いきもの通信 Vol.203[今日の観察]見ることは理解すること 

Vol. 203(2003/12/7)

[今日の観察]見ることは理解すること

「百聞は一見に如かず」ということわざがあります。これを英語で言うと、「Seeing is believing」となります。「believe」は「信じる」と普通訳されますが、この場合は「理解する」というニュアンスのように思います。つまり「見ることとは理解すること」ということです。
自然観察でも、見なければ理解できないことが多々あります。


カワセミという鳥がいます。腹側のオレンジ色、背中側のブルーが美しい鳥で、「空飛ぶ宝石」と呼ばれることがあります。漢字では「翡翠(ひすい)」とも書かれるほどです。そんなに美しい鳥は、やっぱり山奥とかに行かなきゃ見れないんでしょうね、と誤解されることがあるのですが、実際は都会でも普通に見られる鳥です。
ところが、実際にその姿を見ることは慣れない人にはかなり難しいものでしょう。逆に、自然観察やバードウォッチングに慣れた人は(100%発見できるわけではありませんが)いとも簡単に見つけるのです。この差はどこからくるのでしょうか。

慣れた人が動物を探す時は、むやみやたらにきょろきょろするのではなく、意識的にせよ無意識的にせよ最初から条件をしぼって探すものです。
カワセミを探す場合は、例えば私の場合はこうやって探しています。

・いる場所

カワセミがいる場所はかなり限定できます。カワセミの食べ物は魚です。つまり、カワセミは池や川などの水辺にいます。そして、水の中をのぞき込めるような場所に陣取ります。水面の上に伸びる木の枝は最適な場所です。水中から突き出た杭もいい場所です。他にも岩の上や、ヨシの茎先(カワセミは非常に軽いので折れることはない)にもとまります。まずはこのような場所を重点的に探していきます。

・大きさ

カワセミはスズメよりやや小さいぐらいの大きさです。大きさの情報は非常に重要です。説明が難しいのですが、大きさのわからない見たこともない動物を見つけるのはかなり難しいものだという実感があります。人間が何かを探す場合、頭の中で大きさ、色、形といったパターンを構築し、それに近いものを探し出しているように思います。つまり、頭の中にはこの場合「カワセミ」の姿のイメージが描かれているわけです。カワセミを見たことがない人は、このイメージを描くことができないために発見率が低くなってしまうのではないでしょうか。
これと同じことは以下の「色」「形」でも言えます。

・色

カワセミは、腹側のオレンジ色、背中側のブルーという配色なので、見る向きによって色の印象が変化します。カワセミの配色はとても派手に思えるのですが、実際には巧妙な隠ぺい色になっています。つまり、オレンジは日なたの色、ブルーは日陰の色であり、木陰の枝にとまると背景にうまく溶け込んでしまうのです。ですから、カワセミの場合は色情報をあてにしてはいけません。もちらん、他の多くの動物の場合は有用な情報です。

・形

カワセミの体型は、「丸っこい体に長いくちばし」という独特なものです。似た体型の鳥はほとんどいませんので、これは有用な情報です。

このようなことを、ほとんど無意識に考えながら私はカワセミを探しているわけです。これらカワセミの「パターン」が頭の中に入っているのです。
このような思考方法は、残念ながら本で文字を読むだけでは身につきません。カラー写真の載った図鑑やテレビ番組でも身につきません。なぜなら、図鑑やテレビでは色や形はわかりますが、「大きさ」の情報がつかめないからです。また、テレビでは周囲の風景も映されますが、その距離感やスケール感が肉眼でとらえられないため「いる場所」の情報も完全ではありません。
では、どうやって身につければいいのでしょうか。その答えは、現場に行って自分の目で実物を確かめること、これに尽きます。自分の目で見た情報を蓄積していけば、その動物の情報が頭の中でパターン化されていきます。そうなれば、動物発見率は確実に上がります。まさに「見ることとは理解すること」なのです。
上に書いたカワセミ発見方法も、自分の目で見たからこそ身についたものなのです。

刑事もののドラマでよく使われるセリフに、「現場に行け」とか「現場百遍」というものがあります。証拠は現場にしかない、現場に立たなければ見えないものがある、とかいった意味が込められています。自然観察の場合も、意味は違いますが「現場に行け」というのはやはり鉄則と言っていいものでしょう。家で本を読むよりも、現場で得られる情報の方がはるかに多いのです。
(もちろん、これは本を読まなくていいという意味ではありません。本は重要な情報をコンパクトにまとめてありますし、過去の蓄積を書き残しているものですので、活用すべきものです。「現場」と「文献」は両立してこそ本当の価値があるのだということです。)


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