Vol. 256(2005/1/30)

[今日の観察]カモの交尾を観察する

えー、私、非常に不愉快なことがあります。このホームページ「いきもの通信」のアクセスを解析してみると、常にアクセス順位のトップになるのが「Vol. 48楽しいハト観察 その2 ハトの交尾を観察する」なのです。毎月のように断トツの1位です。皆さん、そんなに交尾が好きなんですか好きなんですか好きなんですか? 私としては動物の生態・行動の観察も重要と思ってあの文章を書いたのですが、どうもその思惑とは違った単なる好奇心で読まれている方々が非常に多いのではと思われます。あの文章をきっかけにこのホームページを定期的に訪問してくれるようになればいいのですが、そのような兆候はほとんどありません。残念なことです。そうですかそうですか、そんなに交尾が大好きですか。ということで今一度、鳥の交尾について書いてみることにします。今回の文章がやはりアクセス数の上位に来るようでしたら本気で読者の質を疑ってしまうでしょう。


今回の観察の対象はカモです。カモといっても種類は多いのですが、その中でもポピュラーなカルガモ、マガモを含むマガモ属を取り上げます。
まずは、観察の季節を知っておく必要があります。ドバトと違ってカモ類は(というよりも普通の鳥類は)繁殖の季節が決まっているからです。カモ類が産卵をするのは初夏の頃です。交尾をするのはその前の季節、冬から春にかけてになります。渡り鳥であるカモ類は春になると北へ旅立つので、残念ながら産卵以降は日本では観察できません。例外は渡りをしないカルガモだけで、カルガモならば産卵から子育てまでも観察することができます。(属は異なりますが、オシドリも日本国内で繁殖します。ただし、繁殖場所は山奥であるのが普通です。)
次に観察をする場所を探さねばなりません。カモ類は冬季に池や川に行けば普通に見ることができます。そういう場所であればどこでも良さそうに思えるのですが、人間が頻繁にエサをやっているような場所は避けましょう。カモたちも「愛よりダンゴ」なので、食べ物の方ばかりに気を取られ、交尾をすることはないからです。カモたちがそこそこいて、周囲に人が少ない場所を探しましょう。カモがカモらしく行動している場所を見つけることです。人が少ない朝方を選ぶのもいいかもしれません。

さて、場所を定めたら後は気長に待つだけです。
交尾を始めそうになる時はすぐにわかります。ここではマガモを例に説明しましょう。まず最初は[図上]のように、オス(左)とメスが正面で向き合い、交互に首を上下させる運動をします。これがカモの求愛行動(求愛ダンス)なのです。この時、お互いのタイミングがうまく合わなかったり、一方だけが上下するような場合はそれ以上のことは起こりません。カップルの相性が悪かったのだということです。

求愛の首上下運動がうまくいけば、オスはメスの後ろに回り、背中に乗って交尾します[図中]。交尾の時間は、やはり他の鳥たちと同じで非常に短く、10秒もかからないのではないでしょうか。

面白いのはその後です。交尾を終えたオスは、首を前方に低く伸ばして、メスの周りをぐるりと泳ぎます[図下]。これが何を意味するのかはよくわからないのですが、オスが「このメスは俺のものだ」とアピールしているのかもしれません。もうひとつ不可解なことは、周りを回る距離です。ぐるりと1周するのが普通だと思うのですが、私が観察したところでは、半周ほどしかしない例もありますし、45度ぐらいで打ち切った例もありました(これは周囲の状況に何か危険を感じたからかもしれません)。メスの周りを泳ぐのは確かなのですが、その距離に規則性が見えない謎なのです。

ここではマガモを例にしましたが、カルガモ、オナガガモも同じような交尾行動をします。まだ見たことはありませんが、同じマガモ属のハシビロガモやコガモ、ヒドリガモも同じ交尾行動をするものと推測されます。
カルガモの場合、交尾行動を観察することはとても重要なことです。というのも、カルガモはカモ類の中では珍しくオスとメスの外見からの区別が難しい種だからです。カルガモのオス・メスをはっきりと確認できるのは交尾の時だけといっていいでしょう。

ところで、実際に交尾を目撃できる可能性はどの程度なのでしょうか。私の経験からいうと、週に1度、1時間観察をすれば1シーズンの内に1〜3回ほど目撃できるという程度です。かなり偶然まかせ運まかせの観察です。交尾をみるぞ〜、とがんばっても見れないことが多いでしょう。むしろ、たまたま目撃できた、というのが私の実感です。ただ、交尾の前には必ず「お互い向き合う→首上下運動」を必ずします。これに注意するようにすれば交尾を見逃すことはないでしょう。

さて、日本で交尾をするカモたちですが、前にも書いたように実際に産卵をするのは夏の繁殖地、シベリアやカムチャツカです。日本で卵を産むことは(カルガモを除いて)ありませんので、日本での交尾は疑似交尾なのかもしれません(格好だけで実際は交尾をしていない)。あるいは、冬の時期は交尾しても卵ができない仕組みになっているのかもしれません。このあたりのことは、私は専門家ではありませんのでよくわからないことなのです。調べる時間もとっかかりも無かったもので半端な説明になって申し訳ありません。過去に誰かが調べているとは思うんですが、ひょっとしたらまだ誰も調べていないかもしれません。

交尾の前に何らかの運動(ダンス)をする鳥は多く知られています。日本ではタンチョウヅルの優雅なダンスが有名ですよね。アホウドリも、やはりオス・メスが向き合って首を上下させたり、くちばしを鳴らしたりします。カツオドリの仲間もダンスをする種類が知られています。このように鳥たちの求愛行動にはいろいろなものがあります。鳥の生態を語る上では欠かせない重要なポイントであることは知っておいてください。
と、ここまで書いて、私は鳥類の観察の面白さは繁殖行動にあるということに今さらながら気づいてしまいました。鳥類の繁殖の方法は実に多様で興味深いものです。今回説明した求愛行動、交尾行動も、その繁殖行動の中の一要素であるのです。繁殖行動については書くとまた長くなりますので、回を改めて紹介することにしましょう。


以上が今回のお話です。さて、今回の話はやはりまたアクセスを集めてしまうのでしょうか。この記事を読まれた方は、どうぞ他の記事も読んでみてください。動物に関するさまざまな話題を提供するのがこの「いきもの通信」です。きっと興味を引く記事が見つかるでしょう。


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