Vol. 259(2005/2/20)

[今日の事件]解説・外来生物法

その3・まだまだたくさんいる「要注意外来生物」、

例えばミシシッピアカミミガメの事情

外来生物法に関して、これまで「特定外来生物」「未判定外来生物」「種類名証明書添付生物」を取り上げてきました。今回は残るもうひとつのカテゴリー「要注意外来生物」について解説をしたいと思います。


要注意外来生物についての資料は、「特定外来生物等専門家会合(第2回)議事次第」の中に
「参考資料2 生態系等への影響について文献等で指摘があり、さらに知見及び情報の充実に努める必要のある外来生物(要注意外来生物)に関する情報 」と
「資料3−6 生態系等への影響について文献等で指摘があり、さらに知見・情報の充実に努める必要のある外来生物(要注意外来生物)(案)」の2つのものがあります。前者では10種類が記載され、後者では148種類が記載されています。
どちらにしても、この「要注意外来生物」とは「情報不十分のため選定されなかったが、今後注意を要する生物」のことを指しています。ただ、それだけが選定の理由ではないことが明らかなものも多く入っていますが…。
前者の文書に記載されている10種類は以下の通りです。

●動物
インドクジャク
ミシシッピアカミミガメ
ウシガエル
クワガタムシ科
チュウゴクモクズガニ

●植物
オオフサモ
オオカナダモ
ホテイアオイ
ボタンウキクサ
シナダレスズメガヤ

ここでようやく、ミシシッピアカミミガメやウシガエル、クワガタムシといった有名外来種が登場します。
さらに後者の文書には、リスザル、フェレット、外国産メジロ、ワニガメ、グリーンイグアナ、アメリカザリガニといったこれまた人気のあるペット類が登場します。確かに多くはまだ被害が出ていないのでこの最低ランクのカテゴリーでいいのかもしれません。

しかし、ミシシッピアカミミガメの場合はどうでしょう。ミシシッピアカミミガメは全国の都市部を中心に、在来のニホンイシガメやクサガメを駆逐してしまっています。ミシシッピアカミミガメは在来種と直接対決しているわけではないのですが、生態がよく似ており、繁殖力が強く、また、流通している数があまりに多いためにミシシッピアカミミガメの数が圧倒的優位になってしまっているのです。人的被害・農林水産業被害は皆無といってもいいのですが、生態系のバランスをくずしてしまったという大きな被害は誰もが認めるものでしょう。では、なぜミシシッピアカミミガメはもっと上のカテゴリーに入らなかったのでしょうか。上記文献を読んでみると、そのあたりの事情がわかります。
まず、「外来生物法」では特定外来生物の飼育を禁じていることを思い出してください。ミシシッピアカミミガメはペット需要が多く、今現在も多数の家庭で飼育されています。現在飼育中の個体に関しては、なんらかの届け出をすれば特別に許可されることになります(具体的な届け出方法については、この文章の執筆時点では決まっていない)。もし、ミシシッピアカミミガメが特定外来生物に指定されたら、飼育の届け出を受け付ける作業が膨大なものになってしまうでしょう。また、早とちりした飼い主がこっそり捨ててしまうかもしれません。
また、同法では特定外来生物の輸入・販売も禁じています。実は、ミシシッピアカミミガメの輸入数は毎年数十万匹という単位にもなっており、特定外来生物に指定された場合、業者には大きな痛手になるでしょう。また、業者もこっそり捨ててしまうことも考えられます。
さらに言えば、ミシシッピアカミミガメだけを特定外来生物に指定しても、その代替となるカメが大量に輸入される結果になるかもしれません。例えば、他のアカミミガメ亜種(ミシシッピアカミミガメは種アカミミガメの1亜種)や、クーターガメ類、チズガメ類など代わりになる(しかも生態もよく似ている)カメはたくさんいるのです。

そして最大の問題は現実に自然環境下に生息している多数のミシシッピアカミミガメをどうやって駆除するのか?ということです。人的被害などがほとんどない現状では駆除のための高い目的意識が得にくいのは事実です。ミシシッピアカミミガメよりも駆除を優先すべき外来生物は他にもたくさんいるわけですから。
ミシシッピアカミミガメが「要注意外来生物」扱いになったのにはこのような複雑な事情があったからなのです。
しかし、ミシシッピアカミミガメが日本のカメ環境をわずか数十年で激変させてしまったのは疑いの無い明らかな事実です。私は爬虫類ファンとして、そしてカメ・ファンとして、この現状を容認することはできません。今後の議論の中で、何かうまい解決方法が見つかることを期待します。
私が皆様に提案するならば、「外国産のカメをペットにするのはやめよう」と言いたいです。いや、これはカメだけに限ったことではないでしょう。哺乳類でも両生類でも外国産生物を安易にペットにすることについては、もっともっと慎重に考えてほしいものです。


以上、3回に渡って外来生物法について説明をしてきました。これでこの法律の概要はだいたいおわかりいただけたのではないでしょうか。
外来生物を持ち込んだのは私たち人間です。その外来生物が問題を起こしているのならば、それを解決するのも人間の責任といえるでしょう。外来生物ととはいえ、それらを抹殺しようという施策に不安を感じる方もいるかもしれません。しかし、私たち人間がそれを実行しなければ、自然環境は不本意な変化を余儀なくされるばかりなのです。人間が引き起こした問題を人間自身で解決する、それがこの法律の基盤だと言っていいでしょう。


追記:「要注意外来生物」は「危険度が低いカテゴリー」というわけではなく、「情報不十分だから保留扱いになっている生物」と考えるべきです。公式文書、会議などでの扱いが小さかったので「あまり重要でない生物」という誤解を与えることになってしまっているのではないでしょうか。今後行われる「特定外来生物」追加の検討にはこれら「要注意外来生物」も取り上げられることになりそうです。
(2005年4月24日)


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