いきもの通信 Vol.354[EXTRA]シンカのかたち・進化で読み解くふしぎな生き物/その1・ゲテモノ生物画家誕生? 

Vol. 354(2007/4/1)

[EXTRA]シンカのかたち 進化で読み解くふしぎな生き物
その1・ゲテモノ生物画家誕生?

シンカのかたち 進化で読み解くふしぎな生き物
監修:遊磨正秀、丑丸敦史
著:北海道大学CoSTEPサイエンスライターズ
イラスト:宮本拓海
発行:技術評論社 価格:1659円(税込)  ISBN978-4-7741-3062-0

今回は久しぶりに新刊のご紹介です。ただし、私はイラストを担当しただけで本文にはノータッチです。そのため、これから書く紹介文でも本文についてはふれません。その代わり、イラストレーターの立場から語っていくことにしましょう。イラストレーターが自らの仕事について語る機会というのはあまり無いように思います。この「いきもの通信」でもイラストレーターとして語ることはほとんどありませんでした。イラストレーターが何を考えているのか、そういう立場からの話というのもたまにはいいでしょう。


今回の書籍はさまざまな分類群の生物が登場しています。普段目にすることのない生物が大半ですので、それを描く私は「ゲテモノ生物画家」と思われることでしょうね(笑)。
すべての生物は動物界、植物界、菌界、モネラ界、原生生物界という5つの「界」というグループで構成されています。今回、私はなんとそれら全部を描いてしまっているのです(描いてる時はあまり気にしなかったです(笑))。
動物や植物の絵を描く人はたくさんいますが、描ける対象が「鳥専門」とか「魚専門」という風にジャンルが限定されることが普通で、私のようにオールラウンドに描ける人となるとなかなかいないのではないでしょうか(←自画自賛(笑))。私はどんな生物も差別しませんので、注文されればたいていのものは描いてしまいます。
ただし、私はオールラウンダー(全方位対応)であってもオールマイティー(全知全能)ではありません。まったく知らない、まったく資料のない生物を描くことはさすがの私にも不可能です。ですから、この場を借りて表明するのですが、今回多種多様な生物の資料を集めていただいた著者の皆様、編集者には感謝しなければなりません。ある程度の資料なら自前で、あるいは探しに行けば見つけられるものですが、今回取り上げた生物は資料が極端に少ないものがかなりあり、自力ではとても資料収集はできませんでした。
最近はネットでの資料探しもやりますが、当たり前のことながら、すべての知識がネット上にあるわけではありません。今回は著者の方で一次情報源、つまり研究者に直接あたってくれたりもしたようで、なかなかいい資料も出てきました。それでも本当に無い情報もあるのです…。どれとは書きませんが、乏しい資料で描かざるをえなかったイラストも1つや2つではありません。どれがそうなのかは読者の皆様のご想像にお任せしましょう。

なぜこのようなことを最初に書いたのかというと、私に無茶な要求をする依頼が来ないようにするための予防線なのです(笑)。「これだけ描ける人なら○○も簡単に描けるだろう」などと思わないでください! 前にも書いたように私はオールマイティーではないのです!
イラストを描くにはかなり詳細な資料集めが必要です。同じような企画を考えている執筆者や編集者はこういう事情を考慮してから発注してください。

発注についてもうひとつ付け加えておかなければならないのが「時間」のことです。私は現在会社員でもあるため、以前に比べて作業速度が半分になっています。今回は全64点のイラストを描きましたが、これには約6ヶ月かかっています。以前なら3ヶ月でできたのですが…。もっとも、今回は資料収集に時間がかかっているため、フルに作業できたとしても4ヶ月以上かかっていたかもしれません(それぐらい資料収集は大変なことなのです)。

今回のイラストでは珍しい生物が多いのですが、では、これが世界初のイラストかというとそうでもないようです。参考資料の中にはたいていイラストが入っていました(論文のための線画・点描画を含む)。また、本に取り上げられる珍生物というのはたいてい過去にも取り上げられていたりするものです。世界初のイラストではないかと断言できるものはひとつもありません。ちょっと残念。


よくある質問

イラストを描いているといろいろ質問されることがあります。その質問と答えを紹介してみましょう。

「本物を見ずになぜ描けるのか?」

非常にまれですがこんな愚問をする人がいます。私が描くイラストの多くが精密画であるためなおさらそう思われるようです。
「本物を見なければ描けない」というのは馬鹿げた思い込みで、人間は大昔から想像力を駆使して絵を描いてきました。「モナリザ」は、人物部分はモデルがいたとしても、背景部分は明らかな想像です。ラスコーなどで有名な洞窟画はにはいろいろな動物が描かれていますが、洞窟の中に動物を連れてきて描いたわけではないでしょう。
もちろん、精密画を描くのは簡単ではありません。日頃から動物をよく観察し、動物学の勉強をし、資料をよく読み込み、資料が足りない部分は知識を総動員して想像し、絵を描くためのテクニックを磨く。そういった総合的な能力を必要とする大変な仕事なのです(←再び自画自賛(笑))。

「資料を丸写ししているのではないか?」

これはすごく失礼な質問です。他人の写真やイラストをそっくりそのままトレースしたり(線をなぞる)、コピーしたりすることは著作権にかかわる問題になってくるので慎重に避けなければなりません。時々写真丸写しする人がいるようですが、それは禁じ手です。
それでも簡単には回避できない事態もあり、今回の例でいえば、タラバガニやズワイガニ(p50)のように、真上から描かざるをえない生物はどうしても似てしまうものです。こういう場合は仕方ないという判断もされることがありますが、私は脚の開き方などを少しずつずらしたりするなどの工夫をしています。また、私は定規は比率の測定ぐらいにしか使っておらず、ほとんどはフリーハンドで描いているので参考資料とぴったり一致するようなイラストにはなりません。
ガジュマル(p22、しめ殺しイチジク)の場合はもっと手が込んでいます。これはネット上にある複数の写真を参考にしていますが、そのどれとも異なる視点からのイラストにしています。その結果、私の頭の中の想像で補わねばならない部分も少なくなく、現実の風景とはずいぶん違ったものになっているはずです(それに、元々の写真の解像度が低すぎるのでかなり脳内補完しなければならない)。これも著作権問題を回避するための措置です。もし、このイラストを参考にするような追随者が現れたならば、現実と異なる箇所までコピーすることになります。私のイラストを参考にしたことは簡単に見破れるでしょう。

「タブレットで描いているのか?」

これは特に多い質問ですね。私の場合は「ほとんど使わない」というのが答えですが、これはイラストレーターによってさまざまで、100%タブレットで描く人もいれば、100%マウスで描く人もいます。「マウスだけで描けるのか?」と驚かれる方が多いだろうことは容易に想像できますが、私に言わせればまったく不思議ではありません。多分、Windows付属の「ペイント」で絵を描こうとしてうまくいかなかった経験を持つ方は非常に多いのでしょう。その経験から「マウスはダメだ」と思うのでしょうが、それはマウスが悪いのではなく、「ペイント」が悪いのです。あれはまともに絵が描けるソフトウェアではありません。一方、例えばPhotoshopはイラストを描くのに向いているソフトウェアですが、それでもそれなりに練習・習熟する必要はあるでしょうね。
さて、私がどういうところでタブレットを使っているのかというと、主に哺乳類の体毛の部分です。細い毛をマウスで描くのはさすがに効率が悪すぎますし、流れるようななめらかさをだすことができません。そこでタブレットの出番になるわけですが、作業効率を上げるためにちょっとした秘策もあったりするのです(これは企業秘密ですので教えられません)。
他にもタブレットを使っている箇所はありますが、つまりはマウスかタブレットかあるいは他の方法を使うかは、それが効果的か、効率的か、といったことを考慮して判断することです。その判断基準は人によって違うのも当然で、どれが正解ということでもありません。


さて、今回は本の紹介というよりもイラストレーター裏話になってしまいました。次回は本の内容に関係することをちゃんと紹介しますのでお楽しみに。


今回描いた生物のリストを分類別に載せておきます。64点以上あるのは、1項目に複数の生物が登場することがあるからです。

[動物界]
(哺乳類)メクラネズミ、イヌ(セント・バーナード、チワワ)、タイリクオオカミ、バイカルアザラシ、ネズミイルカ、カモノハシ、ステラーカイギュウ、カヤネズミ、ヒヨケザル、グリプトドン、ココノオビアルマジロ、ハダカデバネズミ、ナミチスイコウモリ
(鳥類)タマシギ、ジュウシマツ、アデリーペンギン
(爬虫類) アフリカタマゴヘビ、アオマダラウミヘビ、ミミズトカゲ、コロラドハシリトカゲ
(両生類)ブーランジェーアシナシイモリ、コキーコヤスガエル
(魚類)カワヤツメ、コオリカマス
(その他・脊索動物門) スボヤ
(無脊椎動物・昆虫) ジャイアントウェタ、コシアカスカシバ、キイロスズメバチ、クロヤマアリ、ヤマトシロアリ、コピドソーマ、シャクガ、アザミウマタマゴバチ、アズキマメゾウムシ、イチジクコバチ、エンドウヒゲナガアブラムシ、オドリバエ、セイヨウミツバチ、ヒラズオオアリ
(その他・無脊椎動物) カギムシ、アリグモ、ミミックオクトパス、ベニクラゲムシ、ニセツノヒラムシ、タラバガニ、ズワイガニ、ミジンコ、ダイオウイカ、メガスコリデス、イソスジエビノハラヤドリ、ムカデミノウミウシ、ニセトゲクマムシ、ニセネグサレセンチュウ、コオリミミズ、スケーリーフット、ユノハナガニ、オセダックス、ベニクラゲ、テングミズミミズ、サナダムシ、ヤリイカ、コケムシ、ツノテッポウエビ

[植物界]
しめ殺しイチジク(ガジュマル)、ウォーキングパーム、セコイア、アリノスダマ

[菌界]
ターマイトボール

[原生生物界]
渦鞭毛藻、ボルボックス、パンドリナ、ユードリナ、クラミドモナス、トキソプラズマ、ハテナ、タマホコリカビ

[モネラ界]
ボルバキア、ブフネラ


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