いきもの通信 Vol.333[今日の観察]歯は正しく描きましょう 

Vol. 333(2006/9/10)

[今日の観察]歯は正しく描きましょう

私がアニメ番組を見ていて非常に気になるのが「おかしな動物描写」です。まあ、アニメなんだから、多少のデフォルメはかまわないんですよ。しかし、がんばって本物っぽく描いているのに、本物からかけ離れた絵になってしまっているという例は毎度のことです。そんなおかしな描写の中でも特に気になって仕方がないのが「間違った歯並び」です。今回はそのお話。

※歯の名前は日常生活では前歯、犬歯、奥歯という言い方をしますが、専門的には切歯、犬歯(これは同じ)、頬歯(普通は前の方を前臼歯、後ろの方を(大)臼歯と分ける)と呼びます。でもわかりにくいでしょうから日常用語で説明していきます。


先日、吸血鬼がいっぱい出てくるアニメ番組を見ていたらイヌが口を開けている場面がありました。下の図のような感じです。

まあ、普通の人なら気にもならない画面でしょう。でも、動物の専門家でしかも骨好きという私にはちょっと耐えられない画ですね。何が変なのかわかりますか? イヌを飼っている方は口をあけさせて確認してみてください(笑)(鼻ぺちゃなイヌはいい見本ではありませんが)。
まず、イヌなら犬歯をはっきりと大きく描くべきですよね。他の歯も、同じような大きさの歯が規則的に並んでいるのではありません。大きさも形もそれぞれ違っています。それに、犬歯と奥歯の間の大きなすき間はいったいなんなのでしょう…。こんなにすき間は空いていないんですが。
このアニメ番組はけっこう描き込んでいる方なので、これぐらいなんとかしてほしかったです。せめて犬歯を強調するぐらいすれば私でも我慢できたかもしれません。でも他のアニメでもイヌの歯はギザギザで処理しているのが普通なんですよね〜。


お次は、中学生女子が神様になってしまうというアニメ。その中学生女子が飼い猫のほっぺをひっぱった顔がこんな感じ。

これはネコじゃないだろ…(笑)。犬歯が貧弱なのは同様で、しかもそれぞれの歯が小さ過ぎて、すき間が空き過ぎ。これはある種の魚類の歯を思い起こさせます。
この作品はけっこうお気に入りなのに、これだけが残念です。


もうひとつはゾウの歯の例。こちらの作品は、未来世界の話で、シベリアから日本へと集団移住するというストーリーです。その旅の途中で「ケナガゾウ」というマンモスのような動物が登場します。このケナガゾウ、頭の横から角が生えているので「ゾウ」とは言いがたいのですが、その全体の容貌は明らかにゾウです。そのゾウが口を開けた時に見える歯が…。

これには大爆笑してしまいましたよ。ゾウの歯なんて外からそうそう見られるものではない、というのはさておいても、なんですか、この人間みたいな歯並びは?(笑) こいつはゾウじゃない、何か別の動物です。
実際のゾウの歯はこんなにたくさんありません。歯は上下左右に1つずつ、計4本しかありません(これらは奥歯にあたる)。そして牙が2本。つまり合計6本しかないのです。ちなみに、牙は上側の前歯です。
ゾウの奥歯は数は少ないですがかなりの大きさで、この歯で植物をすりつぶしているのです。奥歯はすり減ると後ろから次の歯が押し出されてくる仕組みになっています。よくできた仕組みではありますが、これは進化の究極の姿と言えるでしょう。哺乳類は、進化するほど歯が特殊化し、歯の数が減る傾向があるそうです。歯が6本だけしかないゾウは究極進化の道を進みつつあると言えるのかもしれません。


最後は、実名を出しちゃいますけど、古典名作「トムとジェリー」です。トム(ネコ)がにーっと笑うカットがよく登場しますが…。

説明するまでもなく、これはネコの歯じゃありませんよね。まあ、この作品はスラップスティックですからリアルな描写なんか必要ないわけで、とやかく言うほどのことではないでしょう。ですが、私が見ると「トムはネコに見えないなー」「ジェリーはネズミに見えないなー(でも多分クマネズミかなー)」とかいったことが気になって気になって気になって仕方がないのです。そういう時は、「これはスラップスティックなんだー!!」と強く念じて見ることにしています(笑)。
(ちなみに、上記のようにトムが笑うと、歯めがけてゴルフボールが飛んできて、歯に丸く穴があき、続いてすべての歯がぼろぼろと落っこちてしまう、というのが慣例のギャグである。)
ところで、この作品では、よーく見ているとトムまたはジェリーのしっぽが描かれていないカットがまれに見つかります。演出上の必要性が無いのにしっぽが無いのです。これって単なる描き忘れでしょうかね? 謎です。


まあ、アニメ関係者の全員が動物に詳しい必要はありませんが、もうちょっと勉強した方がいいんではないか?と思うことはたびたびです。
動物はダメでも人間ならちゃんと描けるかというとそうでもなくて、以前、普通に口を開けている人の歯の数が異常に多い絵を見たことがあります(笑)。にーっと笑ったとしても、見える歯は上下それぞれ10本ぐらいが上限で、普通は角度もついているし、歯茎むき出しにすることもないので6〜8本ぐらいしか見えないものです。ところがその絵ではそれ以上に歯が並んでいた(笑)。もうちょっと観察してほしいというか、常識的に考えればすぐにわかることなのに(この作品が何だったかは記憶にない。何だったかなー?)。

歯については例えば下記のホームページで実物を見るのがいいでしょう。ただし、掲載されているのは頭蓋骨(上あご)だけで、下顎骨(下あご)はありません。せっかくいい資料なので下顎の写真も追加してほしいです。

哺乳類頭蓋の画像データベース(獨協医科大学 解剖学(マクロ)教室)


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