Vol. 285(2005/9/25)

[今日のゲーム&テレビ]ポケットモンスターの罪

ポケットモンスターは来年で10周年になるそうです。今では世界的に有名な日本発のゲームカルチャーの代表ともいえる存在です。さすがに最近は人気も以前ほどではないようですが、「定番」の地位を保ち続けています。ポケットモンスターについての説明はWikipediaに詳しいので、あまり知らない方はそちらをお読みいただくといいでしょう。
(Wikipediaで「ポケットモンスター」を検索してください。)

しかしながら、このポケットモンスターは生物学的にみるとちょっと勧められないというか、いろいろな問題をかかえていることを指摘せねばなりません。ポケモンが害悪になっているのです。今回はその問題点4つを取り上げてみたいと思います。


・ポケモンの名前のまぎらわしさ

ポケモンの名前とその由来についてはWikipedia(「ポケモン一覧」で検索してください)を参考にしました。
ポケモンにはさまざまな生物=ポケットモンスターが登場します。ポケモンの世界では「動物」というものが存在しないようですので、「ポケットモンスター=動物」と見なしていいでしょう。さて、そのポケットモンスターですが、その名前は実在の生物の名前をもじったもの、あるいはそのまま借用したものが少なくありません。その例の一部を以下に並べてみました。すべて取り上げるとかなりの数になりますので一部だけの紹介ですが、それでもかなりの数になります。

アリゲイツ=ワニのアリゲーター
ウツボット=食虫植物のウツボカズラ
オーダイル=ワニのクロコダイル
オクタン=タコの英名オクトパス
オムナイト=オウムガイ+アンモナイト
カクレオン=カメレオン
カブト=カブトガニ
キモリ=ヤモリまたはイモリ(トカゲ系なのでおそらくヤモリだろう)
キャタピー=芋虫の英名キャタピラ
ギャロップ=ウマの走り方
クラブ=カニの英名
コクーン=繭
コダック=アヒルの英名ダック
ザングース=マングース
シードラ=タツノオトシゴの英名シードラゴン
ジーランス=シーラカンス
ジュゴン=そのまんまジュゴン
スターミー=ヒトデの英名スターフィッシュ
ズバット=コウモリの英名バット
スバメ=スズメ+ツバメ
ゼニガメ=そのまんまゼニガメ(銭亀)
タッツー=タツノオトシゴ
ツボツボ=フジツボ
テッポウオ=テッポウウオ
ドードー=そのまんまドードー
ナマケロ=ナマケモノ
パールル=パール(真珠)
バタフリー=チョウの英名バタフライ
パラセクト=パラサイト(寄生)+インセクト(昆虫)
ハリーセン=ハリセンボン
ビードル=ハチの英名ビー+ニードル(針)
ピジョン=ハトの英名ピジョン
プテラ=翼竜プテラノドン
ペルシアン=ネコの品種のひとつペルシャ。英語ではペルシャンまたはペルシアン
ホエルオー=クジラの英名ホエール
ポニータ=ウマの品種ポニー
モルフォン=チョウの一種モルフォ(モルフォ蝶)
ヤンヤンマ=トンボのヤンマ
ヨルノズク=ズクとはフクロウ類のこと。ミミズク、アオバズクなど。
ラッタ=ネズミの英名ラット
ラフレシア=そのまんまラフレシア(世界最大の花)
リザード=トカゲの英名リザード
ワカシャモ=若いシャモ(軍鶏=ニワトリの品種)

子供たちには現実と空想がごちゃまぜになってしまいそうなネーミングです。ひとつふたつ程度なら害も少ないでしょうが、これだけの数になるとそうも言っていられません。
これらのネーミングがどういう風に害になるかというと、生物の話をする時にやりにくくなってしまうのです。例えばカメのゼニガメや絶滅した鳥ドードーの話をする時、子どもたちはまずポケモンのゼニガメやドードーを頭に浮かべるのです。現実の生物ではなく非現実の生物のイメージが頭を占領すると、ちゃんと理解させるためには説明に余計に時間をかけなければならないでしょう。正直言って非常に迷惑な話です。
もちろん、「将来英語を習う時に役立つ」という見方もできますが、利益と害悪とを比べると害悪の方が多いように思えるのです。

・「進化」の誤用

ポケモンでの「進化」は現実の「進化」と意味が違う??これは理科の先生の間では有名な話です。進化とは簡単に言うと「ある生物種が世代を重ねた結果、別の生物種に変化すること」ということです。ポケモンでの「進化」とは「あるポケモンが一定の条件で別のポケモンに変化すること」を言います。なんだ同じことじゃないか、と思われる方がいるかもしれませんが、このふたつはまったく異なるものです。
ポケモンでの進化では、あるポケモン個体が変身して別のポケモンになります。
現実の進化では、ある個体が変身してもそれを「進化」と呼ぶことは絶対にありません。進化とは世代交代の時に現れるものだからです。つまり、子供が親にない新たな形質を獲得した場合、それが進化とされるのです。例えば突然変異も一種の進化と考えていいのですが、これも個体の変化のことを指すのではなく、親から子に世代が変わる時の変化を指しています。
生きている個体が変身するならば、それは昆虫が幼虫、さなぎ、成虫と変化する「変態」と言うべきでしょう。
このことが教育現場で問題となっている理由は、最近の理科教育では小学校・中学校では進化を教えなくなったためです。さらに、高校でも教科の選択の仕方によっては「進化」にまったくふれない可能性もあり、下手をすると「進化」の正しい概念を知らずに大学に入ってしまうこともあります。その結果、ポケモンの「進化」の概念を信じている大学生が出現することもありうるのです。日本は科学先進国だという人がいますが、これははずかしいことではないでしょうか。

・野生動物つかまえ放題

ポケットモンスターの物語で重要なのは、ポケットモンスターを捕獲するということです。どんどん捕獲して自分の図鑑を充実させていくという楽しみがあるのです。でもちょっと待って! それって野生動物を狩猟しているってことですよね。
現在の日本では、野生の哺乳類・鳥類の捕獲・狩猟にはかなり厳しい制限があります。これは鳥獣保護法という法律で決められています。もしこういう制限がなかったら、野生動物はどんどん狩猟されあっという間に数を減らしてしまうでしょう。中には絶滅してしまう種もあるかもしれません。ニホンオオカミやトキが絶滅してしまったのも、明治時代に狩猟の制限が緩かった時期があったからと推測されています(江戸時代は狩猟は殿様たちだけの娯楽だったのでかえってよく保護されていた。明治後半以降は徐々に狩猟の制限が強まっていった)。
ポケモンの世界ではポケットモンスターを集めることは誰でもでき、その種類数がステータスのようにもなっています。こういう状況では人々はポケットモンスター狩りに群がるのは必然で、そうなると多くの種は確実に絶滅してしまうでしょう。ポケットモンスターはもちろんフィクションですので、物語が破綻するような「絶滅」なんていう事態は起きませんがね。
しかしこれもまた子どもたちに誤解を与える要素です。「野生動物はいくら捕まえてもいい」「どれだけ捕まえても絶滅しない」という誤解を持つというのは自然保護の点では恐ろしい事態なのです。

・ポケモンを閉じこめる・戦わせるのは動物虐待?

捕まえたポケットモンスターたちは、ポケモンボールの中に閉じこめて保管されます。むむっ、それって動物虐待なのでは? さらにポケットモンスターたちは人間の代わりに戦うという役目も持っています。これまた動物虐待!?
動物を飼育する場合、きちんと食事を与える、適度な運動をさせる、ストレスを与えないなど適切な環境で飼育するのが近年の流れです。狭い場所に閉じこめるなんていうのは適切な飼育とはいえず、明らかに動物虐待です。これは動物福祉にうるさい欧米では確実にやり玉にあげられる論点ですが、伝え聞くところによると、「ポケモンボールの中に入っていると気持ちがいいのだ」という詭弁で批判を切り抜けているのだとか(本当かどうかは確認できず)。
また、動物を戦わせる見せ物も現在では動物愛護法に抵触するのではないかと見なされています(殺したり傷つけたりするため)。ハブとマングースの対決というと沖縄などでは定番の見せ物でしたが、今では行われていないようです。代わりにマングース対ウミヘビの競泳が行われているとか(以前、「トリビアの泉」で紹介されていました)。
(昆虫やクモを戦わせる伝統行事は各地にありますが、動物愛護法では昆虫は対象外ですので問題ありません。今のところは。)


以上、4つの問題点を挙げてみました。
いかがでしょう。私がポケットモンスターを害悪だと思っている理由がおわかりになったかと思います。「たかが子供向けコンテンツに目くじらたてるほどでもない」という方もいるかもしれませんが、子供向けだからこそ誤った知識を刷り込むようなことはやめてほしいのです。子どもたちが進化論、野生動物保護、動物福祉といったことを誤解したまま大人になるというのは実に恐ろしいことです。先人たちが苦労して築いてきた共通の理解の基盤をひっくり返してしまいかねません。

ポケットモンスターはこれからも新製品が登場し、関連商品もまだまだ発売されるでしょう。しかし、私のように真面目に生物を扱う者にとってはかなり邪魔な存在です。ポケットモンスターが市場から消え去る日が来ることを願うばかりです。


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