いきもの通信 Vol.283[今日の事件]ホタル観賞会は正しいことなのか?/あなたもホタルにだまされている 

Vol. 283(2005/9/11)

[今日の事件]ホタル観賞会は正しいことなのか?

あなたもホタルにだまされている

今年は久しぶりに夏に帰省をしました。私の地元は福岡市です。帰省の時にちょっと見ておかねば、と思っていたものがありました。それは同市内にある大商業施設「キャナルシティ博多」内に作られたという「ホタルガーデン」です。これは施設の一部に土壌を運んできて、水を流し、ホタルを人工的に繁殖させようというものです。やれやれ、またニセ環境保護か!と私は思ったのでした。「いきもの通信」でねちねちと批判をしようかと思って現場に行ってみたのですが…。実物は20mにも満たない水路があるだけの貧弱な作り物でした。水もちょろちょろと流れているだけ。わざわざ批判するほどの大したものではないね、というのが私の感想です。
それでも、このような安直なホタル施設というものが増加するのは好ましいことではありません。今回はこの「ホタルガーデン」に限らず、ホタル観賞会とかホタル・ビオトープなどを名乗っているモノに対する一般的な批判をしたいと思います。こういうものが良いことだと信じて疑わない人こそしっかりと読んでください。
なお、私が共著となっている「外来水生生物事典」にはゲンジボタル、カワニナの項がありますが、私はその部分の担当ではありません。今回の文章は私自身の意見を述べたもので、「外来水生生物事典」とは関係ありません。それでも同書の記述と私の意見が似ているのは、それだけこの問題が深刻であることを意味しているとお考えください。


ホタル観賞会とは、どこかで捕獲したホタルを隔離した場所や屋内などに放して、それを観賞するものです。隔離していない場所でやったりすることもあります。もともとホタルが生息している所で観賞するのは「ホタル観察会」という風にここでは区別しておきます。
ホタル・ビオトープとは、ホタルが生息する環境を模したものを作り、そこでホタルの繁殖もやってしまおうというものです。
ホタルというと自然の象徴、ホタルが身近で見られるのはいいことだ…というのがホタル観賞会やホタル・ビオトープ(以下、まとめて「ホタル施設」と書きます)に対する一般の認識でしょう。ですが、ちょっとよく考えてください。ホタル施設は本当に自然保護や環境保護に役立っているといえるでしょうか?
そもそも自然保護あるいは環境保護とはどのようなことなのでしょうか。それは「現状の良好な自然環境をそのまま保全すること」と定義できるでしょう。ホタルの場合なら、今現在、自然環境下でホタルが繁殖している場所を破壊することなくそのまま保存することです。この定義からホタル施設を見てみると問題点がいくつも挙げられます。

まず、ホタル施設にはもともとホタルなど生息していません。他から持ち込まれたホタルばかりです。ホタル施設は本来のホタル生息地とは離れているもので、自然保護とはまったく関係がありません。
しかもそのホタルはどこかの自然繁殖地で大量捕獲してきたものかもしれません。その場合、これは自然破壊というべきでしょう。これは昔新聞で読んだことですが、ホタル生息地で掃除機を使ってホタルを捕獲していた業者がいたということです。これを注意したところ、「ホタルはおまえの所有物ではないだろう」と言って無視されたとか。ホタル施設を作るにはそれなりのホタル数を確保しなければなりませんから、程度の差はあれ同じようなことは今も行われているはずです(養殖ものもあるでしょうが、野生か養殖かの区別は難しいので、「養殖だ」と言われればそれを信じるしかありません)。
また、ホタル施設で繁殖したホタルを生息地に戻す、ということが行われているかもしれませんが、これも問題があります。これにはホタルは地域的に遺伝子が異なっているということに関係します。よく知られていることですが、ゲンジボタルは東日本と西日本では発光の間隔が異なっています。これは東日本と西日本で遺伝子が異なっていることを示しています。実際にはさらに細分化できるとされています。これらを無視して各地のホタルを捕獲・混在させると、自然環境下には存在しない遺伝子を持つホタルが出現することになります。そんなホタルを生息地に戻すと、自然環境下のホタルの遺伝子も乱されるという悪循環におちいります。1ヶ所からホタルを捕獲し、繁殖させて、同じ場所に戻すというのならまだ容認できます(この条件を満たさないものは禁止すべきでしょう)。ただこの方法でも、生息地での自然繁殖を無視してホタルを出入りさせるわけですから、本当に自然保護に役立っているのかというと非常に疑問があります。

いかがでしょう? これでもホタル施設が自然保護・環境保護であると言えるでしょうか。私は「ホタル施設は自然保護・環境保護とは無関係だ」と断定します。本当の自然保護ならば、ホタル生息地を手厚く維持するのが王道のはずです。人工的なホタル施設には何の意味もないのです。
「都会でもホタルを見ることで自然保護を感じることができる」とか「わざわざ田舎まで行くのは大変」などという意見があるかもしれませんが、生物というものはやはり本来の生息地にいてこそ価値があるもので、現地でホタルを観察し、その周囲の豊かな自然を実感してこそ本当の自然保護の意味というのが理解できるのではないでしょうか。


ホタルは「日本の自然の象徴」とも言うべき特別な位置にいる生物です。そのため、「ホタル=自然保護」という心地よいスローガンにだまされる人があまりにも多いように思えます。これが必ずしも真実ではないことは上記の通りです。皆さんも本当の自然保護とはどういうことなのかをまず考えるようにしてください。

ホタル施設の中にも優良な施設はあるかもしれませんが、私はそれらを知っているわけではありませんのでここでは紹介できません。逆に筋が悪い施設の共通点を挙げるとすれば、「客寄せを目的にしている」ということでしょうか。集客優先で自然保護だとかには頭が回っていないことが多いと思っていいでしょう。それでは、利益とは関係のないボランティアならばいいというわけでもありません。ボランティアでも上記のような問題点があるならそれは悪い施設です。ボランティアなら何でも良い、というのは根拠の無い信仰です。ボランティアならすべて許されるということはありません。私はボランティア相手でも批判すべきは批判します。


[いきもの通信 HOME]