的にカタカナで検索しています。ただし、カタカナだと関係のないものまでヒットするため(「ウマ」だと「生まれ変わり」や「病魔」もヒットしてしまう)、漢字で検索したりもしたからです。以下のリストは表記の文字で検索した結果を並べています。


キツネ 1425
◇テング 772
タヌキ 563
カッパ 463
ダイジャ 381
ヘビ 360(ツチノコを含む)
◇オニ 342
イヌ 272
◇ヒノタマ 264
◇ユウレイ 228
ムジナ 221
◇タタリ 204
ネコ 197
◇ヤマンバ 110
◇バケモノ 95
オオカミ 94
馬 93(「首切れ馬」多い)
カワウソ 66
◇ヨウカイ 66
イタチ 65(カマイタチが大半)
サル 63
◇キジムナー 41(沖縄に限られる)
◇ザシキワラシ 37(東北に限られる)
ツチノコ 36(「ノヅチ」が20件)
カラス 34(カラス天狗を若干含む)
ネズミ 33
エンコウ 28(「猿猴」=カッパの異称?)
◇シリョウ 27(死霊)
◇イキリョウ 24
亀 23
ヒヒ 23(「狒狒」「狒々」、動物のヒヒとは異なるものとみられる)
◇オバケ 22(あまりにも抽象的か)
◇ツキモノ 21
熊 18(熊野権現が若干)
◇ベンテン 18(ベンザイテンは3件)
◇アズキアライ 18
鹿 16
虫 16(虫の知らせ、お菊虫)
スズメ 14
◇エビス 10
◇アズキトギ 10
ブタ 9(鹿児島周辺が主)
◇ダイコク 9
ツバメ 8
蝶 8
◇アマノジャク 8
スイコ 7(「水虎」=カッパの異称?)
◇ユキオンナ 7
◇ロクロクビ 7
◇アクリョウ 7
鶴 6
鳩 5
ウサギ 4
イルカ 4
◇ヌエ 4
◇モノノケ 4(今でこそアニメ映画で有名だが、あまり一般的な言い方ではないようだ)
◇ノッペラボウ 4
モグラ 3
ウグイス 2
鷺 2
ホトトギス 2
◇ヤマビコ 2
クジラ 1
キリギリス 1
コウモリ 0
カモシカ 0


1位が断トツでキツネというのは面白い結果です。データベース全体でもキツネがトップの項目になるようです。キツネ自身が神様だったり、神様の使いだったりする(お稲荷様)ので、何かと神秘的だったということでしょうか。狐火、狐憑き、狐の嫁入り…とキツネにまつわる言葉は多いのですが、そういうものは比較的数が少なく、キツネに化かされる、だまされる話がほとんどです。キツネ自体の姿は現れなくても、そういった類がすべてキツネのせいにされている傾向があるともいえるでしょう。怪しいことは、何でもキツネのせい、なのです。
タヌキも第2位で多いのですが、ムジナと合わせてもキツネには遠く及びません。姿を見かける可能性が高いのはキツネよりもタヌキのはずなのですが、あまりに人前に出すぎたせいか、キツネほどの神秘性を獲得できなかったようです。
カッパは架空動物ながら堂々の第3位です。こんなに高ランクだと「やっぱり実在したのだ」と早合点する人も出てきそうですが、「オニ」も上位に食い込んでいますから実在の証拠にはなりません。
カッパそのものの記述よりも気になったのは、順位は下がりますが「カワウソ」と共通する内容が多いことです。相撲を取った話、だまされる話はどちらにも登場します。カワウソのことをカッパと呼んでいた、あるいは同一視していた可能性も考えられます。
ヘビは「ダイジャ」「ヘビ」と分けましたが、数が多い種類です。これもキツネと同じく神様だったり、神様の使いだったりすることと関係があるのでしょう。また、大蛇伝説は広く世界的なものなので(中国の龍、西洋のドラゴンもその類縁か)、もともとの素地がある存在といえます。

以下、多種の動物が並んでいますが、人間との関わりが深い順に並んでいるといってもいいでしょう。しかし、これは哺乳類に限った話です。最も親しい存在であるはずの鳥と昆虫の数が少ないのはどうしてでしょうか。あまりに親しすぎて、伝説伝承の発生する予知がなかったとも考えられます。または、体が小さいために神秘性が少なかったのかもしれません。
そんな中、鳥の中ではカラスが抜き出ているのは面白いことです。カラスは神の使いだったということもありますが、その体格の良さ、黒い姿は何か他の鳥とは違うものを感じさせたのでしょうか。

ところで、本論ではない項目についてもちょっと言及しておきましょう。
「弁天」「恵比寿(夷など)」「大黒」などの神様は妖怪ではありませんが、各地で信仰されており、伝承には欠かせないメンバーです。
妖怪類についてはいろいろ試したのですが、検索されないものがほとんどでした。妖怪というものは座敷童(ざしきわらし)やキジムナーのように土着性が強く、その土地独特の呼称があったりするため、データベース内でもヒットする件数が少ないのだと思われます。その代わり、全国で通用するキツネやタヌキといった実在の動物は誰でも知っているため引き合いに出されることが多かったのでしょう。

次回はこの続き。いくつかの動物について、個別の伝承をピックアップしてみます。


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