Vol. 346(2007/1/21)

[今日の観察]生物観察のための顕微鏡ガイド・その2

顕微鏡の話の続きです。
ニコンの「ファーブル」は値段の割に優れた製品ですが、使い込んでいくと固定倍率がもどかしくなってくることでしょう。「もっと拡大したい!」あるいは逆に「もっと倍率を低くしたい!」と思うようになることでしょう。倍率が可変ならば、もっといろいろな楽しみ方ができそうです。

そこで、可変倍率の実体顕微鏡を探すことになるわけですが…。ところが、一般の人が購入できそうな(値段が安く、入手しやすい)ものとなるとあまり製品がないのです。最も条件に合うのはビクセン社の製品になるでしょうか。
例えばビクセン社のホームページにはこのような製品が紹介されています

「SL-60N」と「SL-60T」は20倍、30倍、40倍、60倍の4段階に倍率を切り替えられます。
「SL-60ZT」はズーム式で、8倍〜40倍または12倍〜60倍でスムースに倍率を可変できます。
いずれもヨドバシカメラのサイトから購入可能みたいですね。
どちらの方がいいかとなると、やはりなめらかに倍率を調整できるズーム式の方が使いやすいでしょう。また、10倍以下の低倍率というのも意外と便利なものです。ただ、「SL-60ZT」の値段は22万円超。家電量販店ではもっと安くなりますが(ヨドバシカメラ、2007年1月現在で15万円台)、それでも高価な買い物であるのは間違いありません。
もうちょっと利点を挙げるなら、デジカメを接続して撮影ができるということでしょうか。長時間ずっと顕微鏡をのぞいているのはとても疲れます。後でゆっくり検討するにはやはり写真を撮っておくのが一番です。ただし、どんなデジカメでも接続できるわけではないので事前によく調べておいてください。もっとも、新たにデジカメを買ったりしたらその分ますます値段が高くなりますがね(泣)。ほんとにアマチュアは手を出しにくいですよねえ。
なお、このクラスの顕微鏡になるとでかくて重すぎるので屋外に持っていくのは困難です。照明用に電気のコンセントが必要になりますし。屋外用には前回紹介したファーブルを使いましょう。

顕微鏡による写真撮影については、これまた特殊なノウハウの世界になってきますので今回は紹介しません。ただ、デジカメがあればすべてオッケーというわけでもなくて、被写界深度が狭くなる(ピントの合う範囲が狭い)とか、光量が足りない(特に高倍率になると)とかいった問題は必ず発生してきます。カメラの基本原理について少しは勉強しないといい写真は撮れないかもしれません。
ああ、そうそう、写真を撮る時には特に対象物をいじらなければならない(例えば、向きを変えたり、脚を広げたり、翅をひろげたり)のですが、対象物があまりに小さすぎて取り扱いが難しい、という問題もあります。1cm以下の昆虫になると、かなり細いピン先のようなもので扱わねばならなくなります。0.5mmのシャープペンシルの芯でも太いぐらいです。しかも、非常に繊細ですので、ちょっと力を入れすぎるだけで昆虫の脚がバラバラ、なんてこともしょっちゅうです。
ううむ、こう書くと本当にアマチュアには手が出せない代物ですよね。しかし、鳥の写真を撮る人には数十万円もする超望遠レンズを持っている人も少なくないわけで、それに比べれば顕微鏡だって…とも思いますが。


ついでにルーペの話もしましょう。
ルーペは顕微鏡よりもはるかに簡便で軽くて安いものです。ただし、顕微鏡の代わりにはなりません。それは倍率が低いからです。ちょっと調べてもらえばわかるのですが、ルーペの倍率は2〜5倍程度です。実体顕微鏡は20倍程度以上で、この差はかなりあります。これは見る対象が違う、とも言えます。ルーペは肉眼で認識できるものを見るもの、実体顕微鏡は肉眼では見分けられないものを見るもの、ということです。
ルーペの中には10倍、20倍の倍率を持つものがありますが、それらはレンズの直径が小さくなります。これはおそらく技術的な限界があって大きくできないのだと思います。倍率が高くてもレンズが小さくては見える範囲も狭くなるわけで、使い勝手がいいとは言えません。
ルーペを使うにしろ、顕微鏡を使うにしろ、状況に応じた使い分けが必要、ということですね。


顕微鏡を使った話題は、そのうち、いつかまた紹介できるかもしれません。その時をお楽しみに。


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