いきもの通信 Vol.311[今日のいきもの]シラサギという名前の鳥はいない 

Vol. 311(2006/4/9)

[今日のいきもの]シラサギという名前の鳥はいない

例えばまっ白なサギを見つけたならば、あなたはそのサギをなんと呼びますか?
「コサギだ」「ダイサギだ」と言う人は、鳥についてそれなりの知識を持っているようですね。
「シラサギだ」と言う人は、残念ながら鳥について詳しくない、というより何もわかっていないのではないかという疑念を感じざるをえません。なぜこんなことが言えるのかというと、「シラサギ」という名前の鳥は存在しないからなのです。
というわけで、今回は白いサギの話です。

白いサギのことを「白鷺=シラサギ」と呼ぶのは間違いとは言い切れません。それで情報が十分に伝わるならばそれでもいいのです。ですが、実際には白いサギは何種類も存在していて、それぞれ大きさも異なれば、食べるものなど生態も違っています。これらを区別せずまとめて扱うのはさすがに乱暴ではないでしょうか。より正確に動物のことを語るこの「いきもの通信」ではそんなことは許しません!
さて、日本で見られる白いサギには何種類かいますが、中でも普通に見られる種類といえばコサギとダイサギです。漢字で書くと小鷺、大鷺。文字通り小型の白いサギ、大型の白いサギです。わかりやすいですね。大きさがどのくらい違うかというと、コサギは全長61cm、ダイサギは全長89cm…なのですが、この数字は実感しにくいものです。鳥の場合の全長とは、くちばし先端から尾羽先端まで、まっすぐのばして測った長さのことなのですが、サギ類は長い首を微妙に曲げていますし、脚がこれまた長いので全長の数字で判断するのは難しいように思えます。イラストに描いてみるとだいたい図のような大きさ比になるはずなのですが、もうちょっと差があるような気がしないでもありません…。(イラストは、説明するまでもなく左がダイサギ、右がコサギ)

ただ、この大きさを覚えたところで実際には役に立たないものだったりするのです。その理由は、コサギとダイサギはいっしょにいる場面がほとんどないから、そして、遠くから見ると正確な大きさがつかみにくいからです。コサギとダイサギが並んでいればすぐに区別はつくのですが、そういうことはほとんどありえないのです。
ではどうやって区別をするのかというと、別の外見の特徴や行動の違いから見分けるのです。外見の区別の最も簡単な方法は足指の色です。コサギは指が黄色であることに注目してください。これはコサギ独特の特徴です(黄色い靴をはいているようなので「ミッキーマウス」と呼ばれたりする)。ダイサギはくちばしが黄色ですが、これは冬に日本にいるダイサギの特徴で、夏にいるダイサギはくちばしは黒ですので注意してください。夏のダイサギは目のまわりが青緑色になっているのが特徴です。冬のダイサギと夏のダイサギは別の種というわけではなく、どちらも同じ種ダイサギです。これらは種の下の分類、亜種として区別されていて、夏見られるのが亜種チュウダイサギ、冬見られるのが亜種ダイサギとされています。
コサギとダイサギの別の区別は、食べるものが違うということです。サギ類はどれも動物食で、たいていは水辺の動物を食べるのですが、種によって好みは少しずつ違っています。コサギは、小型の魚やエビ類を主に食べているようです。コサギがいる場所はそういう動物がいる田んぼや川や池の浅いところです。水深が深い場所にはいません。コサギの行動を観察すると、上記のような場所を歩きながら、脚をぷるぷる震わせる動作をしています。これは水が冷たくて震えているのではなく、こうやって水底を探っているのです。あるいはかきまわして動物を追いだしているのかもしれません。そして、何か見つかればすばやくくちばしでくわえて食べてしまいます。
ダイサギはかなり水深があるところにも入っていきます(もちろんいつも水の中にいるわけではありませんが)。脚が完全に水没し、胴体が水につくぐらいの深さの所までは行きます。そのため、ダイサギは水深を知るための目安にもなります。ダイサギはある程度水深のある場所でじっとしていることがあります。これは食べ物となる魚を狙っているのです。じっとしているダイサギを見つけたならば、しばらく観察してみてください。突然くびを水中に突っ込み、魚をとらえるシーンを見ることができるでしょう。ダイサギの食べる魚はけっこう大きなものが多くて、遠くから双眼鏡で見ていてもそれが魚だとはっきりわかるほどです。魚に詳しい人ならその種類もわかるほどです。
このように、コサギは水深が浅い場所、ダイサギは深い場所にいるのが普通ですので、両者が仲良く並んでいる姿を見ることはほとんどありえないことなのです。私も過去に何度か見た程度です…今度そんな場面に出会ったら証拠写真撮っておきましょう。まあ、上野動物園は例外かもしれませんが、ここもダイサギはいつもいるわけではないようですし…。

さて、他の白いサギも急いで見ていきましょう。
まずチュウサギ。漢字では中鷺。コサギとダイサギの中間の大きさなのでチュウサギ、というわかりやすいネーミングです。コサギ、ダイサギよりもくちばしが短めなのが特徴です。ただし、このチュウサギ、現在では数が少なくかなり珍しい存在になったようです。チュウサギは田んぼでよく見られるということです。
次はアマサギ。コサギよりもさらに小型のサギです。アマサギは夏には頭部と背中がオレンジ色になるためシラサギとは言いにくいかもしれませんが、冬は羽毛は完全に白くなります。
最後がクロサギ。クロサギというからには全身羽毛は黒いのですが、羽毛がまっ白な「白色型」のクロサギ(ややこしい!)というのも珍しくないようで(私も見たことがないからその比率はよくわからない)、これもまた白いサギの仲間になってしまうのです。

以上の5種類が日本で見られるシラサギということになりますが、普通に見られるのはコサギとダイサギだと言ってしまってもいいでしょう。
ちなみにもうちょっと難しい分類の話をしますと、上記の5種は、

アオサギ属にダイサギ
シラサギ属にコサギ、チュウサギ、アマサギ、クロサギ

というように分類されています。ダイサギだけ仲間はずれなんですね。そして、最初に「シラサギ」という名前の鳥はいないと言いましたが、属レベルでは「シラサギ」という名称は存在しているのです。でもダイサギはシラサギ属じゃないし、シラサギ属の中にもクロサギのように白くない種もいたりして、やっぱり白いサギをまとめて「シラサギ」と呼ぶのは無理があることなのです。

ところで、コサギとダイサギは同時に見られることはあまりないと書きましたが、例外もあります。それは集団繁殖地(コロニー)の場合です。サギ類は春から夏にかけて、産卵、子育てをしますが、その時に大集団で営巣するのが普通です。その集団の最大派閥はコサギ、次に多いのはダイサギという構成が普通で、少数ながらチュウサギやアマサギ、さらにはゴイサギまでもが混じっていることもよくあります。このような集団繁殖地はサギ類をまとめて観察できる絶好の場所ですので、近くにそういう場所があれば行ってみることをおすすめします。ただ、集団繁殖地はフンのにおいで非常にくさいことは覚悟しておいてください。魚を食べる鳥のフンというものはかなりくさいのです。そしてその数が多くなるとそのにおいの合計もかなりのものになってしまうのです(やはり魚食で、集団繁殖するカワウも同様)。そのため、サギやカワウの集団繁殖地は周辺住民にとっては嫌われものになってしまうのもまた本当の話なのです。ただ、その中にはチュウサギのような珍しい種類もいるため、集団繁殖地を簡単につぶすわけにもいかないのです。

さて、次回も続けてサギの話をしましょう。今度は別の種類のサギの話です。


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