Vol. 304(2006/2/19)

[今日の事件]「あらいぐまラスカル」が引き起こした日本のアライグマ問題

アニメ「あらいぐまラスカル」を見てアライグマはかわいいなーと思った人は多いことでしょう。「あらいぐまラスカル」の牧歌的なイメージはアライグマに好印象を与えているのは間違いありません。
しかし、現実にはアライグマは日本のあちこちで迷惑をかけています。「あらいぐまラスカル」を語る上で避けてはならないのがこの「アライグマ問題」なのです。


アライグマは当然のことながら日本に昔から生息している動物ではありません。元々は北米〜中米産の動物で、日本にいるはずのない動物なのです。最初に日本で野外繁殖しているのが確認されたのは1962年、岐阜県とされています。これは動物園からの逃亡個体だったそうです。各地でよく目撃されるようになったのはさらに後の1980年代ごろからです。
最初に大きな被害があったのは北海道で、農作物に多大な被害がありました。ただ、このことは主要メディアにとってはローカルニュース扱いで、全国的にはあまり知らされずにいました。
北海道よりも有名になった被害地は鎌倉です。ここでは主に民家が被害にあいました。アライグマは民家の屋根裏に潜り込み、そこにすみついてしまいます。屋根裏をどたどたと走り回り、糞尿をし(天井にしみがつき、くさい)、赤ちゃんを産みます。こうなるとアライグマはかわいい動物ではなく、迷惑動物です。鎌倉市では箱わなを貸しだしたりしましたが、アライグマにとってはわな抜けは簡単なことで、わなの効果も万全とは言えなかったようです。鎌倉は首都圏に近いためメディアの取材も多く、全国的にも知られることになりました。
最近は京都、大阪などでも数が増えているということですし、鎌倉のアライグマは横浜市方面に徐々に生息範囲を広げつつあるということです。その他の地域でも野外繁殖の報告はあり、のんびりしているような状況ではなくなりつつあります。
アライグマの被害は少なくはありませんでしたが、それに対応する法律は鳥獣保護法ぐらいしかなく、しかもこの法律は野生の哺乳類・鳥類の捕獲を原則禁止しているため、使いやすいものとはいえませんでした。
2005年、外来生物法が施行され、特定外来生物にアライグマが指定されたことでようやく本格的な駆除対策が可能になりました。同法では同時に輸入も飼育も禁止されました。アライグマをペットとして飼うことが不可能になったため、アライグマが逃げたり捨てられたりという根本の問題が発生することも防げるようになったのです。アライグマ問題も解決への道筋がようやく見えてきたといえるでしょう。

アライグマが日本に輸入されたのは「あらいぐまラスカル」の影響が大きいと言われています。実際はそれ以前にも輸入はあったはずですが、テレビ放映によって輸入頭数が拡大したのは確実です(このあたりの統計資料は持ち合わせていないのではっきりしたことは言えませんが…)。
外国からはいろいろな動物がペットとして輸入されてきましたが、このアライグマには他にはない特徴がありました。それは、人間に慣れず乱暴で、実際に飼えるような動物ではないということです。飼ってはみたものの手に負えなくなって困り果てた人は少なくなかったはずです。そういう人が思い出したのが「あらいぐまラスカル」の結末だったとしたら…。「そうか、自然に返せばいいんだ」と思ったことでしょう。これは実際には「捨てる」と同義の行為なのですが。
このように「あらいぐまラスカル」は日本のアライグマ問題に多少なりとも責任があると言えるでしょう。この事情がある以上、「あらいぐまラスカル」は手放しで「名作、傑作」などとほめることができる作品でないのは明らかです。もし、「あらいぐまラスカル」を観賞するのならば、日本にはアライグマ問題があるということも同時に知っていてほしいものです。その知識無しでこのアニメ作品を見ると、誤った方向に誘導されるおそれがあるからです。
では、原作に罪はないのかというと、私はそれほどのものではないと思います。もし、アニメ化されなければ「はるかなるわがラスカル」は知る人ぞ知る小品でしかなかったことでしょう。アニメ化によって一気に大衆化した「不幸」さえなければ、アライグマがこれほどの大問題になることもなかったでしょうから。


[いきもの通信 HOME]