Vol. 317(2006/5/21)

[今日の事件]ミシシッピアカミミガメが特定外来生物に指定されない理由

前回に引き続き外来生物法の話です。
外来生物法で扱いがまだ定まっていない動物の中で、私が個人的に関心を持っているのはミシシッピアカミミガメとカブトムシ・クワガタムシ類です。今回はそのうちミシシッピアカミミガメの方の話です。

まず、ミシシッピアカミミガメについて、外来生物法の専門家会合で環境省が提示した資料がなかなか面白い内容でしたので、その概要を紹介しましょう。ホームページでは「第4回 特定外来生物等分類群専門家グループ会合(爬虫類・両生類)議事次第」の中の資料2−4「ミシシッピアカミミガメの輸入・流通、飼育実態及び海外における法規制について」として掲載されています。

輸入状況について

・アメリカのルイジアナ州、ミシシッピ州にアカミミガメの繁殖施設があり、そこから世界各国にアカミミガメが輸出されている。その統計では輸出量の順位は中国、香港、日本の順。中国、香港は主に食用目的か。
・1990年代には年間で約100万匹程度のアカミミガメがアメリカから日本に輸入されている。
・2002年では、日本の貿易統計とアメリカの爬虫類の生体輸出の統計から年間で約60万匹〜70万匹程度のアカミミガメが日本に輸入されていると見られる。
・最近は中国国内で食用目的で数万匹以上が生産されている。その一部は日本にペットとして輸入されている。
・現在はアカミミガメと言われるものはほとんどミシシッピアカミミガメTrachemys scripta elegans。流通しているもののほぼ100%がアカミミガメ。
・流通経路はさまざまだが、輸入されたものはほとんど小売店、大型量販店などで販売されている。
・ゼニガメとして売られているものの多くは中国産のクサガメ。輸入統計では年間に数万頭が輸入されている。

アカミミガメの飼育実態

・インターネットで簡易なアンケート(約1000人対象)を行った。全世帯の約2.6%がアカミミガメを飼育中。以前にアカミミガメを飼育していた、今は飼育していない=20%。子供のいる世帯では高い割合でアカミミガメを飼育している、または飼育していた。
今飼っている人でアカミミガメを10年以上継続して飼育しているのは3.5%。過去の飼育期間は多くの場合が3年以内(76%)。継続して飼育できなくなった理由は、71%がアカミミガメが死んだ、7.7%が「遺棄した(捨てた)」、12.2%が「逃げてしまった」。よって、野外に生きたまま流出したものが20%ぐらいということになる。
・単純に計算をすると、アカミミガメを飼ったことがある世帯が日本全国の約5000万世帯の2割、1000万世帯ぐらい、そのうちの2割がアカミミガメを逃がしたとすると、200万匹が生きたまま野外に流出したことになる。(同会合の議事録より)

海外でのアカミミガメの規制

・韓国ではアカミミガメ、ウシガエル等が特定外来生物のような指定を受けており、輸入や国内流通は原則として禁止。違反したときには約200万円の罰金。野外に放つことも禁止。所持そのものには直接的な規制はない。別の亜種が脱法的に輸入をされているという問題もある。
・オーストラリアでは、爬虫類の生体の輸入は禁止。商業目的を除いて数種のカメ類のみ輸入が許可されている。アカミミガメは既に定着していて、有害動物としてオーストラリアの各州の州法で規制されて愛がん飼養は禁止されている。
・ニュージーランドでは、アカミミガメ等の侵略的な爬虫類を法律によって有害動物として取り扱う。アカミミガメの自由な輸入は禁止されている。
・ヨーロッパ(EU)では、1997年にアカミミガメは輸入禁止。在来のヨーロッパヌマガメの保護を目的としている。
・南アフリカは、サルモネラ対策としてカメの輸入を禁止している。
・カナダでは、州政府でアカミミガメやフロリダスッポンの食用利用に規制を加えている。
・シンガポールは爬虫類を含む野生動物の飼育に対して厳しい規制ある。アカミミガメのみが愛がん飼養を認められている。
・輸出国のアメリカでは約10センチ以下のアカミミガメ等のカメ類の販売は禁止。アカミミガメにサルモネラ感染症が増加して騒動になった1976年に施行された規制による。
・アメリカ国内の州政府自体がサルモネラ対策や在来種の保護の観点からカメ類の飼育を厳しく規制しているというところも多い。

日本での現状や海外での対応を考える上でもまとまった資料になっています。議論のベースにはちょうどいいでしょう。

さて、これだけ規制するための状況があるにもかかわらず、ミシシッピアカミミガメがすぐにも特定外来生物に指定される見込みはまったくありません。
その理由の第1は、「ミシシッピアカミミガメを輸入・飼育禁止にしても代わりのカメ類はいくらでもいる」からです。ミシシッピアカミミガメの近縁のカメはもちろん、系統的に異なるカメ類にまで人気が移ってしまうだけの結果になりかねないのです。ミシシッピアカミミガメは繁殖施設があるという特別なカメですが、それがダメになったら他のカメでもいいから施設で繁殖させようという動きになるかもしれません。それがビジネスというものです。ミシシッピアカミミガメを特定外来生物にするなら、他の多くのカメ類の扱いも同時に検討せねばならないことになります。
理由の第2は「現在も大量に流通・飼育されているので、規制をすると大量に遺棄されるおそれがある」からです。一応、同法では「今飼っているものは飼い続けてかまわない」ことになっているのですが、勘違いした人たちがいっせいに捨てかねないおそれがあるのです。また、在庫を抱えた業者が大量投棄するかもしれません。その対策には入念な段階的規制や事前の大々的な啓蒙活動が必要になるでしょう。
以上の2つの理由は、その結果がどうなるか予測しにくいものであるため、どう扱ったらいいものか環境省も専門家も持て余しているというのが本当のところでしょう。
私個人はカメ類は原則すべて特定外来生物に指定してもかまわないとは思うのですが、そうすると他の動物群での規制とのバランスが悪くなりすぎるかもしれません。つまり、カメ類がダメならトカゲ類、ヘビ類はどうなるんだ?カエル類も同じ扱いなのか?といった議論が同時に発生してしまうでしょう。また、あまりにも対象を広げすぎるのもやり過ぎのような気もします。
もうひとつ問題があるとすれば、流通業者・小売業者の反発でしょうか。これだけ大量に出回っている「商品」が扱えないとなると必死に反発してくる可能性もあります。自然環境問題とはかけ離れた方向で議論が盛り上がってしまうというのも本末転倒な話です…。

いずれにせよこの問題の解決はまだまだ先のことです。そうしている間にもミシシッピアカミミガメの遺棄は続いていくのですが…。外来生物法はなんでもかんでも一括して扱おうとするあまり柔軟な対応ができなくなってしまっているように思えます。


さて、もう少し専門家会合の議事録を見ていきます。今回紹介している会合では次のような資料も出されています。

資料2−1「要注意外来生物リストの再整理・活用の方針について」
資料2−2「要注意外来生物リスト(爬虫類・両生類)(案)」

これによると、まだ特定外来生物に指定されていない「要注意外来生物」を以下の4つに分ける方針が書かれています。

(1)被害に係る一定の知見はあり、引き続き指定の適否について検討する外来生物
(2)被害に係る知見が不足しており、引き続き情報の集積に努める外来生物
(3)選定の対象とならないが注意喚起が必要な外来生物(他法令の規制対象種)
(4)別途総合的な取組みを進める外来生物(緑化植物)

そして、ミシシッピアカミミガメは他の爬虫類両生類とあわせてカテゴリー2に分類されています。
会合ではこれについて委員(専門家側)から異論が出ました。つまり、
「アカミミガメが優先種になっている場所は多い=明らかな被害と言える」
ということです。確かに都市部ではこれだけミシシッピアカミミガメがのさばっているのですから、「知見が不足」というのも変な話です。専門家側からは他にも「捨てられる量が非常に多い」「明らかに日本在来種と生態が重なる」「注意を喚起するためにも」「外来生物の問題が捕食や競争という面だけに絞って取り上げられていて偏りがある(アカミミガメはこれらに該当しないが、在来生態系に影響を与えているのは確か)」「外国でも実際に規制されている」といった意見が出て、ミシシッピアカミミガメをカテゴリー1にせよ、との要求になりました。
これに対して環境省側は「科学的な知見はない=文献がない」「飼育や遺棄の現状は重大な被害とは言えない」ということでそれをしぶっています。
結局はカテゴリー1に入れることで環境省側が折れています。環境省としては統一的な基準で作業を進めるために文献の有無で線を引きたかったのでしょうがね…。

ただ、日本国内のミシシッピアカミミガメについての研究が少ないのは事実であり、これはとても残念なことです。生物学の世界では外来種や移入種の研究は主流ではありません。外来生物はイレギュラーな存在であるため、研究したがる人は少ないのです。農業被害などの実害が発生すれば対策や駆除のための研究が行われることもありますが、ミシシッピアカミミガメのように一見無害な動物はそういう研究すら行われないのです。
これまた個人的な意見を言わせてもらうと、こういった問題に取り組むには日本には生物学者が足りないのではないでしょうか。最近は特に「(経済的に)役に立つ学問」ばかりに予算・人員が振り向けられていて、生物学(医学・バイオ系を除く)のような「役に立たない(ように見える)学問」は非常に肩身の狭い立場です。その一方で動物が暴れたりした時だけ無理難題を押しつけられるような損な役回りのような気もします。日本の生物学はこれでいいのか?と思わずにはいられません。


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