Vol. 223(2004/6/6)

[今日の事件]テレビ番組のオランウータンが出演降板

演芸動物に頼る動物番組の構造

日本テレビのバラエティー番組「天才!志村どうぶつ園」に出演していたオランウータン「チカちゃん」について、栃木県の那須ワールドモンキーパークが経済産業省からワシントン条約違反との厳重注意を受け、「チカちゃん」は番組を降板していたことが5月28日わかった。

[読売新聞、夕刊フジより]


私がテレビ番組を見ていてとても気になるのは、動物が不当に悪役にされることです。たいていの場合は人間からの一方的な視点であり、動物側の都合が考えられていないからです。
一方、意味も無く「かわいい」「いやされる」などと持ち上げられることもとてもいやなことです。こちらは一見無害に見えるようで、やはり人間側の一方的な視点のために動物が無理を強いられかねないからです。私の見る目は厳しいですよ。

今回の事件の番組は私も一応何かの勉強になるかと思って見ていたのですが、オランウータンがスタジオに登場した時、ちょっとだけ「このオランウータンはどこから連れてきたんだ?」と思ったものです。ただ、こういう場合、普通は国内で繁殖した個体であると考えるのが妥当ですので、あまり気にしていなかったのです。まさか、国外からレンタルしてきたなんて想像もしませんでした(不覚!)。これに気付いた経済産業省の担当者は鋭いですね(自然保護関係者からの情報提供があったのかもしれませんが)。

さて、この事件を説明するにはまず「ワシントン条約」の説明をせねばなりませんが、要旨は外務省のホームページをご覧ください。

簡単に言うと、「絶滅のおそれのある動物を商業目的で輸出入することを規制する国家間の決まり事」ということです。この「動物」とは、生きている動物だけではなく死体はもちろん、象牙や革製品、骨などといったものも含みます(トラの骨は漢方薬になる)。研究目的は(だいたい)OK。でも、金銭目的の輸出入はダメ。そういうことです。こういう条約が必要になるほど、商業目的の取引は多いということは覚えておいてください。
絶滅のおそれのある動物の中でも、オランウータン、チンパンジー、ボノボ、ゴリラのショウジョウ科全種(または、ヒトを除くヒト科全種)は特に注意が払われている動物です。ワシントン条約では規制の対象となる動物を附属書で指定していますが、これら類人猿はすべて附属書1類、つまり最も強く規制されているグループに含まれています。類人猿は特にペット目的での商業取引が多いのです。

今回のオランウータンのテレビ出演もワシントン条約に違反すると見なされました。このオランウータンはインドネシアから1年契約のレンタルで日本に持ち込まれました。記事によると、番組出演は輸入目的に含まれておらず、「登録輸入品の目的外使用」と見なされました。オランウータンには出演料が払われるはずですから、これは商業目的行為と言われても仕方のないことです。これがワシントン条約違反となったわけです。もし、テレビ局が動物園へ行って取材し、それを放送するというのはまだ許容範囲内とされたでしょう。
そういえば、この番組にはチンパンジーも登場します。こちらはワシントン条約違反にはならないのでしょうか? 実はこちらの方は何ら問題はありません。というのも、こちらのチンパンジーは日本生まれの日本育ちだからです。ワシントン条約はあくまで国際取引を規制するものであり、各国内のことについてはそれぞれの国の国内法に任されているからです。ですから、もしオランウータンが日本生まれの日本育ちだったならば何も問題はなかったのです。
信じられないかもしれませんが、それが法律というものなのです。

そういえば昨年、やはりワシントン条約の対象動物(主にリクガメ類)が研究所などから盗まれるという事件が相次ぎました。輸入の難しい(手続きに手間がかかる)動物を国外から持ち込むよりも、国内で盗んだ方が手っ取り早いと犯人たちはおそらく考えたのでしょう。


さて、話を事件に戻しますと、このような慎重な扱いが求められる動物をタレントのように引っ張り回すというのは、あまりにも軽率だと私は思います。那須ワールドモンキーパークも日本テレビも反省しなさい!と言いたくなります。
こんな事件が起こるのは、テレビの動物番組が「演芸動物」に頼りっぱなしになっているから、と言えるでしょう。「演芸動物」とは今私が作った造語で、演技などの芸事をする飼育動物のことです(野生動物は含まない)。演芸動物にはプロもいればアマチュアもいます(プロ=動物園、水族館で専門の訓練を受けた動物、アマチュア=ご家庭の芸達者なペット)。民放の動物番組を思い起こしてみるとすぐにわかることですが、番組の大半はこれら演芸動物で成り立っています(NHKは野生動物一本で通しており、さすがです)。
テレビ番組にとって、演芸動物はありがたい存在です。野生動物はなかなか思い通りの行動をしてくれないため、取材・撮影は非常に長期になってしまいます。しかし、演芸動物は簡単に面白ネタを披露してくれますから、取材・撮影も簡単に済ませられます。そのため、ますます演芸動物に依存することになってしまうのです。その結果が今回の事件と言えるのではないでしょうか。
動物は、本来人間の思い通りには動いてくれないものです。演芸動物に頼る動物番組の姿勢は、動物の本来の姿から目をそらしているように思えるのです。


さて、後半は各テレビ局の動物番組を比較批評しようと思ったのですが、長くなるのでやめておきます。ただ、この「天才!志村動物園」についてだけはちょっと述べておきましょう。
初回から見ていての感想ですが、「スタンスがよくわからない番組」というのが今の私の印象です。どうも野生動物は扱わないらしい、ということだけはよくわかります。これだけで魅力が半減です(私にとっては)。
番組の中でも注目すべきは、チンパンジーのモモちゃんとイヌのゴルディのコンビが主役のストーリー(ファンタジー)です。ストーリーは「初めてのおつかい」のようなものです。見ればすぐにわかることですが、明らかに演出で成り立っています。とにかくウソっぽい。動物に演技をさせ、それを編集でつないでいるのが見え見えです。こんな作り話に感動する人なんているんだろうか?と思います。
でも感動する人はいるんだろうなあ。作り話とわかっていても感動する人はいるんだろうなあ(小説や映画もそうですし)。
この番組が、感動させよう、笑わせよう、楽しませようとしているのはよくわかります。ただ、その感動とやらがすごく上滑りしています。表面的で奥の深さが無いのです。何を伝えたいのかが私には全然わからない番組です。
このままじゃ1年しか持たないんじゃないでしょうか。これが今現在の正直な感想です。番組は始まったばかりです。今後良い方向に転換することを期待しましょう。


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