いきもの通信 Vol.363[今日の事件]環境省・クマ類出没対応マニュアルが公開 

Vol. 363(2007/6/3)

[今日の事件]東京・汐留でハクビシン捕物帳事件

テレビの報道番組では時々動物ニュースが取り上げられるので、事前に新聞のテレビ欄で確認できた場合はなるべく録画するようにしています。今回の動物事件もそのひとつです。


5月27日(日)に放映された日本テレビ「真相報道バンキシャ!」では、「日テレに”害獣”が出現・部屋を破壊…都心に出没の謎」というタイトルでハクビシンを取り上げていました。
その中でメインで扱われていたのが、日本テレビ本社「日テレタワー」に現れたハクビシンでした。日テレタワーは汐留の再開発地にあるビルです。「汐留」とは昔の地名で現在の住所表記には存在しません。かつて国鉄の汐留貨物駅があった場所、と言えばおわかりになる方もいるかもしれません。現在は「東新橋1丁目」となっています。実際、JR新橋駅にも近い場所なので「新橋」と言ってもいい場所です(日本最初の鉄道は新橋〜横浜間に開業したが、その新橋駅があったのは汐留だった)。
日テレタワーにハクビシンが現れたのは20日(日)。映像から時刻は夜だったようです(人通りもあったのでそう遅い時刻ではないようです)。ハクビシンは建物の1〜2階の外壁のでっぱりを歩いたり、壁を登ったり(!)、店のひさしからジャンプして地上に降りたり、エスカレーター(建屋外)を駆け上がったり駆け降りたりしていました。それを警察だか警備の人だかが網を持って追い回し、最後は捕まえてしまいました。

まず疑問を指摘しなければなりませんが、なぜハクビシンを捕まえなければならなかったのでしょうか?
野生哺乳類・野生鳥類は鳥獣保護法によって許可のない捕獲は禁止されています。「害獣は捕まえてもいいのだ」と思われる方がいるかもしれませんが、その場合でも実際に損害が発生して初めて捕獲できるのです。汐留に現れたハクビシンは何か悪いことをしたのでしょうか? 映像ではハクビシンが暴れているようにも見えますが、大勢のヒトに追い立てられればハクビシンでなくても興奮しますよ。そのままほっとけば静かにどこかに立ち去ったことでしょう。
都会に野生哺乳類が現れると「捕まえなければ」と思う方は少なくないようですが、法律上それはできません。これは覚えておくべきことです。
(これがニホンザルだった場合、野生ではなく飼育個体である可能性が高いので、捕獲しても問題は少ない(鳥獣保護法の対象は「野生」のみだから)。ただ、それでもまずは都当局に相談すべきだろう。)

この番組「真相報道バンキシャ!」についてもちょっと文句を言っておいた方が良さそうです。
まず、番組冒頭でハクビシンを「強い攻撃性を持ち、これまで人間の生活に様々な被害をもたらしてきた」と紹介していますが、ハクビシンが「強い攻撃性」だなんて初耳ですよ(笑)。
番組では箱わなにかかったハクビシンがかみつくようなそぶりを見せたシーンもありましたが、狭いわなの中の野生動物が攻撃的になるのは当たり前でしょう。ハクビシンに限ったことではありません。
誤解を招くような内容だな〜、と思って見ていたら、最後にアナウンサー氏が「ハクビシンから人を襲うことはありません」とフォローをしていました。おいおい、さっきの「強い攻撃性」はどこに行ったんだ?(笑)

また、番組ではアナウンサー氏がハクビシンを「広く言うと野生のネコ」とも言っていました。これには「ハァ?」ですよ(笑)(笑)。
なぜアナウンサー氏がそんな意味不明なことを言ったのかというと、ハクビシンの分類を「ネコ目ジャコウネコ科」と番組中で紹介しているからなのです。この分類、間違いではありません。でも非常に誤解を与える表現です。
まず、「ジャコウネコ科」は「ネコ科」とは別物です。ネコ科にはイエネコ(私たちのまわりにいる普通のネコ)やライオン、トラ、ヒョウ、チーター、イリオモテヤマネコといった動物が含まれます。ジャコウネコ科は日本ではなじみのない動物で、ピンとこない方がほとんどでしょう。比較的有名なものではスリカータ(ミーアキャット)という動物がいます。分類上はマングース科に近く、以前はジャコウネコ科とマングース科はひとつの科にまとめられていたほどです。「ジャコウネコ」というのは日本でつけられた名前であり、ジャコウネコ科がネコに近いという意味ではないのです。(ちなみに英語ではcivetまたはgenetという名前がついている種類が多い。)
そして「ネコ目」ですが、これまたまずい名称です。ネコ目は以前から「食肉目」とも呼ばれています。「ネコ目」という名称は近年になって文部科学省が推進している新しい名前で、教科書では多くが「ネコ目」になっています。また、それにあわせて子ども向け図鑑でも「ネコ目」が増えています。
「ネコ目」というとネコの仲間のようですが、実際にはイヌもクマもパンダもイタチもアシカもアザラシも「ネコ目」=「食肉目」なのです。具体的には、イヌ科、クマ科、アライグマ科、イタチ科、ジャコウネコ科、マングース科、ハイエナ科、ネコ科、(レッサーパンダ科?)、アシカ科、セイウチ科、アザラシ科が含まれています。これらを全部ひっくるめて「ネコ」というのはかなり違和感があります。動物分類学を知らない人だと「ネコ目=ネコ科」と思い込んでしまいかねません。番組アナウンサー氏が「広く言うと野生のネコ」と表現したのも、「ネコ目でジャコウネコ科ならネコだ!」と早とちりしたのが原因でしょう。これでは「イヌはネコ目だからネコの仲間だ!」と言うようなものです。確かに、イヌもネコ目(食肉目)ですので間違いではないのですが、納得できる表現ではありませんよね。
(この文部省推薦の命名は、専門家の間ではすっごく評判が悪いのです(笑)。)

この番組には他にもツッコミどころがいろいろあって、
・ハクビシンの捕獲数(全国、有害鳥獣捕獲)が増えている、と言っていましたが、これは全国レベルでの数字であって、都会進出とは関係ないものです。
・ハクビシンは「鋭いツメ」と言っていますが、ネコと比べてそれほど強力というものでもありません。例えばアナグマの方がもっとツメは大きいです(地面に穴を掘るためにツメが発達している)。

この番組のように、動物の恐怖をことさら強調し、間違った知識や印象までも与えてしまうテレビ番組というのは今さら驚きはしません。ただ、いつまでたっても学習も進歩もしないのにはあきれてしまいます。
番組スタッフはもうちょっときちんと専門家に話を聞くべきです。また、専門家も番組内容にはもっと口を出した方がいいと思います。


最後に、ハクビシンが都心に現れたことについてですが、ハクビシンは23区内でもあちこちで目撃されています。ただ、私が収集しているタヌキ目撃情報よりは明らかに少なく、23区内では多くて数百頭というレベルでしょう。それでも数が減っている様子もないので自然繁殖ができていると考えざるをえません。このことから、ハクビシンはかなり長距離を移動できる動物なのではないかとも推理できます。
しかも、電線を伝い歩くこともできるほどの運動能力があるため、多少の障害があっても簡単に突破できるでしょう(タヌキの場合は地面を歩いてしか移動できないので、いろいろと障害が多く、あまり遠くへ行けない)。ですから、ハクビシンが汐留に現れても驚きはしません。

ハクビシンは重大な害獣とは言えませんが、だからといって無視していい動物でもありません。生息分布や生態にはわからないことが多く、もっと注目した方がいいと思います。
私は東京都23区内のタヌキを調べていますが、その過程でハクビシン情報に行き着くこともあり、気をつけるべき対象にしています。都会のタヌキの競合相手は主に野外ネコですが、ハクビシンもまた競合相手になる動物です。そういう観点からもハクビシンには関心を持っています。


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