Vol. 327(2006/7/30)

[今日の勉強]ワニガメとカミツキガメの見分け方

6月27日付け朝日新聞に、カミツキガメ(とみられるカメ)が捕獲されたという記事が載りました。しかし、記事の写真を見るとどうもワニガメのようです…。警察にしろ新聞にしろ、カミツキガメとワニガメの区別もできずに情報を出すというのはおかしいんじゃないか?と思うのですが、どちらもあまり変わりがないと思われているのかもしれません。ただ、こういう記録に残るようなことは正確なものにしなければ後々混乱することになると思います。
これらの区別は専門家に見てもらえばすぐにわかることなのにその手間を惜しむのは残念なことです。

慣れればカミツキガメとワニガメの区別は難しいものではありません。今回は簡単に判別方法を紹介しましょう。今回の記事を読みながらgoogleのイメージ検索で写真を探して確認していくとより効果的とは思いますが、時々間違った写真(あるいは不正確なイラスト)になっていることもありますのでご注意ください。


カミツキガメとワニガメは「カミツキガメ科」に属するカメです。カミツキガメ科にはそもそもこの2種しかいませんので覚えるのは難しくないはずです。

両者を比べると、ワニガメの方が独特な要素を持っているのでそちらから紹介しましょう。
ワニガメの最大の特徴は甲羅です。ワニガメは甲羅の横側の肋甲板と縁甲板の間にもう1列甲板があるのが特徴です。この甲板は「上縁甲板」と呼びます(甲羅の甲板についてはこちらを参照のこと)。この上縁甲板はすべてのカメの中でワニガメだけにあるもので、これがあるならワニガメと断定していいことになります。
また、甲板のキールが高いのも特徴です。キールとはうね状の隆起のことです。背甲板のキールはかなり大きくとがっていますし、縁甲板もとんがりが目立つはずです。カミツキガメにもキールはありますが、ワニガメほどとがってはいません。
ワニガメは口の中(下あご側)にイトミミズのような構造物があります。これは口をひらいてくれないと確認できません。ワニガメのくちばしは鋭く危険なので、無理にこじあけようとしないでください。また、エサで誘導して口を開けさせようとするのも危険です。エサはヒモでつるして試すなど、必ず安全を確保してください。
カミツキガメと比べると、ワニガメの方が頭が大きく、くちばしの先端の突起も大きいです。ただし、これは両者を並べて初めてわかるようなことですので実際には参考にならないでしょう。

次はカミツキガメ。こちらはワニガメほどわかりやすい特徴があるわけではありません。背甲はワニガメに比べると平板です。キールはありますがあまり目立ちません。頭が大きく、くちばし先端がとがっています。尾は長く、甲長と同じぐらいになることもあります(ただし、ワニガメも同様に尾は長い)。

カミツキガメ科に共通する特徴をあげるならば腹甲(腹側の甲羅)の形状でしょう。カメの腹甲は普通は長円形なのですが、カミツキガメ科では下図に描いてあるように脚の根元の部分がおおきくえぐれた形になっています(図の着色部分)。まずこの形を見てカミツキガメ科であるかどうかを判別し、それからワニガメかカミツキガメかを調べれば確実に判断できるでしょう。

ただし、大きな個体はひっくり返すのも大変ですし、小型でも扱いは慎重にせねばならず、腹甲を確認するのは大変でしょう。もし水槽やカゴの中に入れているのなら、下側からのぞいて確認するのが最も安全です。

大きさは、カミツキガメは最大甲長50cm、ワニガメは最大甲長80cmですが、これには注意点があります。それは、これらの数字は「最大」のものであって、たいていの個体ではこれ以下の数字になるということです。また、子どものカメなら小さいのは当然で、大きさで種を判別することはできません。
なお、「甲長」とは背甲(背中側の甲羅)の頭側先端から尾側先端までの長さのことです。頭、尾は含まれません。

また、体色も判別の材料にはなりません。そもそも個体差、個体変異があるためです。一般にはワニガメは茶色、カミツキガメは濃緑色です。
ただし、カミツキガメで濃緑色なのは亜種「ホクベイカミツキ」であり、他の亜種は茶色系です。茶色系亜種は中南米の温かい地域に生息しているので、日本での越冬は難しいのではないかと思われます(だからといって無警戒でもいいということではない)。亜種ホクベイカミツキはカナダ南部にも生息していて、日本でも越冬は確実に可能です。亜種ホクベイカミツキはカミツキガメの中でも日本で最も流通量の多い亜種です。

以上が簡単な判別の方法ですが、わからないのならすなおに専門家に聞くべきです。

捕獲の方法、飼育の方法もわからないのなら専門家に聞くべきです。ちなみに私は明らかに経験不足なので聞かないでください(笑)。
捕獲方法について一般的に言うと、前から接近すると危険ですので、後ろから、甲羅の後ろ半分をつかむのが原則です。カミツキガメは意外と首が長く、よく曲がるので注意が必要です。小型ならば、尾をつかんでぶら下げるのがとりあえず安全確実でしょうか。かなり大型になるとかかえることも難しくなりますから、これはもう専門家の指導を必ずあおいでください。


カメの判別についてもうちょっと付け加えますと、国内のカメ類の種類は少ないということを覚えておいてください。一通りのカメの特徴がわかれば判別は難しくないでしょう。日本在来の淡水カメは、本土ではニホンイシガメ、クサガメ、ミナミイシガメ(地域は限定される)、ニホンスッポン、沖縄諸島でリュウキュウヤマガメ、セマルハコガメがいます。本土でもっとものさばっているのはミシシッピアカミミガメですが、これは外国産です。以上を覚えておけばたいていの用は足りるでしょう(他はウミガメ類で、淡水にはいない)。
以上の種類がわかれば、カミツキガメやワニガメを見るのが初めてでも「これは違うな」ということはわかるはずです。


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