いきもの通信 Vol.372[今日の動物]チョウトンボ/日本で一番美しいトンボ 

Vol. 372(2007/8/5)

[今日の動物]チョウトンボ

日本で一番美しいトンボ

このところ何かと忙しかったのですが、その合間にもトンボの写真を撮ったりしています。そんな写真の中でも久々にいいものが撮れました。下の写真の上と中がそれです。

翅の金属光沢が美しいですね。多くのトンボの翅は透明なので、このように色がついた翅に驚かれる方もいるでしょう。日本のトンボの中でも一番の美しさだと言っていいかもしれません。

このトンボの名前は「チョウトンボ」です。チョウだかトンボだかわかりにくい名前ですが、当然トンボの仲間です。
「チョウ=蝶」と呼ばれる理由には次のようなものがあります。

・チョウのように翅に色がついている

トンボにしては珍しく翅に色がついているから、というわかりやすい理由です。もっとも、チョウの翅は鱗粉がありますが、チョウトンボにはありません。これは大きな違いですが、金属光沢のあるチョウトンボの翅はチョウの鱗粉のような雰囲気もあります。

・チョウのようにひらひらと飛ぶ

トンボというと高速で飛行するヤンマ類を思い出す方が多いでしょうが、このチョウトンボはひらひらと、まるでチョウのように飛びます。しかも、翅に色がついているので遠目では本当にチョウが飛んでいるようにも見えます。ひらひらした飛び方は、翅の面積が大きいトンボの特徴でもあります。中でもチョウトンボは写真のように本体(腹)にも匹敵するぐらいの後翅の幅があります。翅が大きいことも、チョウっぽく見える要因かもしれません。

普通はこの2つの理由が引き合いに出されますが、私からもうひとつ付け加えましょう。それは「翅がチョウのように柔らかい」ということです。
さわってみた方はわかると思いますが、トンボの翅はチョウの翅に比べて硬く、しっかりしたものです。これはトンボの方が翅脈(翅の構造を支える線状のもの)がち密にあるためです。チョウの翅脈はトンボに比べると非常に単純なものです。
ところが不思議なことにチョウトンボの翅はチョウのような柔らかさなのです。普通のトンボなら少々乱暴に扱っても翅が折れたりはしないのですが、このチョウトンボの場合はそうもいきません。つかまえたら慎重に扱いましょう。

チョウトンボの翅の模様、つまり色がついた部分の面積は、個体によって異なります。写真からもそれがわかるでしょう。例えば写真上は後翅の先端に透明部分がありますが、写真中では後翅全体が色がついています。(※注:青色の発色が異なるのは光線の加減によるものです。)
トンボの翅に関心を持ってきた私にとって、この微妙な個体差がまた面白いわけなのですが、誰にも理解されないような気もします…。
チョウトンボの翅は普通は濃青ですが、ときどき黒金色の個体もいます(写真下)。黒いようでいて、光があたると金色に輝くという不思議な色です。手元の図鑑にははっきりと書かれていないのですが、メスの一部が黒金色になるのではないかと私は思っています。誰か捕獲して確認してほしいです。

こんな美しいトンボは、めったに見られない珍しい種類と思われる方がいるかもしれませんが、そんなことはありません。この写真も東京都23区内で撮ったものです。私が知っているだけでも23区内には何ヵ所かチョウトンボが見られる場所があります。私が知らない場所も他に何ヵ所もあるはずです。チョウトンボは東日本よりも西日本に多く見られる種類ですが、明るい場所を好むトンボですので正しい時期に生息地に行けば、簡単に見つけられます。
チョウトンボに限らず、トンボというものは種類によって生活場所が異なります。特に、トンボの場合は幼虫(ヤゴ)の時期は水中で暮らさなければならないという条件があるため、水環境と切り離せません。そのため多くのトンボは水場近くで見られます。もちろん、水場から離れたところで見られる種類もいますが、産卵の時には必ず水場に現れます。
チョウトンボも水場で見られる種類です。チョウトンボがよく見られる水場は例えば、池や水田といった場所です。さらに言えば、水生植物があるような場所、水深が浅めの場所の方が好みのようです。水質は少々にごっている方が好みです。
(「水がきれい=良い環境」と思い込んでいる方が多いのですが、生物にとっては水のきれい・汚いはそれほど関係ありません。もちろん、排水・汚水で限界以上に汚い水ではダメです。逆に、不純物のまったくない純粋の中で
は動物は生きていけません。)
チョウトンボの好む池や水田は都会にはあまりありません。都会でチョウトンボがあまり見られないのはそのためなのです。逆に、都会でも池や水田(あるいはそれに似たハス田、ショウブ田)がある場所ならチョウトンボを見ることができるかもしれません。トンボの好む環境を予習して、そういう場所で待ちかまえる、というのはトンボ探しの大原則です。意味もなくうろうろしてもダメなのです。
チョウトンボが現れる季節は、東京都23区内なら6〜8月頃です。太陽が照りつける暑い日だとより活発に飛んでいるような印象があります。


ところで、似た印象を与えるトンボに「ハグロトンボ」という種類があります。ハグロトンボは、名前の通り翅がまっ黒なトンボで、やはりひらひらとゆっくり飛びます。ただし、その場所は小さな川が流れる薄暗い林の中です。明るい池が好みのチョウトンボとは正反対ですね。


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