Vol. 365(2007/6/17)

[今日の事件]有害鳥獣対策に自衛隊が協力?

最初に述べておかなければなりませんが、私は自衛隊否定論者でもないし肯定論者でもありません。また、ミリタリーマニアではないので詳細にはおかしな点があるかもしれませんがご了承ください。


さて、6月10日の朝日新聞(東京版)に次のような記事が載りました。


自民党は有害鳥獣対策の検討チームを設置。鳥獣害対策に対応できる人材が不足しており自衛隊の活用が必要と判断した。自治体の有害鳥獣対策計画に基づき、知事らが自衛隊の派遣・協力を要請する仕組みづくりを目指す。自衛隊の協力内容としては、防止柵の設置、わなの設置、耕作宝吉の草刈りなども想定している。


最初の私の感想は、「庭仕事に重機を持ち込むようなもの」でした。つまり、やり方がおおげさすぎ、そして、コストが見合わないだろう、ということです。

まずは、実際に鳥獣駆除に自衛隊が参加するとどうなるかを思考実験をしてみましょう。
まず条件として、これは平時の行動ですから当然法律に従って行われるものとします。
こういう場合に出動するのは陸上自衛隊ということになるでしょう。しかし、まさか鳥獣駆除に装甲車とか戦車を持ち出すわけはないでしょうから、出動するのは普通科(つまり「歩兵」)ということになります。
ちなみに人員規模は中隊=約200人、小隊=約40人、分隊=約10人ということですので、小隊が1つまたは複数参加することになります。
普通科の武装は自動小銃(軍用ライフルとかアサルトライフルといわれるもの)です。実際の狩猟では主に散弾銃が使われます。ライフル銃は、所持に制限があるのでその数は少なくなります。軍用銃と狩猟銃は使用目的も威力も異なるものです。軍用銃で狩猟をするというのはちょっと無理があるように思います。それに平時に軍用銃をぶっぱなすというのもちょっと抵抗がありますよね…。軍用銃をあきらめて狩猟銃を使うとしても、慣れないものに習熟するための訓練が必要になります。また、狩猟銃を購入して常備する必要もあるでしょう。
銃の問題はクリアしたとしても、実際に狩猟を行うのはまた別問題です。普段は対人・対兵器を想定して訓練しているのでしょうが、狩猟の対象は動物です。普段の訓練はあまり役に立たないでしょう。対象となる動物の習性や生態や行動パターンをよく理解して臨む必要があります。これは実際に現場に出て学ばなければならないことも多く、学習にはかなりの時間と手間がかかることを覚悟しなければなりません。そんなコストをかけられるのでしょうか?
また、鳥獣駆除の運用の問題があります。現実の運用ではすべてを陸上自衛隊に任せることはないでしょう。一般人のハンターも参加するでしょうし、地元民の案内ガイドも加わるでしょう。また、運用の全体を統括するのは自治体の公務員でなければなりません。状況によっては現状をよく理解している民間人が指揮をとることもあるかもしれません。つまり、陸上自衛隊といえども文民の指揮下で動いてもらわなければならないのです。指揮者が公務員であったり民間人(非公務員)だったりするのですが、それでも本当に問題はないのでしょうか?(文民統制=シビリアンコントロールという言葉がありますが、「文民」は事実上、総理大臣か閣僚のことを指すと考えるべきでしょう。下っ端の役人や民間人を意味しているとは思えません。)
鳥獣保護法の点からも問題があります。銃の発射はどこででもできるものではありません。住宅地や集落近辺では銃の使用はできませんし、公道上では狩猟自体が禁止されています。有害鳥獣駆除は通常の狩猟より若干制限がゆるいのですが、それでもいつでもどこでも銃を使えるようなフリーパスではありません。
つまり、農業被害・人的被害が発生するのは銃が使えない場所であることも少なくないのです。「鳥獣なんか銃でぶっ殺せばいいのだ!」なんてことで解決できる問題ではないのです。

上記記事によると、自民党の検討チームでは「銃による一斉捕獲・駆除を求める声が強く」とありますが、そんなことで自衛隊を引っぱり出そうというのは見当違いも甚だしいとしか言いようがありません。


有害鳥獣の問題は、それらを排除すればOKという性質のものではありません。その逆に、地域全体の自然環境保護・生態系保全という方向からアプローチしなければならない問題です。なぜ鳥獣が問題を起こしているのかその原因を探り、適正な生息数・捕獲数を算出しなければなりません。また、殺さずにすむならその方法を尽くすべきです。そして、地域の現状を把握するためには現地を長期間にわたって調査・研究するスタッフを配置しなければなりません。鳥獣害対策も銃を使わずにできることは多く、そういうことなら地域住民によって実行できることが多いはずです。こうしたことを実行した結果、それでもやはり人手が足りないというのなら自衛隊を導入するのもありでしょう。
自民党の案は、記事だけでは詳細が伝わりませんが、「まず自衛隊」「自衛隊が来れば全部解決」というスタンスのように見えます。しかし、ここまで書いてきたように、それはまったく都合の良い幻想にすぎません。
自民党の議員やスタッフの中に鳥獣駆除について詳しい人がいるとはとても思えません。また、自然環境や生態系といったことに精通している人がいるとも思えません(これは一般に言われる「環境問題」=温暖化とかリサイクルとかとは異なるものです。野生の動植物の問題なのです)。そんな人たちがあれこれ議論したところで何も有効な手は打てないでしょう。
(これは自民党に限らず、他の政党でも同じようなものです。私は最初から政治家に期待などしていません。)
まずやるべきは、エライ政治家さんがあれこれしゃべることではなく、実際に現場に立つ地元自治体、地元住民、そして自衛隊の実働部門による討議です。その方がより現実的な論議を期待できるでしょう。

いや、それよりも、そもそも自衛隊を導入しなければ解決できないものなのでしょうか。自衛隊出動のコストをもっと別の解決方法に割り当てるべきではないでそしょうか。
地域の自然環境を把握し、指導できる地域リーダー(組織)を整えることの方が先決であり、有効であると私は考えます。そういう地道な対策・行動こそ必要なのです。政治家のパフォーマンスなどは必要ありません。


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