Vol. 171(2003/4/27)

[今日の観察]カメを観察してみよう その1

どんな種類がいるか調べる

3月になり気温も上がってくると、春だなあ、という気分になるものですが、池の岸辺にカメがぞろぞろと姿を現すのを見て春を感じる人もいるでしょう。カメの日光浴とかカメの甲羅干しとか言われている、誰でも見たことがある風景です。ただ、それを見ても「カメがいっぱいいるね〜」ぐらいの感想を持つ人がほとんどで、それ以上の追及はしません。カメを見ても発見なんかないよ、と思っているのでしょうが、いやいや、あのカメにも観察することはいろいろあるのです。私がカメの何を観察しているか、今回と次回で紹介しましょう。


まずはカメの種類を知ってもらわなければなりません。日本で見られるカメは、主にミシシッピアカミミガメ、クサガメ、ニホンイシガメの3種類です。

ミシシッピアカミミガメ

都会で見るカメといったら、まず間違いなくほとんどがミシシッピアカミミガメです。
見分け方は非常に簡単。「アカミミガメ」の名の通り、頭の横に赤いラインがあります(写真の個体は赤がかなり薄い)。念のため言っておきますと、この赤い部分は本当の耳ではありません。この模様は非常にわかりやすいので見間違えることはありません。個体によっては赤い部分が薄かったり、時には無いこともあるそうです。
ミシシッピアカミミガメは、その名前からもわかるように北米原産のカメで、元々日本にはいない動物でした。1960年代ごろからこのカメが飼育用に大量に輸入され始め、ペット屋や夜店などで売られるようになりました。店で売っている時は「ミドリガメ」という名前で、まだ子どもの小さなカメです。この頃は色もあざやかな緑色です。しかし、成長すると甲長は20cmにもなり(最大は30cm)、色も黒くなっていきます。飼うのに飽きてしまったり、飼うことができなくなった結果、外に放されることになったミシシッピアカミミガメの数はかなりの数になったと思われます。その結果が今の状態です。あそこもここもミシシッピアカミミガメだらけ。昔から日本にいたカメを探すのが難しくなるほどなのです。

クサガメ

ミシシッピアカミミガメがいるところならクサガメもいておかしくありません。
見分けるには背中の甲羅(背甲)に注目します。写真のように、中央とその左右にうね状の盛り上がりがあります。この盛り上がりは専門用語では「キール」と言います。この3本のキールがクサガメの特徴です。個体によっては盛り上がり方が小さかったりします。
また、首のあたりに黄色い模様(点状あるいは線状)があるのも特徴です。ミシシッピアカミミガメにも黄色の線模様がありますが、クサガメとは色も形も違いますので比べてみてください。ただし、高齢のオスの個体ではこの模様がなく、全身真っ黒になります(「メラニズム個体」と言う)。結局のところ、背甲のキールが判別の決め手になるということです。

ニホンイシガメ

ミシシッピアカミミガメ、クサガメに比べると、ニホンイシガメはきれいな水の所でしか見られません。つまり、都会ではほとんど見られないのです。
見分け方は、色です。ミシシッピアカミミガメ、クサガメと比べると明らかに茶色です。ただ、水から上がったばかりだと甲羅がぬれていて黒っぽく見えるかもしれないので注意が必要です。模様は特に無く、背甲の形に特徴があるわけではないので判別に迷うかもしれませんが、決め手はやはり色です。
ペット屋などで売られている「銭亀(ゼニガメ)」はニホンイシガメの子どもです。ただ、クサガメの子どももゼニガメと言われたりすることもあります。ニホンイシガメかクサガメかを見分けるには、背甲のキールがあるかどうかが決め手になります。


さて、私のいつものフィールドである井の頭公園でのカメ観察を紹介してみましょう。
まず最初に観察しなければならないのは、どの種類がどれだけいるかの確認です。と言っても、都会にいるのはほぼすべてミシシッピアカミミガメばかり。観察してもあまり楽しくありません。たくさんのカメの中から、それ以外を探すのが面白いのです。井の頭公園の場合、クサガメが5匹前後、ニホンイシガメが1匹か2匹いることがわかっています。あまりに遠すぎて判別できない場所もありますので、実際はもっと多いでしょう。クサガメは多少水質が悪くても大丈夫なので、いてもおかしくありません。しかし、ニホンイシガメがいるのは意外です。よくこんな汚い所に…と思いますが、人間が飼っていたものを放した可能性が大きいと思われます。まあ、もともとはミシシッピアカミミガメも放したものですし、クサガメも同じ可能性がありますが。
観察でカメの種類が一通りわかったら、次の観察に移るのですが、続きは次回に紹介します。


ところで、カメはこの3種類以外にもいます。これらを探すのもカメ観察の目的です。

スッポン

上記の3種の次に数が多いのがスッポンです。ほとんど水中生活なのですが、時々水からあがることもあります。見分け方は、とんがった口、背甲に分割線が無い(甲羅が外皮でおおわれている)ことです。スッポンも養殖場から流出したものが多くいると考えられています。

カミツキガメ、ワニガメ

どちらも北米に生息しているカメで、名前からも想像できるようにかなり危険なカメです。カミツキガメは甲長最大50cm、ワニガメは甲長最大80cmにもなる巨大カメです。どちらもくちばしが鋭く、かみつかれたら指が切断される危険があるほどです(すべてのカメには歯は無い)。
ワニガメは、ほとんどの時間を水底でじっと獲物を待って過ごします。水上に上がるのは息つぎをするときだけ(その時も口先を水面に出すだけ)。水中では数時間とどまることができます。そのためその姿を見ることほとんどありません。カミツキガメは陸上にも水中にもいる可能性があり、発見はワニガメと比べると容易な方です。
北米のカメがなぜ日本にいるかというと、やはりペットとして輸入されているのです。ところが、どちらも大きいし、あまり見ていて楽しくない動物なので、飽きてしまうことが多いようなのです。そして外に放されてしまうのです。
これらのカメはまだどこにでもいるというものではありませんが、井の頭公園でもカミツキガメが発見されたことがあります。爬虫類研究者の千石先生がテレビ番組「どうぶつ奇想天外」の取材で、井の頭公園でカメ用のわなをしかけたところ、そのひとつにカミツキガメがかかったのでした。このカメは同公園の動物園で飼育されていましたが、今も飼われているはずです。
こういうことがあったものですから、今も私はこれらのカメには注意しているのですが、どこを探せばいいのか見当もつかないのが本当のところです。

その他のカメ

輸入されたカメは他にもいろいろな種類がいます。例えば、写真(「種不明」)のカメ。背甲に弱い突起があるのがわかるでしょうか。図鑑で調べたところ、北米原産のチズガメの仲間だと思われます。これも井の頭公園で撮影。当然ながら、人間が持ち込んだものです。
ミシシッピアカミミガメは、「アカミミガメ」という種の一部(亜種)なのですが、アカミミガメの中には「赤耳」模様が無い亜種もいます。このようなカメが混じっている可能性もあると思われます。
これらの輸入カメを実際に見ることはほとんどないでしょうが、一見ミシシッピアカミミガメそっくりなものもいますので、注意して観察する必要があります。


たかがカメ、といってもこのように観察することはいろいろあるのです。あなたの近所の池にはどんなカメがどれだけいるか、確認してみてはどうでしょう(観察には双眼鏡があれば便利です)。また、他の池や川などに行く機会があれば、そこのカメの種類を調べてみるのもいいでしょう。


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