Vol. 358(2007/4/29)

[今日の勉強]イルカとサメ、どう違う?

今回はまずテストから。

問題1 イルカの絵を描いてください
問題2 サメの絵を描いてください

…さて、描けたでしょうか?
イルカとサメをちゃんと描き分けられたでしょうか? 描いているうちにどっちがどっちかごちゃごちゃになって混乱してしまった人もいるでしょう。
イルカとサメは体のつくりがよく似ていますが、はっきりとした違いもあります。それらを理解していれば描き分けることは難しくはありません。
また実用的には、「海岸に謎の生物の死体がうちあげられている」という場面で、それがイルカなのかサメなのかを簡単に判定することができるようになります(そうめったに出くわすことはありませんが)。
それでは、イルカとサメの違いを解説していくことにしましょう。

尾びれ

イルカとサメの最も重要な(そして意外と認識されていない)外見上の違いは尾びれです。イルカの尾びれは水平に、サメは垂直についています。この違いはそれぞれの泳ぎ方の違いを表しています。テレビや水族館で見た彼らの泳ぎ方をよく思い出してください。イルカは体を縦に振って泳ぎます。だから尾びれは水平です。サメは体を左右に振って泳ぎます。だから尾びれは垂直(イラスト青矢印)。
サメに限らず魚類はすべて体を左右に振る泳ぎ方です(ウナギも!)。体を左右に振るのは爬虫類も同じで、例えばヘビが泳ぐ時もそうですし、ガラパゴスウミイグアナやワニも同様です。
イルカが体を縦に振るのは、イルカの祖先が陸上動物だったことに理由があります。陸上動物は走る時に体を左右にくねくねさせていては効率的に走れません。イヌ類やネコ類の走り方を思い出してほしいのですが、体をバネのように使って、つまり体を縦方向に使ってこそ高速な走りができるのです。イルカはそういった陸上動物だったころのなごりを残しているのです。

呼吸

これも非常に基本的ながら見落としやすいことです。
サメは魚だからエラがあります。これは誰でもご存知でしょう。ただ、普通の魚は水が排出される鰓孔(さいこう・えらあな)は1対だけです。サメ類は鰓孔は5〜7対ぐらいあります。これが描かれていないとサメらしく見えないはずです。鰓孔が複数対ある魚類は他にはエイやヤツメウナギがあります。いずれも起源が古い魚類の特徴なのです。ヤツメウナギとは「八つ目」という意味で、側面に眼のようなものが8つ並んでいることからの命名ですが、実際に眼なのは一番先頭の1対だけで、あとの7対はすべて鰓孔なのです。
一方のイルカは哺乳類ですからエラはありません。肺呼吸をするために、頭頂に呼吸のためのあな(噴気孔=鼻孔(鼻の穴))があいています。

ひれの配置に注意

図のように、サメは背びれ、第2背びれ、胸びれ、腹びれ、臀(しり)びれ(尻びれ)、尾びれ、とたくさんのひれがあります(第2背びれは無い種類もある)。これらの数を正しくちゃんと描ける人は少ないでしょうねえ…。
イルカは、胸びれ=前脚、背びれ、尾びれしかありません。中にはスナメリのように背びれがない種類もいます。またクジラもイルカと同じグループ「クジラ目」で、背びれが無いか、あっても小さいものです。もっとも、クジラとイルカの境界はあいまいで、シャチやベルーガのようにクジラともイルカとも言いにくい種もあります。
サメに比べるとイルカのひれはずいぶん少ないのですが、それによって運動能力が劣るということはありません。イルカもサメも推進力は尾びれで得られるものです。他のひれは推進力にはなんら貢献していません。大きな胸びれ、背びれでさえもっぱら姿勢安定板としての役割しかありません(例外は巨大な胸びれを持つザトウクジラで、これは明らかに推進力を持っています)。つまり、ひれの数は少なくても運動能力には問題はなく、サメの方が余計なひれを持ち続けているとも言えそうです。


以上のように、尾びれの向き、鰓孔・噴気孔、各ひれを正しく描ければ、サメらしい、あるいは、イルカらしい絵が描けるはずです。
また、海岸に打ち上げられた謎の生物死体も、鰓孔やひれを確認すれば、イルカ(クジラ)なのかサメなのかぐらいの判断はできるはずです。

サメは起源が古い魚類で、4億年前には存在していました。一方のイルカ(クジラ)は恐竜が絶滅した後の新生代に登場した新しいグループです。
起源も時代もまったく異なるのによく似たフォルム(形状)にそれぞれ進化した理由は、それが高速で泳ぐのに有利な体型であるから、と推測できます。サメもイルカもどちらも動物食で積極的に狩りをする、という似たような食性がこのフォルムを導き出したのでしょう。


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