Vol. 369(2007/7/15)

[今日の勉強]家畜はいつから家畜になったか

先日の新聞で、ネコ(イエネコ)の祖先はリビアネコ(リビアヤマネコ)であることがDNA解析でわかった、と報じられていました(朝日新聞東京版、2007年6月29日夕刊)。ネコの祖先がリビアネコであることは以前からほぼ確実とされていましたが、今回の研究で「確定」となったのです。

普段気にかける人は少ないでしょうが、いわゆる「家畜」と呼ばれる動物たちはもともと野生動物でした。それを人間が飼いならして、都合がいいように品種改良した結果が現在の家畜たちなのです。
他の動物を人間の生活のために使役するというのはかなり高度な文化と言え、他の動物ではあまり見られない現象です(例は少なからずありますが、品種改良まで伴うものはまず無いはずです)。植物を人間生活のために意図的に利用するのは「農業」と呼ばれます。家畜と農業は人間の文明と共に発展してきたのです。

最初に家畜化された動物はイヌです。時は1万年以上前。
イヌの先祖はタイリクオオカミ(オオカミ)であることは疑いありません。DNAでもイヌとタイリクオオカミではほとんど差異がないそうです。
オオカミが人間と暮らすようになった経緯は大昔のことではあってもなんとなく想像はつきます。例えば、親からはぐれた子どものオオカミを拾ってきた、あるいは単独オオカミがなんとなく人間たちのそばに居着いてしまった、などなど。オオカミは本来家族の結束が強く、群れで行動する習性があります。そのため、やはり集団で行動していた人間たちと相性が良かったのでしょう。

次に家畜化された動物は、ヤギ、ヒツジ、ブタあたりで、時期は8000年〜10000年前ぐらいでしょうか。それぞれ別々の地域で家畜化されたはずで(それぞれの原種である野生動物の分布が異なるため)、同時多発的に進行していたのでしょう。
ヤギの祖先はパサンと考えられています。乳用、食肉、毛が利用されました。
ヒツジの祖先はムフロンやアジアムフロンと考えられています。食肉と羊毛が利用されました。
ブタの祖先は明らかにイノシシ類ですが、地域によって祖先はヨーロッパイノシシ、アジアイノシシなどになるようです。ちなみに、ニホンイノシシは独立した種とされたり、アジアイノシシの亜種にされたりもします。ブタはもっぱら食肉が利用されました。
これらの中で最も品種改良が遅かったのはブタになるでしょうか。なにしろ、中世ヨーロッパのブタにはまだ牙があったというぐらいですから。そのため、ブタに突き殺されたという事件も発生しています。

ヒツジ、ヤギなどから少し遅れて家畜化されたのがウシです。時期は約8000年前ぐらいで、祖先はオーロックスです。このオーロックスは1627年に絶滅
してしまいました。食肉、乳用が利用されたのはもちろん、体格が大きいために農耕や運搬といった力仕事でも活躍しました。

ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシは「畜産動物」とも呼べる家畜動物で、農耕・畜産文化の発展と家畜化が同時進行していたことをうかがわせます。

ここでちょっと時代が空いて、約6000年前にウマが家畜化されます。祖先はターパンで、これも絶滅種です。ウマは食肉も利用されましたが、大活躍したのは牧畜の場ではありませんでした。
ウマが画期的な役割を得たのは、まず馬車としての利用でした。これは荷物を運ぶというだけではなく、戦車として大活躍しました。ここで言う戦車とは、古代の二輪馬車、チャリオットのことです。映画「ベン・ハー」の最大の見せ場、戦車競争に登場したのがチャリオットです。戦車以上に活躍することになったのが騎兵、つまり馬の背に乗った兵士です。戦車はメンテナンスが欠かせませんが、騎馬ならそういう心配はかなり減少します。
戦車にしろ騎兵にしろ、これらの軍事的影響力は絶大で、世界史でも重要な影響を及ぼしました。騎兵は自動車や戦車(現代の機械戦闘車両)が登場するまでの非常に長い間活躍することになりました。

やっとネコが家畜化されたのは約5000年前のことです。祖先は、最初に書いたようにリビアネコです。約5000年前というのは古代エジプト文明のことで、当時のネコの彫像やミイラなどが残っています。
ただ、ネコは家畜の中でも人間に慣れにくい性格だったことは明らかで、それは現代でも野良猫がいなくならないことからもわかります。

以上で挙げた動物たちは、人間とのつきあいも非常に長く、品種改良も重ねられ、もはや「野生動物」とは言えない別の動物になってしまったのです。イヌやネコが現在でもペットの王様であるのは、このような長い長い歴史の当然の結果です。
これらの動物の中には、明らかに人間的な感情を獲得しているとしか思えない動物もいます。例えば、イヌ、ネコ、ウマは人間とのコミュニケーションが高いレベルで成立しているように見えます。私の個人的な経験からも、イヌは人間と共有できる感情を持っているのは確かだと思えます(同じイヌ科でもタヌキとは理解できそうにないですな)。
こういった家畜動物に私たち人間が親しみを感じるのは不思議なことではありません。ですが、それと同じように野生動物に接するのは間違いです。コミュニケーションのとれない相手になれなれしくするのは、やはり危険としか言いようがありません。家畜動物と野生動物とははっきりと区別してつきあわなければならないのです。


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