Vol. 342(2006/12/3)

[今日の勉強]歯の無い動物・その2

身近にいる歯の無い動物

今回も前回に続き歯の話です。今回は哺乳類以外の動物に目を向けてみましょう。
そもそも「歯」というのは脊椎動物だけが持つものですので、今回はそれらが対象になります。無脊椎動物にも口に「歯(のようなもの)」を持つものはいますが、脊椎動物の歯とは起源が異なるものですので今回は取り上げません。

哺乳類以外で特徴的な歯というと、ワニの鋭い歯やヘビの牙のようなものでしょうか。こういった爬虫類の歯は、恐竜のイメージとも重なって印象に残るものと言えそうです。
そんな爬虫類の中で、カメはその例外です。カメには歯がないのです! 機会があれば観察してほしいのですが、まったく歯が無いのです。口のあたりは硬くなっていますが、あれは「くちばし」と呼ばれるものです。
いやいや、ガメラには牙があるぞ!と言われる方もいるかもしれません(笑)。ですが分類学的に言うと牙があるということは、ガメラはカメではないことを意味しているのです。少なくとも、現生のカメとはまったく異なる動物と言えます(甲らの形状も現生のカメとはかなり違う)。

カメよりも身近に歯が無い動物がたくさんいます。誰でも知っている動物……おわかりになりますか? それは鳥です。
よーく思い出してみてください、鳥がくちばしをあけた姿を。くちばしの中に歯はありますか? 上のくちばしにも下のくちばしにも歯はありません。こんな身近に歯が無い動物がたくさんいるのです。
歯が無いということは、鳥は食べ物をかむことがないということでもあります。鳥は基本的には食べ物を丸飲みするのです。動物園でエサを食べるペンギンの姿を思い出してください。ペンギンは魚を丸ごと飲み込みます。鵜飼のウ(ウミウ)もアユを丸のみします(丸のみだからそのままアユを吐き出すことができるのです)。サギ、コウノトリ、カワセミ…といった鳥が魚を丸のみする姿を見た方は多いでしょう。
丸のみを消化するのはさすがに大変ですので、鳥は消化器官に「砂嚢」という部分があり、そこに砂や小石をたくわえ、それで食べたものをすりつぶします。
鳥は丸飲み、と書きましたがあらゆる状況で丸飲みというわけではありません。例えば小鳥が柿の実を食べる時は、実を丸飲みできるわけはありませんから、くちばしで実をつついてけずりとって食べます。また、ワシやタカはヒナに食べ物(ネズミやモグラといった小型哺乳類)を与える時、ヒナが食べやすい大きさに切り裂いてやります(くちばしや脚の爪を使って)。まあそれでも、くちばしでかみくだくというわけではありませんから、結果的にはやはり「丸飲み」であると言ってしまっていいでしょう。
鳥は進化の過程のかなり早い段階で歯を失いました。鳥は恐竜から進化したことが明らかですが、恐竜と鳥を区別するひとつの基準が「歯があるか無いか」だと言えます。ただし、この区別の基準は他にもいろいろあって、歯の有無だけで決まるものではありません。それでも歯はそれぐらい古い時期に失ってしまったのです。

他の脊椎動物では、両生類にも歯がありますが手持ち資料がありませんので今回はパスです。
魚にももちろん歯はありますが、いろいろとバリエーションがありすぎて把握できません。歯があるものもいるし、無いものもいます。こちらも十分な資料がないので詳しくは書けませんが、ただひとつ、これだけは書いておかねばならないことがあります。
それは、地球で初めて歯を持った生物は魚類だ、ということです。魚類もすべての種類が歯を持つわけではなく、最も原始的な無顎類つまりヤツメウナギの仲間には歯はありません。というか、ヤツメウナギにはあごすら無いのです(だから「無顎類」と呼ばれる)。あごを最初に持ったのは無顎類の次に進化した板皮類(現在はすべて絶滅)、そして最初に歯を持ったのはその次に進化した軟骨魚類です。
軟骨魚類といってもイメージがわかない方が多いと思いますが、これはサメ、エイ、ギンザメの仲間のことです(より進化したその他の魚(私たちが知ってる大半の種類)は「硬骨魚類」に分類される)。化石の研究では4億年以上も前に歯を持ったサメがいたことがわかっています。実際に最初に歯を持った軟骨魚類がサメ類そのものだったのかどうかはわかりませんが、現生の歯を持つ動物の中で、最も起源が古い動物は間違いなくサメ類だと言えます。
サメというとどうも「ジョーズ」のような凶暴なイメージばかりが流布していますが、彼らは生物史上初めて歯を獲得した偉大なやつらなのです。ですから私たちはサメに対してもう少し敬意を表してもいいのではないかと思うのですがどうでしょう。私はサメについてのウンチクを語る時にはこの話を必ずするようにしています。


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