Vol. 194(2003/10/5)

[今日の事件]カメ泥棒の社会学

今年は冷夏の影響で農作物が不作になっていますが、それを狙っての農作物泥棒が横行しています。今年の前半はカメ泥棒のニュースが多かったのですが、それを忘れさせるほどの勢いです。
カメ泥棒については以前にも書いており、一部重複する内容がありますが、もう一度取り上げてみることにしました。


そもそも「泥棒」の定義とはどういうものでしょう。
「人の所有物を不正に入手すること」というのが最も簡単な定義になるでしょうか。さらに詳しく言うと、その「所有物」は「犯人にとって価値のあるもの」であることが重要です。価値がないものを盗んでも意味がないのは当然です。例えば、泥棒さんがゴミを盗むなんてことは普通はありえないのです(何らかの理由でゴミに価値がある場合は別だが)。
「価値のあるもの」とは、普通は現金のことです。現金(経済学で言うところの「貨幣」)はすぐに利用できる、最も使い勝手が良いモノであるからです。よって、泥棒さんには最も人気が高いモノなのです。
次いで人気が高いのは、商品券など各種金券、預金通帳(印鑑とセットだとなお良し)といった、比較的換金性が高いものです。
その他、何を盗むにしても換金できるモノであるほど価値は高いと言えるでしょう。結局のところ、現金を手に入れることこそが泥棒さんの最大の目的なのです。
今年多発している農作物泥棒の場合、泥棒さんが自分で消費するには被害量が大きすぎるので、明らかに売りさばいて現金化することを狙っていると推理できます。
さて、動物泥棒も事情は同じで、動物を売りさばいて換金することを目的にしているとみていいでしょう。最近はネットオークションという換金手段もあり(例えばここ)、足どりの追跡はますます難しくなっています。

ところで、動物泥棒には「換金」以外の特殊な目的もあります。
今年、このような事件がありました。


カメの愛好家がペット卸売り店からカメ計88匹を盗んだ。そのカメは自宅に持ち帰ったが、大量のカメを不審に思った家族が警察に通報、愛好家は容疑を認めた。(2003年7月21日)


家族も容疑者のカメへののめり込みには嫌気がさしていたようです。
動物泥棒の場合、この事件のように換金するよりも自分のものにしたいと考えるマニアが多いかもしれません。そして、泥棒自身が飼うと、そこで足どりは消えてしまうわけですから、捜査が行き詰まってしまうこともあるでしょう。非常にやっかいなことです。


ところで、なぜカメが泥棒さんに人気なのか、理由がわからない方もいるでしょう。
カメは値段が高いから、というのが第一の理由です。値段は、種によって数万円から数百万円とかなり幅があります。値段が高いカメは、ワシントン条約に記載されているような希少な種であると考えていいでしょう。しかし、高価な動物は他にもいます。今人気のチワワは小売り30万円ほどになっているようです。これも結構いい値段ですよね。それでもやっぱりカメは狙われます。
値段以外の理由、それは「暴れない、逃げない、吠えない(鳴かない)」という好条件があるからです。さらに、飼育情報がそれなりに整っており、「飼いやすい」という理由もあります。これらの基準をクリアーする動物というのは以外と少ないのです。哺乳類、鳥類は「吠えない(鳴かない)」という条件でほとんど脱落します。例外はネズミやウサギですが、うーん、あんまり高価とは言えませんしね。爬虫類は静かな動物ですが、トカゲやヘビはああ見えても力持ちで、隙あらば脱走しようとするやっかいな連中です。魚など水を必要とする動物は、水槽という特殊なものが必要となりますので飼いやすいものではありません。カメ泥棒でも、水棲カメではなくリクガメ(陸亀)類が狙われるのは、やっかいな水の管理をしなくてもすむという理由があるのです。
カメが狙われるもうひとつ理由として、愛好者が多いということもあります。意外かもしれませんが、日本は世界的に見てもカメの輸入大国なのです。どこにそんなにマニアがいるのかと私も不思議ですが、流通量が多いのは否定できません。
飼育が簡単で、しかも値段が高い。そして喜んで飼うマニアが多いとなると、泥棒さんには格好の標的となるのです。


カメ泥棒の予防策、それはお店がちゃんと防犯対策をすることに尽きます。それ以上の対策を求めるとするならば、多くの野生動物が輸入されている現状を改めるべきでしょう。そうなると業者には都合が悪いのですが、こうも簡単に野生動物が持ち込まれる状態というのも異常に思えるのです。
そして、動物をあまりにも気楽に飼うこと、絶滅の危機にある野生動物をわざわざ飼うことの問題点をもっと広く知ってもらうことも必要になるでしょう。


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