Vol. 323(2006/7/2)

[東京タヌキ探検隊!]タヌキの証拠をつかむには

東京都23区内のタヌキについて、昨年末ごろからテレビなどで報道される機会が増えたためか、私あての目撃情報メールもちょっと増えたような気がします。ご協力ありがとうございます。といっても1ヶ月に1件程度ですが。

目撃情報メールはこれまでに何件もいただいていますが、多くのメールに共通することがあります。それは、
「家族に『タヌキを見た』と話しても信じてくれない」
というものです。これは家族に限ったことではなく、
「友人に…」
「会社の人に…」
というバリエーションもあります。こういう話はかなり頻度が高い印象がありますね。
普通の人は「東京都23区にタヌキなんかいるはずがない」と思い込んでいるためこんなことになってしまうらしいのです。「何か別の動物じゃない?」と言われたりもすることでしょうし、目撃した本人もタヌキの正確な姿を知っているとは限りませんから「やっぱり違ったのかなあ…」と考え直すこともあるでしょう。タヌキの目撃時刻はほとんどが夜で、少し離れたところから見る場合が多いため、はっきりとタヌキと認識できないこともあるはずです。実際、暗いところではタヌキはネコっぽく見えないこともないのです。
他人が信じてくれない例が多いということは、目撃者本人も信じられないということもかなりあるのではないかと思われます。人間とタヌキが接近遭遇する機会は実際は意外と多いのかもしれないとも私は思っています。
それでもタヌキを目撃することがなかなか難しいのは、タヌキが夜行性であること、慎重な性格で人目を避けるように行動していること、といった理由があるからです。


タヌキの存在を信じてくれない人に対しては証拠を見せるのが一番です。これはタヌキを調査している私にとっても同じことで、証拠集めは優先課題になっています。「証拠」は、最も良いのはタヌキご本人を捕獲することですが、野生動物の無許可捕獲は鳥獣保護違反ですし、かなり大がかりになってしまうので一般の方には現実的ではありません。狩猟免許も必要になりますし(猟銃を使わずにワナで捕るのも狩猟免許が必要)。
その次に良い証拠となるのは、写真またはビデオ映像です。これなら一般の方でもできそうに思えるのですが、実際はそう簡単なことではなかったりするのです。動物の写真やビデオ撮影に慣れている私でさえ難しいと思うほどなのです。

撮影が難しい理由について、まず写真から。
まず、タヌキは夜行性で、なかなか人間に近づかないという状況がほとんどであることを考えねばなりません。それならばフラッシュを使えばいいじゃないかと思われる方は多いでしょうが、通常のフラッシュは光が届くのはせいぜい5mといったところです。そこまでタヌキに近づくのは難しいでしょう。光が届かないのならいくらカメラが高級品でもタヌキは写りません。また、たまたまタヌキがいる場所が街灯などで明るかったとしても、遠すぎてはちゃんとした写真は撮れません。望遠10倍ズームなら遠くても撮れる、と思いたくなるところですが、夜の暗さの中では望遠倍率を上げると手ぶれ失敗を抑えることができません。最近のデジカメでは「手ぶれ補正」機能が大人気ですが、これも完全万能であるはずもなく、暗い場所+高倍率では意味をなさない機能です。夜間に手持ちで撮れるのはせいぜい2倍ズーム程度であり、高倍率で撮るならば三脚は必須です。
以上からもうひとついえることは、携帯電話についているような低機能カメラ、あるいは軽量化を優先したコンパクトカメラでは撮影はまず不可能ということです。こういったカメラは、昼間、スナップ写真を撮ることを前提に作られています。動物写真のような特殊なジャンル、しかも夜という悪条件下ではまったく役に立たないのです。

撮影が難しい理由について、次はビデオの話。
ビデオカメラには夜間撮影機能あるいはナイトショットとも呼ばれる機能がついているので、これなら真っ暗でもタヌキが撮れそうだと思いたくなりますが、これまたそうはいきません。というのも、夜間撮影機能といっても、まったく光が無い状況で撮影しているわけではないのです。実は夜間撮影機能は、人間の目には見えない赤外線ライトを照らしているから撮影できるのです。そして、その赤外線ライトが届く距離もやはり5m程度なのです。離れたところにいるタヌキを撮るのはやはり難しいのです。

以上をふまえて、どうすれば撮れるかを考察してみましょう。

・光を当てる

そんな当たり前な…と言わないでください(笑)。フラッシュがダメでも他の方法はあるのです。実際の経験から言うと、意外にも懐中電灯でも役に立ちます。ただ、懐中電灯の明るさではカメラは厳しいでしょう(上記の通り)。暗い状況ではビデオカメラの方を推奨します。
熊谷さとし・著「哺乳類観察ブック」では、動物の通り道の上に電灯をぶら下げておくという方法が紹介されています。実際、哺乳類は真上が盲点になっているのではないかと思うことがよくあります。

・昼間撮る

これまた当たり前なことを…と言われますかね(笑)。タヌキは夜行性だから撮れないだろう!とも(笑)。
それはその通りなのですが、まれにタヌキは昼間行動することがあります。そういう時は絶好のシャッターチャンスですから、絶対に撮り逃さないように! また、子育てをしている時も、昼間に巣穴のそばで親子が遊んでいる姿が見られることがあります。これも特殊な状況ではありますが、とにかく、昼間タヌキが見られるというのは非常に幸運なことです。その幸運を逃さないようにしてください。

もうひとつヒントを追加しましょう。
カメラとビデオカメラを比べて、どちらの方が撮りやすいかというと、ビデオカメラの方が簡単ですし、失敗も少ないでしょう。電源のON/OFF、録画開始/停止、ズーム、とこれだけ覚えれば撮影はできます。製品として完成してしまっていて、どれを買っても性能がほとんど同じです。そのため誰が撮っても同じように撮れます。ズームも10倍あるので離れていてもなんとか撮れます。また、夜間撮影機能がないとしても、暗い場面に強いのはビデオカメラの方です。
ということで、私はビデオカメラの方を推奨します。シャッターチャンスを気にせず、一挙手一投足が撮れるというのも魅力ですよね。
手ぶれが気になるなら三脚を使ったり、ビデオカメラを持つ腕を壁などに押しつけることでゆれを最小限に抑えるなどの工夫をするといいでしょう。
ビデオカメラの欠点は、画素数が少ないことです。通常型は640×480ドット。数百万画素にもなるデジカメには到底及ばない差です。しかし、タヌキ撮影のような特殊な状況では、数百万画素の画質も十分にいかされないものです。ということで、私はやはりビデオカメラの方に軍配を上げます。

写真やビデオカメラに詳しい方なら以上のヒントでだいたいのやり方は理解できると思いますし、自分で工夫することもできるでしょう。そうではない方は、ビデオカメラ+懐中電灯でがんばってみましょう。ただ、驚かすと2度と現れなくなるかもしれない…というリスクもあります。野生動物というのは難しいものです…。動物写真家は苦労しているのですよ。

なお、防犯用カメラなどがすでにあるならそれを使ってみる方法もあるということを付け加えておきます。まあ、そんなものを持っている人は少ないでしょうが…。


最後に、もうひとつ別の証拠を紹介しましょう。
それは「ためフン」です。タヌキは自分の活動範囲内の複数の場所にトイレを持っています。フンはそこで必ずします。そして家族で利用するので、その場所にはフンが大量にたまることになります。小型犬のフンぐらいの大きさのフンが、多数まとめてたまっていたならばそれはタヌキのためフンに間違いありません。都会でそのようなためフンをする動物はタヌキ以外にいません。
ネコは、単独で行動し、フン場は砂地を好み、フンの上に砂をかけます。そのため「ためフン」になることはありません。
タヌキのためフンは、普通は目立たないところにありますので、なかなか気づかないかもしれません。それでもお庭の片隅にためフンが…ということがあるかもしれません。
ためフンは、その内容物を調べることでどんなものを食べているのか推定することができます。たいていのものは体内で消化されてしまうのですが、植物種子(果実種子)、昆虫の断片、植物の断片、羽毛の一部、骨の断片などはなんとか形を残して排出されます。また、ビニール片、プラスチック片など人間に関連するものが見つかることもあります。
フンの分析をしたいという人は…ほとんどいないと思いますので(笑)、私が現場に行って採集することも考えています(ただし東京都23区内に限る)。

他には足跡というものもありますが、都会には適当な土が露出した場所が少ないですし、小型犬との区別が難しい、という問題があります。


以上を読んで、「やっぱり自分には難しいや…」と断念する方もいることでしょう。入念な準備が必要で、偶然だけでは撮れないものであるということもおわかりいただけると思います。いやはや、ほんとに私自身が苦労していますから(笑)。

東京都23区内での最新のタヌキ情報については
東京タヌキ探検隊!
のページをご覧ください。

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