Vol. 238(2004/9/26)

[今日の勉強]絶滅の危機の指標、ワシントン条約とレッドリスト

レッドリストについて

今回紹介するのは「レッドリスト」ですが、それを規定しているIUCNについてまず説明しましょう。
IUCNとは「International Union for Conservation of Nature and Natural Resources」の略称ですが、現在は単に「IUCN」で世界的に通用するようです。日本語では「国際自然保護連合」となります。IUCNは、1948年に設立された、国、政府機関、NGOからなる国際的な自然保護機関です。よく間違われるのですが、IUCNは国連機関ではありませんし、国家間の共同機関でもなく、非政府組織の集合体でもありません。国、政府機関、NGOが協同しているという珍しい機関なのです。日本にも「IUCN日本委員会」がありますが、これも政府と民間組織から成っています。
IUCNについてはそのホームページをご覧いただく方がいいでしょう。

さて、本題の「レッドリスト」です。「レッドリスト」とは、絶滅のおそれのある動植物をIUCNがまとめたリストのことです。最初に発表されたのは1966年で、赤い表紙の本であったことから「レッドデータブック」と呼ばれることになりました。現在では単に「レッドリスト」と呼ばれています。最新版は2002年版です。

レッドリストは、かなり具体的・客観的に動植物の絶滅の危機の度合を定義しています。その詳細はこのページ末尾のホームページなどで日本語で読むことができます。危機の度合は以下のようなカテゴリーに分類されています。用語はIUCN日本委員会に合わせています。カッコ内は私の補足訳です。

EX Extinct 絶滅
EW Extinct in the Wild 野生絶滅(飼育下では生存)
CR Critically Endangered 絶滅危惧1A類(極めて絶滅危惧)
EN Endangered 絶滅危惧1B類(絶滅危惧)
VU Vulnerable 絶滅危惧2類(危急)
LR/cd Lower Risk/conservation dependent 低リスク/保全対策依存
NT Near Threatened
(includes LR/nt-Lower Risk/near threatened)
準絶滅危惧/低リスクを含む(危機に近い)
DD Data Deficient 情報不足
LC Least Concern
(includes LR/lc-Lower Risk, least concern)
軽度懸念/低リスクを含む(最小限の影響)

1A類とか1B類とかってわかりにくい翻訳ですよね。だからといって英文表記もちょっとわかりにくいところがあるのですが。単純に言ってしまえば、上から順に危機の度合が強いのだということです。
これらの定義はかなり厳密なもので、書き出すとかなり長く複雑になってしまいます。例えば、「CR=絶滅危惧1A類」の定義はこうなっています。

以下の基準(A〜E)に定義されているように、ごく近い将来、野生絶滅のリスクが極めて高い場合には、その分類群は「絶滅寸前(CR)」です。

(A)以下のいずれかの様態で、個体群が縮小している
 (1)以下のいずれかの基準に基づいて、過去10年間、若しくは3世代のうち、どちらか長い方の期間で、少なくとも80%の縮小が観察、推定、推論され、あるい
は疑われる。
  (a)直接の観察
  (b)分類群にとって適切な個体数レベルの指標
  (c)生息地の面積、分布域の大きさ、あるいは生息地の質の減少
  (d)実際のあるいは潜在的な捕獲のレベル
  (e)外来種、雑種形成、病原体、汚染物質、競争種、寄生種の影響
 (2)上記の(b),(c),(d),(e)のうち、いずれかに基づいて、次の10年間若しくは3世代、どちらか長い方の期間に、少なくとも80%の縮小が予測あるいは想定される

(B)分布域の大きさが、100km2 未満、あるいは生息地の面積が10km2未満と推定され、以下の2つのうちのいずれかに該当する。
 (1)強度の分断がある、若しくは知られている生息地が1 ヶ所しかない場合。
 (2)以下のいずれかにおいて、連続的減少が観察、推論、予期された場合。
  (a)分布域の大きさ
  (b)生息地の面積
  (c)生息地の面積、大きさ、質
  (d)地点あるいは下位個体群の数
  (e)成熟個体の数
 (3)以下のいずれかにおける、極端な変動
  (a)分布域の大きさ
  (b)生息地の面積
  (c)地点あるいは下位個体群の数
  (d)成熟個体の数

(C)成熟個体数が少なくとも250未満と推定され、かつ、下記に該当する。
 (1)過去3年間若しくは1世代、どちらか長い方の期間に少なくとも25%の連続的減少が推定される。
 (2)以下のいずれかにおいて、成熟個体数や、個体群の構造において、連続的減少が観察、推定、推論される。
  (a)強度の分断(どの下位個体群も50以上の繁殖可能個体を含まない)
  (b)全ての個体群が単一の下位個体群にある

(D)繁殖可能個体数が50未満と推定される。

(E)野生絶滅の可能性を示す定量的分析が、10年間若しくは3世代、どちらか長い方で、少なくとも50%である。

http://www.iucn.jp/protection/pdf/redlist1994_gl.pdfより(PDFファイルです)。

ね、すごーく厳密な定義でしょう? レッドリストの特徴はこの厳密さにあり、それゆえに高度な客観性があるのです。レッドリストに対する信頼もこの厳密さによるものといっていいでしょう。

さて、レッドリストにはどれだけの種が含まれているのか調べてみました。以下の数字は動物・植物合わせてのものです。

EX 762
EW 58
CR 2249
EN 2999
VU 7011
LR/cd 362
NT 2851
DD 2026
LC 4106
合計 22424

ちなみに、前回紹介したワシントン条約の場合はこうなっています。

附属書1 827種+52亜種+19個体群
附属書2 32540種+49亜種+25個体群
附属書3 291種+12亜種+2個体群

ワシントン条約の方が含まれる動物が多いんですね。しかもほとんど附属書2になっています。これは「科」や「属」レベルを丸ごと網羅していたりすることがあることも一因と思われます。ワシントン条約はレッドリストと比べるとかなりおおざっぱなものだと言わざるを得ません。

このように、ワシントン条約とレッドリストでは性格がまったく異なっているのです。それぞれを簡単に言うと、

ワシントン条約=国際取り引きを制限する法的拘束力がある

レッドリスト=法的な意味は無いが、科学的に客観的である

となります。これらは上手に使い分けなければならないわけです。

ところで、私の専門とする「動物事件」の場合はワシントン条約の方がよく登場しますが、これは犯罪にかかわる事が多いためで、法であるワシントン条約、種の保存法が当然からんでくるからなのです。

なお、レッドリストは日本国内や都道府県単位でも作成されており、「レッドリスト」または「レッドデータブック」(=刊行物)の形で公表されています。あなたがお住まいの都道府県ではどうなっているのか、調べてみるのも面白いでしょう。


レッドリスト関連のホームページの情報をまとめてみました。

IUCN
http://www.iucn.org/

IUCN日本委員会
http://www.iucn.jp/

レッドリスト
http://www.redlist.org/
レッドリストのデータベースはここにあります。

データベース検索の仕方はここを参照してください。
http://www.iucn.jp/protection/species/redlist_howto.html
全部で20000種以上も掲載されているので、うまく検索してください。学名で検索するのが一番いいでしょう。

環境省・生物多様性センター
http://www.biodic.go.jp/
絶滅危惧種情報
http://www.biodic.go.jp/rdb/rdb_f.html

レッドリスト・レッドデータブックについて(環境省・自然環境局野生生物課)
http://www.env.go.jp/nature/redlistS/


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