Vol. 325(2006/7/16)

[今日の勉強]動物の大きさの測り方

以前、テレビのあるニュース番組で「体長50cmの巨大ネズミ!」というようなタイトルの特集が放映されたことがありました。体長50cm?そりゃでかいな、マスクラットかヌートリアか?と思って見てみたら、登場したのはドブネズミでした。ドブネズミは50cmもないよ…と私はがっかりしたと同時に、どうも世間一般の動物の大きさの感覚というものが専門的な計測方法と違っているものだということに今さらながら気づいたのでした。

動物学も自然科学ですから、計測には厳密さが必要になります。また、いろんな動物と比べられるように、計測する箇所も決まっています。
哺乳類の場合の基本的な計測方法は、「頭胴長」と「尾長」の2つです。それぞれ文字のごとく「頭と胴体を合わせた長さ=鼻先からお尻まで(脚は含まない)」と「尾の長さ」を表します。頭胴長と尾長を分けて測るのは、その方がなにかと便利だからです。例えばネコの場合、尾が長いものもいれば、尾が無いものもいます。「全長(=頭胴長+尾長)」で測ると尾の長さによってかなり数値がばらついてしまうことになります。しかし頭胴長で測れば、尾の有無に関係なくばらつきの少ない数値が得られます。また、動物の種類によっては、頭胴長と尾長の比率を計測することで種の判別を行う場合があります。こういう現実的な事情もあって、哺乳類の大きさを表すには普通は頭胴長と尾長が用いられます。
しかし、世間的には動物の大きさとは尾も含めた「全長」のことだという認識が一般的なようです。専門家が頭胴長で大きさを語っても、普通の人はそれを全長と受け取ってしまうため、話がうまく伝わらないことも多いのではないでしょうか。

先ほどのドブネズミの話に戻りましょう。ドブネズミの大きさは、頭胴長約24cm、尾長約20cmです。全長だと44cmぐらい。体格がいい個体ならば全長は50cm近くになるでしょう。そういう意味では「体長50cmの巨大ネズミ!」という表現も間違いではないのです。しかし、普通の人は「体長=全長」と受け取り、専門家は「体長=頭胴長」と受け取ることでしょう。専門家から見ればこの表現は「誇大表現」となるわけで、「マスコミはいい加減だ!」と非難したくなるでしょう。専門家なら「体長50cmのネズミ」といえばヌートリア(頭胴長43〜64cm、尾長約26〜43cm)あたりをまず思い起こすでしょうね。

しかし「頭胴長」も万能とは言えません。タヌキの大きさを表現する場合はよく「小型犬並み」という言い方をします。これは頭胴長で表したものです。しかし、実際にタヌキを見てみるとイヌよりも小さく感じられるでしょう。これはタヌキの脚が短いために全体の大きさも小さく感じられてしまう錯覚が起こるからです。タヌキの場合は、同じように脚が短いネコと比較した方が適切かもしれません。

大きさの錯覚というものは自然観察にはつきもので、「頭胴長」とか「全長」といった数字は現場ではあまり役に立ちません。
例えば、鳥の大きさは「全長」で測ります。この場合の全長とは、体をまっすぐにのばして、くちばしの先端から尾羽の先端までの長さのことをいいます。脚は含みません。ここで2種類の鳥を比べてみましょう。まずコサギ。コサギは「シラサギ」と呼ばれることもある白くて脚が長い鳥です。コサギは全長61cmです。もうひとつはカルガモ。池などで一年中見かける、おなじみのカモです。こちらも全長61cmです。ちょっと想像してみると、コサギの方が脚が長いためにずっと大きいように思えてしまいます。カルガモは泳いでいると脚は見えませんし、見えたとしてもかなりの短足です。しかし、全長には脚は含まれませんので両者は同じ大きさになってしまうのです。理屈ではそうなのですが、普通の感覚には合わないものを感じてしまいます。

別の例を挙げてみましょう。コサギとダイサギはどちらも白くよく似ていますが、名前の通り大きさがはっきりと違うため、並べれば簡単に見分けられます。しかし、実際は遠くに単独でいることがほとんどでしょう。その場合、正確な大きさなどわかるはずもなく、どちらなのかすぐには判別できません。双眼鏡で体色などを見て判別しなければならないのです。それぞれの全長を知っていても、比較できるモノサシがすぐそばになければまったく意味のない数字でしかないのです。近くに別の動物など比較対象になるものがいて、初めて「全長」の数値が役に立つのです。

このように、動物の大きさを表す数値というのは誤解を与えやすく、一般の人の理解に貢献しているとは思えないことが多々あります(もちろん学術的には非常に重要なデータですよ!)。マスコミは動物を説明する時に親切で「体長」とか「全長」という数字を使っているのでしょうが、それらが何を表しているのか彼ら自身がよく理解していないために誤解を与えることになっています。そういった問題点を解決するには、哺乳類なら「頭胴長」のように何を計測しているのかが明らかな数値を使用すべきでしょう。また、身近な動物を引き合いに出して、「ネコより大きい」「ハトぐらいの大きさ」といったように比較した方が誤解も避けられるでしょう。

最近話題になっている動物で、やはり測り方が気になるものをもうひとつ紹介しましょう。それは「危険なカメ」ということでニュースでたびたび取り上げられる、カミツキガメ、ワニガメです。
専門的には、カメの大きさは背甲(甲羅)の長さ(頭側から尾側までの長さ)で表します。これを「甲長」といいます。哺乳類は大人になると体の大きさはほとんど変化しなくなりますので、その大きさを測ればいいのですが、カメは死ぬまで成長を続けるのでどの段階を基準にするのかが難しくなります。結局のところ「最大甲長」を基準にするしかないのが現状です。しかしこの数値は当然ながら平均よりもかなり大きくなってしまうため、実際の大きさの印象とかけはなれてしまうおそれがあります。ただ、これはどうしようもないことです。
ちなみに、カミツキガメは最大甲長50cm、ワニガメは最大甲長80cmです。都会の水辺にのさばるミシシッピアカミミガメの最大甲長は30cmほどですから、確かに大型のカメだと言えます。
最大甲長の是非はさておいても、カメの大きさの表現として「甲長」を採用するのは正解でしょう。見た目の実感に近いのも利点です。
頭、尾も含めて「全長」で測る方法もありますが、これは必ずしも妥当とは言えません。問題のカミツキガメは尾が長いため、頭、尾も含めた「全長」で測ると実感以上の大きさになりかねないのです。おそらく甲長の2倍ぐらいの大きさになってしまいます。実際、マスコミ報道の中にはカミツキガメの大きさを全長で測っているのではないかと思われるものもありました。これではむやみに恐ろしげな印象をばらまくことになってしまいます。やはりカメは甲長で測ってほしいものです。

報道する側は動物の大きさの表現にも注意してほしい、というのが今回のお話なのですが、よく考えるとカミツキガメやワニガメの場合は警察発表をそのままマスコミが伝えることの方が多そうです。となると、警察の方々にも動物の測り方を勉強していただく必要があるようです。


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