「平成狸合戦ぽんぽこ」の誤った自然観
ずいぶん昔になりますが、この「いきもの通信」で東京都23区内のタヌキ情報を求める、という記事を書きました。その後ぽつりぽつりとではありましたが、タヌキ情報をいただくことができ、非常に参考になっています。情報提供していただいた方々には感謝します。
東京都23区内のタヌキについてはいろいろと書く事があるのですが、そのほとんどは自著「動物の見つけ方、教えます!都会の自然観察入門」に書いてしまいましたのでそちらをご購読ください。タヌキとの劇的な出会い、そして東京都23区内には少なくとも1000頭のタヌキがいるというかなり確実な試算をこの本では書いています。もっと詳しく知りたい方は本屋へ急ぎましょう!(笑)
東京都23区内のタヌキについては、本当は徹底的に調査したいのですが、現在の私には無理な話です。なぜなら年収(調査費+生活費)が保証されなくてはそんなことはできないからです。どこかの大学や研究所に属し、それを研究テーマとしているのなら可能なことですが、そういう立場にない私には不可能なことなのです。「いきもの通信」の読者の方は私のことをプロと思っていらっしゃるかもしれませんが、大学・研究所・企業(法人)に属していないという意味では、セミプロあるいはハイ・アマチュアでしかないのです。うむう、残念。まだほとんど誰も手をつけていない研究内容だけに価値あるテーマだと思うのですが…。
というわけで、今後も読者の皆様からのタヌキ情報を少しずつ集めながらの研究になっていくと思います。東京都23区内(その隣接地域も含む)でタヌキを目撃された方は、どうかご一報お願いします。
情報は以下の点を必ず書いてください。
・年月日(過去のことなら、少なくとも季節だけでもわかれば)
・場所
・目撃時刻
・目撃頭数
なお、タヌキ情報についてはマスコミが殺到したり、餌付けされたりされるのは困りますので基本的に公開しません。マスコミの取材に対しては、「場所は秘密であること」、「必ず現れるわけではないこと」を条件に応じるようにしています。また、私のタヌキ情報はなるべく佐々木洋氏と情報交換するようにしています。佐々木氏もタヌキのマスコミ取材には慎重に応じるようにしていますので、情報を教えても信頼できる人物です。
タヌキの生息環境を保全できるという条件ならば、私の地元の杉並区の情報は公開してもいいんですがねえ。とにかく「餌付け」と「追っかけ」をする人が増えると困るのです。
さて、このようにタヌキは東京都心でもかなり普通に生息している動物なのですが、その事実をゆがめてしまうような映画がありました。その映画は「平成狸合戦ぽんぽこ」。有名なスタジオジブリ作品です。監督は宮崎駿かと思ったら高畑勲でしたが、企画は宮崎駿となっています。
この映画の舞台は多摩丘陵近辺。人間に化けてひっそりと暮らしていたタヌキたちが、自らの復権を求めていろいろな騒動を起こす、というストーリーです。
この映画の大きな誤りは、「東京のタヌキは多摩のような郊外に行かないと見られない」という誤解を多くの人々に与えてしまったことです。実際は私が証明したように、23区内でもタヌキは化けることなく普通に暮らしているのです。残念なことに宮崎駿も高畑勲もこのことは知らなかったためこのようなお話になってしまったのでしょう。この映画は「人間が自然を破壊している」ことをやんわりと糾弾しているつもりなのでしょうが、現実に23区内でタヌキたちが平然と人間と共存している姿を見ると、なんとも的外れな感がしてしまうのです。
そういえば、この映画ではキツネたちはタヌキたちよりも巧妙に人間社会にとけ込んでいる、という風に描かれていましたが、これもまた現実とは異なるものです。タヌキとキツネの生態は正反対といっていいもので、タヌキが「里に下りてくる動物」ならばキツネは「山奥に入っていく動物」なのです。キツネが都市に入り込んでくるというのは絶対考えられないことなのです。
スタジオジブリ、宮崎駿、というとメガヒット連発で社会的影響力も小さなものではありません。その作品に描かれるものを人々は何の疑念もなく受け入れてしまいます。しかし、この「平成狸合戦ぽんぽこ」のように誤ったイメージを広めてしまうのは正直困ったことなのです。というわけで、この作品は私にとっては非推薦作品になるのです。
その他のスタジオジブリ作品の自然観も、私には妙な理想論・ロマンチシズムを感じてしまいます。宮崎駿というと自然保護派と思われがちなようですが、私にはそうは思えません。