いきもの通信 Vol.316[今日の事件]外来生物法、施行から1年 

Vol. 316(2006/5/14)

[今日の事件]外来生物法、施行から1年

1年前にはかなり報道され話題になった「外来生物法」=「特定定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」ですが、今ではほとんどマスコミに登場しなくなってしまいました。法律が施行されたので、この問題はもう終わったと世間的には思われているのかもしれませんが、実際は完全解決は当面無理なほど大きな問題なのです。これは役所の怠慢によるものではなく、問題があまりにも多岐広範囲にわたるために対処が十分にできないからです。外来生物問題はまだまだ続くことなのです。
報道はほとんどされませんでしたが、外来生物法が施行された後もいろいろと動きがありました。今回はそれらを取り上げてみます。
今回の情報は環境省の外来生物法のホームページからのものです。

・特定外来生物の第2次指定

9属、34種が決定し、2月から実施されています。
ノーザンパイク、ストライプトバス、ケツギョ、モクズガニ属、オオフサモといった「外来水生生物事典」で取り上げた生物が入っています。逆に同書でとりこぼした生物もいました。例えばカエル類がそうですね。
今回の指定にはいくらかの疑問もあります。その代表がマスクラットです。マスクラットは確かに外来生物です。しかし生息地はかなり限られ、現状以上に大繁殖するおそれはないでしょう。マスクラットよりも緊急性のある生物は他にいくらでもあるはずなんですが。とりあえず反対も少なくて手っ取り早くできそうなマスクラットが選ばれたという感じがします。
今回の指定で目立ったのは、「シカ属」「テナガコガネ属」のように属レベルでの指定が増えたことです。第1次指定でも属指定はあったのですが、さらに増えた感じです。特定外来生物の指定は的をしぼって少数を選ぶのではなく、かなり広い網を使って多数の生物を指定していこうという環境省の意図が見えてくるようです。輸入段階で侵入を阻止するならば、より多くの種を指定した方が良いのは確かです。1種1種を個別に判定していくのは時間がかかりすぎるでしょうし。

特定外来生物のリストを見ていると、多種多様な生物をひとつのくくりで対処しようとしている無理があるように見えます。
例えば、既に国内で大繁殖しているアライグマは「駆除」を中心に、同時に「輸入禁止」をしなければなりません。マスクラットは「輸入禁止」を中心にすべきで、駆除するほどの被害はありません。チュウゴクモクズガニ(上海ガニ)は料理店の需要がほとんどですので、野外に放すことをさせない(「遺棄禁止」)施策が必要でしょう。一般にはこういうことはあまり知られていないのではないでしょうか。そのため「外来生物法は動物虐殺だ」などというあまりにも単純な暴論まで現れかねません。

・具体的な防除活動

法律の施行を受けての防除はすでに始まっています。環境省自身が行っている防除は現在ありませんが、自治体などが実施する防除はいくつも始まっています。駆除が可能といっても誰でもが無差別に実行できるわけではないことに注意してください。全国一斉に外来生物の殺りくが行われているような印象を与えがちな同法ですが、そんなことはありません。そもそも予算がそこまで潤沢にあるわけではありませんし。また、猟銃の使用もないようです。このあたりは鳥獣保護法に準じた捕獲方法をとっているようですね(猟銃を使うには規制も多いし、他の動物を誤射してしまうおそれを考えると、わなで安全に捕獲するのが最も妥当)。
防除を実施しているのは自治体だけでなく、「岡山県自然保護センター」「和亀保護の会」といった民間団体の名前も見られます。民間団体で大丈夫なのか?とちょっと思いましたが、では自治体なら安心かというとそうでもありませんしね。
種類ではアライグマ、カミツキガメが多く挙がっています。特に、北海道では全道でアライグマとアメリカミンクの防除を行っていることがわかります。

・コガネムシ上科

コガネムシ上科に含まれる生きた昆虫を輸入される方へ」ということで特別に扱われています。

コガネムシ上科には、
ムネアカセンチコガネ科、マンマルコガネ科、ホソマグソクワガタ科、センチコガネ科、ヒゲブトハナムグリ科、ニセコブスジコガネ科、アツバコガネ科、クワガタムシ科、アカマダラセンチコガネ科、クロツヤムシ科、フユセンチコガネ科、コガネムシ科(カブトムシ亜科、テナガコガネ亜科、ハナムグリ亜科など)、コブスジコガネ科
が含まれます。
今人気のカブトムシ、クワガタムシがしっかり入っています。なぜコガネムシ上科が問題になるかというと、植物に被害を与えるおそれがあるからです。植物被害ということは当然、農業被害もありうるということです。そのため、コガネムシ上科は植物防疫法の対象にもなっています。ムシキングに興じている場合ではないのですよ。
そういうこともあって、ホームページでの説明も植物防疫法と外来生物法の2本立てであることをはっきりと書いています。
「植物防疫法上輸入が可能な昆虫であっても、外来生物法上の許可、種類名証明書等がないと、輸入ができません」
ちなみに、植物防疫法で輸入可能なカブトムシ・クワガタムシのリストは以下の通りです。

植物防疫所「植物防疫法の規制に関連する昆虫類などの一覧表

手続きは面倒ではあるものの、輸入可能種が減っているわけでもなく、結局は今までとあまり変わりがないような…。それに手荷物などに隠しての密輸は容易にできるので、その取り締まりもがんばってほしいものです。

それから、5月下旬までのパブリックコメントとして、「クモテナガコガネ属及びヒメテナガコガネ属は生態系に係る被害を及ぼすおそれがあり、特定外来生物に指定するのが適当である。」という件で意見を求めています。

・マイクロチップ埋め込み

獣医師向けマニュアルが掲載されています。特定外来生物のうち、哺乳類と爬虫類は原則としてマイクロチップの埋め込みが義務づけられているからです。
外来生物法ではありませんが、動物愛護法でもマイクロチップの義務化が検討課題に挙がっています。こちらはイヌ、ネコが主な対象になります。外来生物法がマイクロチップ普及への第一歩ということになるわけです。

・クマネズミも特定外来生物に?

第4回専門家グループ会合(哺乳類・鳥類)(2005年7月8日)の中の一番下の「石田・持込資料」という文書ではクマネズミが取り上げられています。
クマネズミの侵入は意外と古く、外来生物法の対象にはならないと考えられてきました。ところがこの資料によるとクマネズミは船に乗って繰り返し侵入しているとのことです。この資料だけではあまりにも手がかりが少ないため論評は難しいのですが…。ただ、一般論としていうと、実際問題として駆除は非常に難しいでしょう。ネズミ駆除の業者が成り立っているということは、ネズミの根絶が難しいことを意味しています。また予防面でも、輸入(荷物にまぎれての入国)の阻止も難しいでしょう。
ネズミは鳥獣保護法の保護対象ではありませんし、衛生目的でのネズミ駆除は既にビジネスとして存在しているので、あらためて外来生物に指定する必要性は少ないように思えます。なんでもかんでも指定すればいいというものでもないだろうというのが私の見方です。ただ、クマネズミ駆除がビジネスとして成り立っているのは主に都市部であり、それ以外の地域の対策が必要であるというなら話は別でしょう。


他にもいろいろなトピックがあるのですが、今回はここまでにしましょう。
ちょっと気にかかるのは、専門家グループ会合が法施行後の2005年後半から開催数ががくっと減っていることです。環境省は法が施行されたから気が緩んでいるのではないですか? あるいは、防除実務が忙しくなったからという理由からならまだいいのですが、ちょっと心配です。
外来生物法は法律ができたから終わりでありません。防除はおそらく永久に続きますし、法律の定期的な見直しも必要になるでしょう。動物行政を考える上ではこれからも重要なテーマであるのです。
(そして、「外来生物法=ブラックバス問題」ではありません。ブラックバスは数多くの中のひとつの問題にすぎません。ブラックバスにこだわりすぎて全体論を見失ってはいけません。)


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